エンタメ大国・韓国発AIオーディオ企業「Supertone」の実力 日本市場をいかにして攻略するか?(2/2 ページ)
BTSやSEVENTEEN、NewJeansなどのアーティストを擁する韓国HYBE傘下のAIオーディオ企業。その実力とは?
未来のAI音声データ
技術があっても、それをマネタイズしなければ「宝の持ち腐れ」になる。収益化としてはShiftやPlayのようなプロダクトのサブスク、クライアントの依頼に合わせた声のデザイン、外部アプリケーションと連動させるソリューションなどを考えているという。顧客対象は「音楽、ゲーム、ネット配信もそうですし、病院、観光、広告、銀行なども対象です」と幅広い。
「病院? と思うでしょうが、院内ではそれなりにアナウンスが流れています。銀行もそうですね」と話す。確かに銀行の窓口で、手元にある番号札が呼ばれるときの音は、いかにもコンピュータ音という感じだが、それが自然な声として流れてくるというわけだ。博物館であれば、展示物について音声ガイドを必要とするとき、Playを使えば一気に複数の言語に対応できる。この技術が一般化したあかつきには、どんな世界が待っているのか。Kyo Sun Choo氏は次のような事例をあげてくれた。
「葬儀屋さんと話す機会がありました。亡くなった方の声を復元して、遺言や葬儀で使いたいという相談がありました。声のサンプルは提供できると言っていました。ほかには、『ボイスバンク』のようなものを作り、家族の声をデータに残しておき、聞きたい時に自分でせりふを制作して、家族の声を聞くというものです。私たちは、音の所有者の権利を尊重し、AIの倫理原則に沿った形で、これらの要望やニーズにも向き合っていきたいと考えています」
以前、アーティストのYOSHIKI にAI YOSHIKIについてインタビューした際「僕が亡くなった後、AI YOSHIKIが生き続けるのは、ファンにとってはうれしいことなのかもしれません」と話していた(関連記事)。アーティストよりも肉親の声は当人にとって唯一無二の価値を持つものだからこそ、需要があると考えられる。
現状、ShiftなどのプロダクトはPC向けとなっているので、いずれ持ち運びできるスマートフォンなどでも快適に使用できるようにすることが「次のミッションで、ロードマップに入っている」という。
「翻訳機能のリクエストもかなり多いので、今すぐ対応するのは難しいですが、こちらも視野に入れて開発したいと考えています」
声を永遠に生かせる
人間にとって最高のコミュニケーション手段は言葉だ。ChatGPTが一気に浸透したのは自然な回答ができたからだった。読み上げの音声が自然な形であればあるほど、すっと自分の頭と心に入ってくる。Supertoneが開発した技術は、汎用性が高い。その上、少子高齢化による人材不足を補う上でも音声への需要は高まるだろう。
1969年創業の大手声優事務所・青二プロダクションと、AI音声プラットフォームサービスを提供するCoeFont(コエフォント)の提携は注目を集めた。『ドラゴンボール』孫悟空役の野沢雅子さんのAI音声を、演技領域以外で音声ナビゲーションなどに提供すると発表している。しかも複数言語でだ。これにより野沢さんの声は、世界のどこかで「永遠に生き続ける」ことになる。
ビジネスにおける音声の重要性が高さを証明するニュースだ。激化する音声市場には今後、いろいろな企業が参入してくる可能性がある。Supertoneは、どれだけ競争力を維持できるのか。世の中に浸透するかどうかのポイントになりそうだ。
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