業務効率化に必須な「4つのポイント」 ブルーカラーのカイゼンをまねても、ホワイトカラーには無意味:ホワイトカラーの生産性はなぜ低いのか?(2/2 ページ)
ホワイトカラーが業務を効率化したいと考えるとき、トヨタの有名な「カイゼン」文化のようなブルーカラーの効率化手法をそのまま輸入しても、うまくいくわけではない。扱う対象の「性質の違い」があるため、これを踏まえて考える必要がある。業務効率化する際、おさえておかなくてはいけない4つのポイントを解説する。
(3)ホワイトカラー業務は「定型化・機械化」されにくい
多くのブルーカラー業務は、一定の品質のモノを多数作る・届ける、という「定型」業務であり、よってその作業は基本的に「定型化」されている。それぞれの作業工程を、どのような材料(インプット)に対して、どのような手順で・どの道具や機械を使い(プロセス)、どのような品質レベルで行う(アウトプット)のかを定めることは、あらゆるブルーカラー業務の生産性の中核を占めている。
またすでに多くの作業が「機械化」されており、機械のやっている仕事を人間が(機械なしで)代替することなどとっくに不可能になっている。これは製造業に限らない。例えばスーパーの店頭でPOSレジが止まったら? 鉄道駅で自動改札機が止まったら? 現場はたちまち阿鼻叫喚(あびきょうかん)となるだろう。
では、ホワイトカラー業務における「機械化」とは何だろうか? それは「ソフトウェア化」である。
前述の通り、ホワイトカラーが作り、届けているのはモノではなく「情報」である。言い換えれば、ホワイトカラーの全ての作業は「情報を収集(インプット)し、処理(プロセス)し、誰かに届ける(アウトプット)」ことに他ならない。
そしてこの情報の処理そのものについて言えば、デジタル(ソフトウェア)の能力はヒトと比べ桁違いに高い。ホワイトカラーの業務がソフトウェア化できれば、その部分の品質や生産性は、ヒトがやるよりも圧倒的に高くなる。従って本来は、ホワイトカラー業務もできるだけ機械化つまりソフトウェア化していくべきなのだ。
ところが実際には、ホワイトカラーの業務のかなりの割合が、ソフトウェア化されていない。なぜか? それは、ホワイトカラー業務は本質的に「定型化されにくい・できない」性質を多く持つからだ。その中から、本稿では3つだけを取り上げて説明する。
(a)作業手順を定めることにモチベーションを抱きづらい
情報の価値は常に相対的なので、単に「作業」手順を定めてもそれが価値につながりにくい。ブルーカラーは多数のモノに一定の品質と価値を持たせるため、作業手順を定型化する。
一方ホワイトカラーは、前項で見たように、定められた作業手順を踏んでも価値が出せないことがままある一方で、手順を踏まなくても価値が出せてしまうこともあるがゆえに、手順を定型化するというモチベーションが働きにくい。
(b)柔軟さが失われる
ヒトは極めて柔軟であり、その柔軟性が喜ばれることも多い。機械(ソフトウェア)化すると、定型処理しかできない。だがヒトは柔軟なので、例えば顧客や上司の要望に合わせて、手順を変え、柔軟に対応することができてしまう。
そして、それが喜ばれることも多い。「顧客の要望に柔軟に対応することこそが自分の仕事」「わが社の強み」という意識にまで達してしまうこともよくある。これは「おもてなし」という言葉が異常なほどの好感を持って受け取られる日本において、特に顕著である。
(c)作業者は非定型を好む
皆、非定型が好きである。そもそも、他人に指示された通り・決められた手順通りにやるのが好きな人はあまりいない。それよりは自分に裁量があり、その中で自由に(=非定型に)進められるほうが楽しいに決まっている。
また手順通りにやったところで「人並み」になるだけで、人並み以上にはならない。それなら定型化などせず、「自分のやり方」でやったほうが、差別化できる、と考える傾向もある。特に上位職(例えば役員)ほど、「非定型こそが自分の付加価値であり、自分のやっていることは非定型だ」と考える傾向が強い。
前述の通り、ブルーカラー社員が定型化を「好んでいる」わけではない。単に職務上、要求されているからそうしているだけだ。同様に、ホワイトカラー社員とて、「嫌いだ」からといって「しなくてよい」ということにはならないはずなのだが。
(4)「見える化」がしにくい
ほとんどのブルーカラー業務は、目に見える物理的なモノを扱うので、見える化しやすい。
それに対しホワイトカラーが作っている情報は、目で見る管理(見える化)が圧倒的にやりにくい。これもいくつかの複合要因であるが、本稿では3点を挙げておこう。
(ア)情報が「見えない」
そもそも情報とは、現代の企業においてはほぼ100%、デジタル管理されており、つまり「どこかのPCの中」にある。
しかし、PCの中にある情報はほぼ見えない。そのPCの所有者本人でさえ、フォルダを開かない限りほとんど見えないし、ましてや隣の席の同僚や上司には全く見えない。
(イ)情報の価値を判定しづらい
前々項で見たように、情報の「価値」とは極めて相対的であり、その情報単体では「良品」と「不良品」の区別をつけることはほぼ不可能である。ホワイトカラーが扱っている情報の大半は、次の工程へのインプットとなるいわば「部品」にあたるが、部品の段階ではその情報のよい・悪いは判定できない。
それができるのは前述の4つのテストが終わったとき=情報が完成して適切な相手に渡った後である。とくに情報の「鮮度」(新しさ)は決定的に重要になることが多いのだが、この鮮度も目で見る管理は難しい。
(ウ)業務の大半が非定型業務
前項で見た通り、ホワイトカラー業務の大半が「非定型業務」として扱われている。
以上(ア)〜(ウ)の全ての性質により、ホワイトカラー業務は見える化がしにくく、ブルーカラー業務のような「目で見る管理」は適用できない。
ということは、やはり、ブルーカラー業務に対するカイゼンのアプローチをそのままホワイトカラー業務に当てはめるのは難しいのである。
いかがだろうか。「ボトムアップのカイゼンが有効なのはブルーカラー職場だけで、ホワイトカラー職場にはそのままでは当てはまらない」と分かったらショックを受けられたかもしれない。
だが中には、ボトムアップのカイゼンだけが生産性を上げる方法ではないはず、とお考えになった方もいらっしゃるだろう。「うちのホワイトカラーだってばかじゃない。なんとかしてムダを省く方法を自ら考え、実践してきているはずだ」と。
残念ながら、さらに悪いニュースをお伝えしなくてはならない。ホワイトカラー職場では2つの理由によって、現場が「自ら考え、実践する」ことはできないのである。次回はこの問題について、詳しく見ていく。
著者情報:村田聡一郎
SAPジャパン株式会社 コーポレート・トランスフォーメーション ディレクター
外資系IT企業、スタートアップを経て、2011年SAPジャパン入社。「ITではなく経営目線から」を信条とし、顧客の企業変革に伴走する。
海外事例にも精通し、講演・執筆など多数。著書に「ホワイトカラーの生産性はなぜ低いのか〜日本型BPR 2.0」「Why Digital Matters? 〜“なぜ”デジタルなのか」(プレジデント社)。SAP「COO養成塾」事務局長。白山工業株式会社 社外取締役。「合い積みネット」共同創業者。米国ライス大学にてMBA取得。
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