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なぜ、松のやは「290円朝食」にこだわる? ターゲティングとポジショニング戦略から見えた“必然”(6/6 ページ)

この価格設定は、同業他社と比較しても圧倒的である。

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ターゲティングとポジショニングによる戦略の違い

 前項でターゲットの話を軽く出したが、それと、そのターゲットに対する魅力の打ち出し方=ポジショニングについて深掘りしてみよう。

ターゲティング

  • 松のや:価格に敏感な顧客層(学生、低価格志向のビジネスパーソン)、肉好きの顧客に焦点を当てている。
  • 競合各社:幅広い年齢層、ファミリー層、健康志向の顧客など、多様なニーズに応える戦略を取っている。

ガッツリ食べられる「角煮かつ定食定食」(990円)(出所:松のや公式Webサイト)

ポジショニング

  • 松のや:「低価格で高品質なとんかつ・丼物を提供する専門店」として市場に位置付けられている。物価高騰時代において、価格競争力と専門性を最大の武器としている。
  • 競合各社:「多彩なメニューと高品質なサービスで満足度を提供する総合的な外食チェーン」としてのポジションを確立している。価格だけでなく、顧客体験全体での価値提供を重視している。

健康志向に応える「かつぶしオクラ牛丼ライト」(並:680円)(出所:すき家公式Webサイト)

松のやの戦略が示すもの

 「松のや」が物価高騰の中で290円の玉子丼朝食セットを提供できる背景には、徹底したコスト効率化と明確な戦略的ターゲティングがある。一方、競合他社が同価格帯での提供を実現できないのは、バリューチェーン上の構造的な違いや、ブランド戦略、ターゲット顧客層の広さによるものである。

 松のやの戦略は、物価高騰という市場環境を逆手に取り、低価格を武器に新規顧客を獲得し、ブランド力を高め、顧客を囲い込む巧みなものである。この戦略が長期的にどのような成果をもたらすのか、今後の動向に注目が集まる。

金森努(かなもり・つとむ)

有限会社金森マーケティング事務所 マーケティングコンサルタント・講師

金沢工業大学KIT虎ノ門大学院、グロービス経営大学院大学の客員准教授を歴任。

2005年より青山学院大学経済学部非常勤講師。大学でマーケティングを学び、コールセンターに入社。数万件の「本当の顧客の生の声」に触れ、「この人はナゼこんなコトを聞いてくるんだろう」と消費者行動に興味を覚え、深くマーケティングに踏み込む。(日本消費者行動研究学会学術会員)。

コンサルティング会社・広告会社(電通ワンダーマン)を経て、2005年に独立。30年以上、マーケティングの“現場”で活動している「マーケティング職人」。マーケティングコンサルタントとして、B to B・Cを問わず、IT・通信、自動車・電機・食品・家庭用品メーカー、金融会社、生損保、自動車販売、EC等、幅広い業種に対応し、新規事業・新商品開発・販売計画・販売のテコ入れ案・コミュニケーションプランの策定等、幅広くマーケティング業務の支援を行っている。講師としても業種を問わず、年間100コマ以上の企業研修に登壇。コンサルティング経験を元に企業課題に合わせた研修のオリジナルのコンテンツやカリキュラムを提供。研修によってマーケティングを「知っている」だけではなく、「業務に生かせるようになること」にこだわっている。執筆は、「初めてでもマーケティングが楽しく体系的に学べる本」をテーマに10数冊刊行。「3訂版 図解よくわかるこれからのマーケティング」(同文舘出版)など。


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