10年で売上倍増 エレキギターFenderトップに聞く、日本市場の開拓法(2/2 ページ)
ナイキやディズニーでCFOやCMOを務め、2015年にフェンダーCEOに就任し、売り上げを倍増させてきたアンディ・ムーニー氏。同氏に、日本市場の魅力や展望を聞いた。
マーケティング費用を収益の4%から10%に拡大
今後の成長戦略については、マーケティング費用を拡大する姿勢を見せた。
「2015年にCEOに就任したときの売上高が4億米ドル規模の会社で、収益に対して4%をマーケティング費用に充てていました。2024年の売上高は10億ドル近くになると思いますが、収益の10%をマーケティングに費やします。その大半はSNSを通じてのマーケティング費用です」
そして「現在は年2回の大規模な新商品やサービスのローンチをしています。それ以外に、限定版やアーティストとのシグネチャーモデルの発売もあります。こうすることで消費者のエンゲージメントも保たれ、収入の確実な流れの確保が可能になります」と付け加えた。
学生時代に音楽を習っていた人はそれなりにいるものの、就職や仕事などの諸事情によって継続して演奏している人は多くはない。
「コロナ前のマーケットの成長率は1桁台後半くらいでした。新型コロナによって在宅時間が増え、私たちの推定では1300万人くらいの人たちが、ギターを始めてみようかな、また手に取ろうかと思い始めた感じでした」
ところが、せっかくギターを始めても90%は1年以内に止めてしまい、残りの10%はほぼ一生、楽器を演奏し続けるという調査結果が出たという。
「コミットしてくれる顧客は、生涯で平均7本ほどギターを買い、トータルで1万米ドルぐらいギター関連に対してお金を出してくれます。次の10年を考えたときに、300億米ドル近く費やしてくれる見込みが立つのです」
ずっと演奏を楽しむ10%の人を、15%まで拡大させる自信はあるかと聞くと、はっきりとは答えなかった。だが顧客のデータはそろっており、ECでの販売強化という経営戦略に反映させたようだ。
「私がフェンダーに来た当初、包括的なリサーチをして、購入者の特徴を理解する努力をしました。それによると、購入者全体のうち、初めてギターを買う人が45%で、そのうちの15%は女性でした。この人たちはアコースティックギターを選ぶのがほとんどで、オンラインで購入していました」
その背景には「既存の楽器店に初心者が入りづらい」という心理的なハードルの高さがあったようだ。逆に言えば、ECサイトの重要度が高いということになる。
「私が2015年に入社した時はオンラインでの販売割合は低かったのですが、今はオンラインでの直売にも注力し50%を占めるまでになりました」と話す。
1年で演奏をやめてしまう90%の人たちを含め、ギターの楽しさを大勢の人に知ってもらいたいという狙いから作ったのが、初心者でも数分間でギター演奏を学べるビデオガイド付きのプログラム「Fender Play」だ。無償部分では約100万人が登録した。
「サブスク会員は16万人いて、平均14カ月くらいは継続しています。初めてギターを買った人が、ずっと演奏する人になってもらえるように、Fender Playを通じて、できるだけ手助けしようという取り組みです。当社のみならず業界全体にとってもいいことのはずです」
ギター愛、客観的数字、現場
ムーニーCEOはフェンダーに入る前から、個人的にギターの演奏を楽しんでいた人で、現在は100本を超えるギターを所有しているという。
「結局のところ、ずっと演奏を楽しむ人は『十分にギターがそろった!』と思えることはないんですよ(笑)」と話す。経験豊かな経営者である前に、ギター愛にあふれた1人の人間なのだ。
その彼が、緻密な市場調査をし、数字的根拠を元に日本市場を開拓している。日本での滞在中の休日には、自ら街を散歩して旗艦店周辺の歩行者の多さを実感したそうだ。このような経営者が企業のトップであれば、日本でのフェンダーファンがさらに増えていきそうな気がしてならない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
フェンダーが表参道に旗艦店オープン “楽器の聖地”御茶ノ水を選ばなかった3つの理由
フェンダーが目指す今後のビジョンについて、フェンダーミュージック アジアパシフィック統括のエドワード・コール社長と、ジョルジオ・グエッリーニ財務責任者に聞いた。
フェンダー初の旗艦店「FENDER FLAGSHIP TOKYO」 2023年夏、原宿表参道にオープン
2023年夏、フェンダー初の旗艦店「FENDER FLAGSHIP TOKYO」が、東京・原宿表参道エリアにオープンする。
フェンダー、L’Arc-en-CielのKenシグネイチャーモデルを発売 ペイズリー柄は229万200円
フェンダーミュージックは、人気ロックバンド「L’Arc-en-Ciel(ラルクアンシエル)」結成30周年を記念して、ギタリストのKenが愛用するオリジナルギターを再現したシグネイチャーモデルを発売する。
YOSHIKIに聞く日本の音楽ビジネスの課題 THE LAST ROCKSTARSで「世界の市場を切り開く」
日本から世界を目指すロックバンド「THE LAST ROCKSTARS」。世界の市場に挑んできたYOSHIKIを中心に、日本の音楽ビジネスの課題と、同バンドによって新たな挑戦を始めた理由を聞いた。
楽天がHYDEとコラボした狙い NFTを軸にグループで水平展開
楽天が全国6都市全18公演のワンマンツアー「HYDE LIVE 2023」を開催中のアーティストHYDEとコラボを進めている。コラボは複数のグループ各社に及んでいて、NFT付きライブチケットなどを販売中だ。仕掛け人に狙いを聞いた。
HYDEが心酔した画家・金子國義 美術を守り続ける息子の苦悩と誇り
L'Arc-en-Cielのhydeさんが“心酔”した画家が、2015年に78歳で亡くなった金子國義画伯だ。金子画伯は、『不思義の国のアリス』などを手掛け、退廃的で妖艶な女性の絵画を多く残した。その作品を管理し、販売している金子画伯の息子である金子修さんに、アートビジネスの現場の苦労と、芸術を受け継いでいく難しさを聞く。

