炎上乗り越え? 増収増益の「ちゅ〜る」いなば食品はなぜ“許されてしまった”のか:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)
2024年、いなば食品の不祥事が次々と発覚し、世間の注目を集めた。SNSでは「不買運動を起こすべき」という趣旨の投稿が盛り上がったものの、蓋を開けてみると、いなば食品の売上・利益は増収増益の順調な決算となった。なぜなのか?
「社会的制裁頼み」の状況には問題が
いなば食品は不祥事発覚後、迅速な対応を行った。新入社員辞退問題に関しては、原因となった社宅の環境改善を進めるとともに、公式声明で謝罪を表明。食品衛生法違反についても、静岡市保健所と連携し、再発防止策を公表した点は評価すべきだ。こうした企業側の対応も、さらなる延焼の防止に役立ったと考えられる。
しかしながら、企業に体制改善や適切な措置を要求する役割を、法的な規制ではなくSNSにおける炎上が担っている現状は、そもそも不健全ではないだろうか。
炎上とはそれ自体が一時的な感情の高まりに基づくものであり、必ずしも合理的な判断や適切な罰則を伴うものではない。また、ユーザーの憂さ晴らしや八つ当たりなども巻き込んで問題が必要以上に巨大になるリスクがある。
行き過ぎた炎上には、時に当事者に過剰なダメージを与えたり、無実の者が不当に批判されたりといった可能性がつきまとう。
非上場企業ならガバナンスは不要?
ここで注目すべきは、いなば食品が非上場企業である点だ。非上場企業におけるガバナンスの問題は、ビッグモーターのような他の大型非上場企業でも見られてきた。上場企業と異なり、非上場企業にはコーポレートガバナンスコードが適用されないため、内部統制が不十分になりやすい。
非上場企業といっても、年間の売上高が1000億円を超えるいなば食品や、数兆円を誇るサントリーのような企業も少なくない。上場企業には会社法により社外取締役の配置が必須となるが、非上場会社にはそのような決まりはない。
透明性とリスク管理を強化する境目として「上場しているか否か」という基準は、必ずしも本質的ではないのではないか。売上高のように一定の定量的な基準のもとで、社会的影響力に応じて社外取締役の設置を義務付けるなど、会社法の改正を含めた議論を検討しても良いタイミングだろう。
また経営者には、法改正などによらずとも、消費者の信頼を維持し続けるために自発的にガバナンス強化に取り組むことが必要だ。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Xはこちら
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