どのシステムで、何するんだっけ? “SaaS多すぎ問題”を解決に導く「DAP」とは:【連載】日本企業のDXには「DAP」が欠けていた(3/3 ページ)
多くの企業で、SaaSがあふれています。「どのシステムで、何するんだっけ?」とシステム迷子になる社員も出てきてしまうでしょう。
DX推進部門・IT部門視点の課題
次に管理者側を見てみましょう。DX推進部門・IT部門の視点で見た場合には、以下のような課題があります。一言で表現するなら「事業部門の変革を支えることが難しい」ということですが、さらに分解してみると以下のような要素があります。
変革に必要な業務プロセスデザインが困難
一般に、1社の中に約1900もの業務プロセスが存在するとされ、1つのシステムで完結しておらず、複数システムにまたがっている現状があります。変革は業務視点で進められるため、それぞれ独立して設計されたシステムを横断する業務プロセスの導線をデザインするためには、自社でSI(システムインテグレーション)を行うレベルで工数が発生しかねません。全ての業務プロセスでそのような対応を行うのは現実的ではありません。
社内全システムの課題発生箇所の特定が困難
実は、先に挙げた473システムが存在するという調査レポートの中には、その中の47%のシステムしかアクティブに使われていないという結果も存在します。つまり、まずは自社のどのシステムにどんな問題があるか把握する必要がありますが、俯瞰的に全システムを把握するのはなかなか困難です。
昨今、IT部門を通さずとも、事業部門や個人がSaaSで独自に外部のサービスを利用してしまうことが可能です。これにより企業には、シャドーIT、シャドーAIといったリスクが生じます。
アジリティを担保できない
一度、解決策を実行したとしても、それが最初から完璧なものであることはまれです。また、ビジネス、システム、ユーザーのスキルレベル・成熟度は常に変化するため、その変化に追随する必要があります。短いリードタイムで定常的にブラッシュアップする必要がありますが、内製化の難度は高いです。
システムを少しでも修正しようとすると、外部に依頼せざるを得ない場合も多いですが、リードタイムが長く、コストもかかります。
新しい機能の導入がタイムリーにできない
近年、システムをFit to Standard(標準機能に業務を合わせる)に近い形で自社に導入し、システム自体の機能向上があればタイムリーにそのメリットを享受するのが望ましいという考え方も知られるようになりました。しかし日本企業ではカスタマイズが多く、スムーズに新機能を導入することが難しい状況です。
CDO、CIO視点の課題
企業のCDO、CIOといった経営層の方々は、さらに視点が異なります。
IT投資対効果の最大化の実現およびITの力の企業間競争への貢献が困難
経営層が最終的に求めることは、ビジネスの競争力向上に帰着します。SaaS時代において、どの企業も同じようなシステムを導入するようになり、他社との差別化ポイントは「いかにシステムのポテンシャルを引き出せるか」になっています。しかし、それを実現する手段がありませんでした。
さまざまな変革に対するIT部門の貢献が十分でない
システムは、ビジネスに資するものであるべきです。つまりシステム単位ではなく、業務単位で変革できるようにするべきですが、業務変革視点での貢献を、システム導入以上に積極的に行える手段がなく、困難でした。
IT部門のアジリティが不十分
日本企業のIT部門は外部ベンダーをコントロールする一種のPMO的な側面があり、外部のリソースに頼ることが多いため、自社ITのコントロール権が十分にはない場合もあります。そのため、自社内でスピード感を持ってさまざまなシステム導入や改修を進めることが難しい状況です。
まとめ
現場のシステム利用者にとって、DAPの原点であるDASは「誰もが迷いやストレスなくシステムを使いこなせる」ことを目指しています。一方、DAPは「誰もが迷いやストレスなく、システムを意識することなく業務を完遂できる」状態の実現を目指すものです。
本稿で挙げたようなDX推進の課題を、今まで存在するソリューションのみで解決できるでしょうか? おそらく答えはNoでしょう。もしかしたら、ポイントごとに考えれば、課題に対応するソリューションが存在するかもしれません。しかし、数百という膨大なシステムに対するDX推進活動をエンドツーエンドでカバーできるプラットフォームでなければ、人手でカバーする部分が多く発生してしまいます。
それぞれのステークホルダーの視点での課題を並べましたが、特に変わるのは、IT部門やDX推進部門かもしれません。自社のビジネスに特化した業務を推進するため、「独立して作られたシステムを組み合わせて自社に必要な業務プロセスをデザインし」「問題を発見・解決・定常的にブラッシュアップしていく、一連のPDCAサイクルを短サイクルで回す」という必要がでてきます。
これらを一言でまとめるのは大変難しいのですが、現時点では「変革促進プラットフォーム」または「DXをDXするプラットフォーム」として覚えていただければと思います。
著者プロフィール:小野 真裕
WalkMe株式会社 代表取締役。1999年にNEC中央研究所にて研究者としてキャリアをスタート。その後、コンサルティング業界に転身し、アクセンチュアや日本IBMなどで活躍。日本IBMではコンサルティング部門のパートナーとして、AI&アナリティクスを駆使した戦略立案から実行支援まで、数多くのプロジェクトに従事。2019年11月にデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させるテクノロジーソリューションであるWalkMeに参画し、現在は同社の代表として、日本企業のDX推進を牽引している。情報理工学博士。
著書に『日本のDXはなぜ不完全なままなのか 〜システムと人をつなぐ「DAP」というラストピース〜』(2024年6月26日発売、ダイヤモンド社)がある。
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