YOSHIKIが描く「AIと音楽ビジネス」の未来 日本主導のルール整備はなぜ必要か(2/3 ページ)
日本を代表する作曲家・音楽プロデューサーでもあるYOSHIKIに、エンタメ業界でのAI活用の可能性と課題をインタビューした。
日本主導で「AIのルール作り」をすべきワケ
日本政府は8月2日、AIの法規制などを検討する有識者会議「AI制度研究会」の初会合を開催した。YOSHIKIは、音楽業界で生成AIを使うにあたって、著作権の保護にまだまだ課題があると指摘する。
「AIによって、著作権を含め多くの権利はほぼ崩壊したと考えています。AIはいろいろなアーティストの作品を学んでいますが、あるフレーズについて、どのアーティストのどの部分を学習したのかまで特定するのはなかなか難しいでしょう。だからこそルール作りが必要なんです」
AIの法整備については、日本だけでなく世界的にも議論が深まっているとはいえない。YOSHIKIは「僕は『アーティストの権利を守るべき』と考えていますが、その前提には『芸術の発展を止めてはいけない』という発想があります」と語る。
YOSHIKIは、初めてレコード会社と契約した20代のころから、アーティストの権利に関して強い問題意識を持ち、徹底的に勉強してきたと明かす。YOSHIKIによれば、音楽ビジネスの権利には大きく分けて、作詞家・作曲家と契約をした音楽出版社が持つ権利である「著作権」(音楽の出版権)と、レコード製作者の著作隣接権(原盤権)があるという。
「当時の契約では、原盤権はレコード会社に帰属するという契約をし、そこには納得しました。一方で、出版権に関して『ここにサインしてください』と言われたのですが、僕は出版権に関しては納得していなかったので『サインする必要はないですよね?』と返すと、レコード会社の人からは『そういうことになっているんです』と言われました。でも僕は最終的に自分で音楽出版社を立ち上げ、そこに権利を帰属させました」
「こういうものだから」というしきたりや慣例を引き合いに出して契約書にサインをさせようとしたのは、いかにも日本らしいエピソードだ。YOSHIKIは日米で、音楽ビジネスの構造が異なっていると説明する。
「良い悪いは別として、米国では基本的に成功したアーティストがCEO、つまり会社のトップなのです。アーティストがレーベルを決めたあとに『どうしたいか?』という点に関して、ビジネスマネジャーやエージェントなど、そのときに必要な人材を集めるのが米国流です。一方、日本では芸能事務所があり、そこに所属するアーティストがいて、その上でビジネスが進められますよね」
日本のようにアーティストが芸能事務所に所属していると、事務所の意向が強く反映されるため、アーティストが作りたい音楽を100パーセント作れる保証はない。つまり、ビジネスの主体がアーティストではなく事務所にあることが多いのが日本なのだという。
かつて日本企業は、ビデオやCDの規格作りを主導した。しかし、最近ではガソリン車の次のパワートレインの選択肢として、事実上、電気自動車(EV)がその地位を得たのは、欧米が力を入れた点が大きい。決算であれば、国際会計基準(IFRS)は欧州が起源だ。
さまざまな国際的なルール作りは、欧米が主導するケースがこれまでは多かった。だが日本が国際的な地位を落とし「失われた30年」と呼ばれる時代を経た今、AIの分野には「チャンスがある」とYOSHIKIは思っている。
「さまざまな点で、日本は何となく欧米で決まったことに従ってきました。しかしAIについては日本から『こうするべきだ』と発信し、日本が主導して決めていくほうが僕は良いと思います。今はまだそのチャンスがあると考えています」
日本がAIのルールメーカーになることができれば、さまざまな分野でビジネスチャンスが広がるはずだ。
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