「予算がない」過疎地域でも、命を守る「防災テック」を導入するには? 石川県の事例(3/3 ページ)
防災テックはどこまで進歩しており、どのようなことができるのだろうか。また、テクノロジーの導入が望まれる過疎地域ほど「予算がない」という問題には、どう対処すれば良いのだろうか?
行政と防災テックスタートアップが築くべき関係性
では、国内の行政が防災テックを効果的に活用するには何が求められるだろうか。まず必要なのは積極的に新しいテクノロジーを導入しようという意識改革と柔軟な対応だ。
西垣氏は「最新テクノロジーを採用したいと思っていても、予算要求のために議会で説明する前に、関係者の利害調整をしなければならない。それがなかなか大変で、トライするのが難しい」と背景を説明する。「そのような従来の手続きや慣習にとらわれない柔軟さが求められる」。
その上で、自治体がスタートアップ企業を選びやすくするような仕組みも必要で、「サービスカタログのようなものがあると良い」と補足した。
また、平常時から防災テックを活用し、データの蓄積やシステム運用に慣れておくことも大きな意味がある。緊急時にスムーズに活用できる他、課題や改善点の洗い出しが可能になり、より効果的なシステム運用につなげられる。
一方で地方自治体には、防災テックを導入する体力がないという課題がある。特に、その技術を最も必要としている過疎地域で、その傾向は顕著だ。
解決の糸口として西垣氏は石川県の状況を説明した。「石川県にプラットフォームを置き、財政基盤を県が受け持つ。また情報保護など難しい部分も県で行う。それにより、市や町といった自治体が、防災テック企業が取得したデータをサービスに組み込めるようになる」。
これなら、過疎地域の地方自治体であっても地方交付税に頼らずに利用できるため、サービス提供事業者も「来年は切られるかもしれない」という不安を抱かずに済む。必要なサービスを持続的に運用することが可能になるのだ。
スタートアップが必要とされるサービスを生み出せるようにするには、東京にこもらず、地方で検証することが重要だと西垣氏は考えている。
「今現在どこで作業しているのか分かるように、除雪車にGPSを搭載してもらった。しかし、市町村や県、国でバラバラに除雪車を運用しているため、住民は目的地までの道を調べるのにそれぞれのサイトを開くという手間を強いられている。
1つのサイトを開くだけで除雪車の場所が分かるサービスが必要だ、ということは、その地方で検証してみないと分からないものだ」(西垣氏)
米国では、防災テックではなく「レジリエンステック」という呼称で知られている。これは、困難に遭ってもそれをしなやかに乗り越え回復する力や弾力を指すレジリエンスと、技術を表すテックを組み合わせた造語だ。
村上氏は最後にこのような言葉で締めくくった。
「災害が生じると復興させようという思いが強い。つまり、元通りにしよう、という気持ちだ。元に戻そうとしているものは古いものかもしれない。
でも、レジリエンスを上げていく、災害が生じるごとにレジリエンスして上がっていくという意識を持てば、災害前より良い世の中にしていくことができる。その点で、スタートアップの技術を取り入れよう、という自治体がもっと増えてくれることを願います」
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