ゴルフは「ただの接待」にあらず 隠された「ビジネススキル向上の秘密」を探る:グッドパッチとUXの話をしようか(2/2 ページ)
ゴルフにハマるビジネスパーソンは少なくない。ゴルフは、商談を成功に導くカギやビジネススキルを向上させるヒントも秘めているという。どういう意味かと言うと……
仮説検証で培われる、2つの思考モード
では、その「仮説検証」について考えてみましょう。
行動経済学や認知心理学では、人間の脳には2つの思考モードがあるとされています。反射神経的に即座に物事を判断し、その場で最適な答えを導く思考は「システム1」、これに対してじっくりと仮説検証を行いながら真実にたどり着く思考は「システム2」と呼ばれます。
システム1は過去の経験を必ずしも必要とせず、直近の状況から即座に判断できるため、経験や知識が少ない若者でも適切な判断ができるといわれます。一方、システム2は、蓄積された経験を基に正解にたどり着くことを目指すため、豊富な経験を持つ熟年者のほうが成果を得やすいと考えられます。
若者に人気のあるe-スポーツやオンラインゲームなどでは、蓄積された経験よりも、その場の状況から即座にどう行動するかを判断するスキルが求められます。つまりシステム1が優位に働くため、活躍する選手には若者の顔ぶれが並びます。
一方で、システム1とシステム2の関係は密接であり、システム2で蓄積された経験や判断基準が、システム1の反射的な判断力を高めるということも脳科学の観点から示されています。システム2で鍛(きた)えられた思考がシステム1に影響を与え、パフォーマンスを向上させることは紛れもない事実です。
ビジネスパーソンがゴルフに魅了される理由も、このシステム1と2の考え方で説明できます。ゴルフで培ったシステム2の思考力は、冷静で的確な判断が求められるビジネスシーンにも大いに役立ちます。
そしてこの思考を鍛える場として、外の空気を吸いながらリフレッシュもできるゴルフが最適であることは、数々の商談を成功させてきたビジネスパーソンだからこそ、気付ける真実なのかもしれません。
商談成功の秘訣は? 会話のタイミングにあり
取引先とゴルフに行く場合、朝早くから大抵の場合1日8時間ほど一緒に過ごします。長時間行動を共にすることで自然と気心が知れてくることや、プレー後に汗を流す温泉で「裸の付き合い」をすることでより打ち解けることは想像に難くないでしょう。
一方で、せっかくの休日に取引先に気を使いながら長い時間を過ごすことは、やはりしんどさも感じるのではないか。そう思った筆者は、商談に関わる話や仕事の話はどのタイミングで、どのようにされるのか、先述のグループ会社CEOに尋ねてみました。
意外にも仕事の話題はランチの時間のみで、それ以外の時間はほとんど他愛のない会話や、プレーに関する話をしているというのです。プレー中はゴルフに集中しているため、仕事の話をする余裕はなく、ゆっくり落ち着いて話せるランチの時間が最適なのだとか。
確かに、ゴルフには「紳士のスポーツ」としてさまざまなルールやマナーが存在します。例えば、他のプレーヤーの邪魔にならないように次のショットの準備をしておくことや、ミスショットやトラブル時の冷静な対応、スロープレーを避けるといった配慮が求められます。
ビジネスパーソンとして信頼を保つためにも、プレー中はマナーやエチケットを欠かさないことが重要です。さらに、挨拶や感謝を大切にすることや、自己申告でスコアを記録する場面では誠実さが求められます。ゴルフは一緒にプレーするだけで、相手がビジネスパートナーとして信頼できる対象なのかが自然と分かってしまうようです。
ゴルフ以外の「接待」の代表格である夜の会食を想像してみましょう。「接待である」と分かっていることに加え、会話がメインであるため、お酒の力が入ったとしても、取引先は心理的に少し構えることが予想されます。個室のように閉鎖的な空間で、集中する対象が会話と飲食に限定される会食は、実は難度の高い商談の場と化している可能性もあります。
一方で、屋外で芝の緑に包まれ、心身ともにリラックスした状態で、共通の楽しみであるゴルフをプレーした仲間として始まるランチの商談が受け入れられやすいこともまた、容易に想像できます。次のクロージングでは、「この間は最高のプレーでしたね!」で始まれば商談成立は間違いなし!……かもしれません。
つまり、取引先の相手は、接待だと分かりきっている飲み会より、シンプルにスポーツを楽しめる要素があるゴルフの方が誘いを受けてくれやすいのです。平日にコンペが開かれる理由もここにあり、仕事と称して堂々と趣味を楽しめるとしたら? 断る理由こそ、思いつきません。
体験でしか見つからない新たな発見
ここまでゴルフの魅力について言及してきた筆者ですが、冒頭で述べた通り、ゴルフは未経験で、どのように仮説検証を繰り返しているのか見たこともありません。
UXデザインでは、ユーザーの真意やニーズを探したり確かめたりするため、ユーザーの生活環境や特定の状況を観察しにいく「エスノグラフィ」という手法があります。ユーザーは自分自身が見たこと、聞いたこと、経験したことを記憶の限り話すことはできますが、周囲の状況が、どう自身の感情や価値観に影響しているかまで分析することは困難です。
そのため、時と場合によっては、ユーザーに語ってもらう「ユーザーインタビュー」よりも「エスノグラフィ」のほうが新たな発見ができる場合が多いのです。そのため、わたしたちUXデザイナーは「現場で起きてるんだ!」を合言葉に、ユーザーが体験している環境に足を運ぶことを意識しています。このゴルフの魅力もまた、ゴルフ場でしかできない発見があるに違いありません。
読者の皆さんは、ゴルフに限らず「食わず嫌い」しているものはありませんか? 「人生損してるよ」と言われるほどのものではなくても、体験してみるとビジネスにつながるヒントが見つかるかもしれません。
秋は「読書の秋」「芸術の秋」など、何かに取り組むきっかけを作りやすい時期。新しい挑戦をしてみてはいかがでしょう。わたし自身は「食欲の秋」に支配された体を元に戻すべく「スポーツの秋」を始めようと自分に言い聞かせていますが……。
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