YOSHIKIが描く「AIと音楽ビジネス」の未来 日本主導のルール整備はなぜ必要か(1/3 ページ)
日本を代表する作曲家・音楽プロデューサーでもあるYOSHIKIに、エンタメ業界でのAI活用の可能性と課題をインタビューした。
音楽プロデューサーのYOSHIKIが、AIを用いた本格的なサービスに乗り出した。
8月1日には、新しいファンコミュニティーサービス「YOSHIKI+」を開始。YOSHIKIとの会話を疑似体験できる機能「AI YOSHIKI」や、Zoomを使ったコミュニケーション「+FAN MEETING」などを、年内に導入するという。
AIはすでに、音楽を始めとしたエンターテインメント業界に影響を与え始めている。大量の著作物を学習データとして使用しているため、AIによって生成した音楽は「誰が作ったものなのか」という点で著作権の問題をはらむ。AIに依存することによって、作曲家の創造性を失わせる可能性があるともささやかれる。
2023年2月には米スタンフォード大学にて全編英語でAIについて講演。外務省北米局局長や在アメリカ合衆国日本大使を過去に務め、現在は日米協会の会長である藤崎一郎氏から質問を受けながらの講演だった(以下、特記がない場合はプレスリリースより)
エンタメにおけるAIの在り方について問題意識を持つYOSHIKIは、その活用方法について警鐘を鳴らしてきた。2023年2月には米スタンフォード大学で「世界のエンターテインメントとソーシャルテックの未来」と題してAIについて講演。2024年9月には米Salesforceがサンフランシスコで開催するAIクラウドプラットフォームイベント「DREAMFORCE 2024」で、米国の国家人工知能諮問委員会のメンバーである同社のPaula Goldman氏と討論する予定だ。
日本を代表する作曲家・音楽プロデューサーでもあるYOSHIKIに、エンタメ業界でのAI活用の可能性と課題をインタビューした。
YOSHIKI「AIによって著作権などの権利はほぼ崩壊した」
YOSHIKI+は、AIやPodcastを使ったコンテンツや、オンラインを介した本人とのコミュニケーションを可能にするファンコミュニティーだ。チケットの優先予約のほか、限定商品も販売する。会費はスタンダードを月額880円、プレミアムを1760円に設定した。
メインコンテンツになるのは「AI YOSHIKI」だ。複数の企業が参画する「AI YOSHIKI PROJECT」では、YOSHIKIの映像、音声、大規模言語モデル(LLM)などAI技術を活用してバーチャルヒューマン化したYOSHIKIを制作。113の言語対応を予定し、YOSHIKI+の新サービスとしてファンとの自由な会話を実現する。
音楽業界は、レコード、CD、ネット配信など上位互換による技術革新が頻繁に起こった業界だ。AIが与える影響についてYOSHIKIに見解を聞くと「作曲家の観点だけから見ると、AIは脅威です。すでにAIが作曲していますからね。破滅的に業界が変わると思います」と危機感をにじませた。一方、生成AIによって起こるハルシネーション(幻覚)には、偶然による新たな可能性も見いだしているようだ。
「ハルシネーションは面白いと思います。僕も作曲しているときに『急に、何だこれ?』みたいなことが起こって、想像できない自分が現れ、自分の許容範囲を超えた作品ができることがあります。でも、そこから新しい発想が生まれるんです。AIによるハルシネーションでも、そういうことが起こってくると思います」
AIにYOSHIKIの曲や過去のインタビューなどを数多く学習させれば、それこそAI YOSHIKIが彼に代わって作曲することも技術的には不可能ではない。作業効率を上げる観点からみれば、AIに依存する作曲家が出現する可能性もある。利益を追求する企業の論理でいえば、もっと積極的に活用してもいいはずだ。
8月1日の「YOSHIKI+」発表記者会見でYOSHIKIは、10月に首の手術をすると発表した。技術が進歩した未来に、もしこのようなことがあった場合、本物のYOSHIKIはリハビリに専念し、具体的な仕事はAI YOSHIKIに任せるという考え方もできる。しかしYOSHIKIによれば、生きざまや人生観を反映することを含めた曲作りは、AIにはまだ無理だという。
「作曲には生みの苦しみがあります。作曲家は本当に苦しんで、苦しんで曲を作ります。人生はジェットコースターのようにいろいろなことがあり、悲しみなど振れ幅があればあるほど面白く、その過程を僕はそのまま曲に反映させています。ただ、そういったことはAIにはまだできないんじゃないですか」
YOSHIKIは「AIに脅威を感じている」と話す一方で「僕は守りより攻めのタイプの人間なんです。だから恐れながらもAIの世界に自分から入っていき、自分自身でサービスを作ろうと思いました」と明かす。それがAIを使ったYOSHIKI+だったというわけだ。
「もしAI YOSHIKIを自分で作らなかったとしても、いずれ『フェイクYOSHIKI』みたいな偽物が現れるでしょう。事実、米国ではすでに著作権や肖像権に関しての裁判がたくさん起こり“裁判の雨”のようになっているんです」
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