人手不足が深刻化し「人への投資」による生産性向上は、企業経営にとって看過できないテーマとなっている。そのような中、リスキリングに対する企業の取り組み状況やその内容、課題はどのようなものなのか。帝国データバンクが調査を実施した。
業種間で差が生じている理由
リスキリングについて、「取り組んでいる」と回答した企業は8.9%にとどまった。また、「取り組みたいと思う」とした企業は17.2%となり、リスキリングに積極的な企業は合わせて26.1%となった。
一方で「取り組んでいない」という回答は46.1%に上り、半数近くが消極的である現状が明らかに。また、「意味を理解できない」(9.5%)、「言葉も知らない」(10.1%)という回答もそれぞれ約1割ずつ見られた。
リスキリングに「取り組んでいる」と回答した企業を業種別に見ると、最も多かったのは「情報サービス」で、20.5%に上った。この背景には、高度なITスキルを持つデジタル人材の需要が高いことが挙げられる。
次に多かったのが「金融」(19.5%)で、オンラインバンクの台頭など事業のデジタル化が進む中、行員に対するデジタル教育が活発化していることが要因と考えられる。これらの業種は、他の業種に比べてリスキリングの取り組みが特に進んでいる傾向が見られた。
リスキリングに「取り組んでいる」という回答は、大企業では15.1%だった一方、中小企業では7.7%、小規模企業では6.0%にとどまる結果となった。
従業員の過不足感別に取組状況を見ると、人手不足を感じている企業で「リスキリングに取り組んでいる」とした割合は10.0%だった。従業員数が「適正」または「過剰」と感じている企業に比べて高い結果となったものの、大きな差は見られなかった。
回答した企業からは「限られた人数で仕事をしているため、さまざまな研修を受けさせる時間がない。それよりも日々の指導や会議の場での指導に重点を置いている」(木材・竹材卸売、京都府)、「やりたいことは山ほどあるが、人材不足が足を引っ張っている」(一般貨物自動車運送、埼玉県)といったコメントが寄せられた。
リスキリングの内容については、新たな人材の発掘につながる「従業員のスキルの把握、可視化」が最も多く52.1%を占めた。当項目では「取り組んでいる」という回答よりも「取り組みたいと思う」という回答の方が、5.7ポイント高い結果となった。
2番目の多かったのは「eラーニング、オンライン学習サービスなどの活用」(47.5%)だった。一方で、政府が積極的に講じている「給付金・助成金などの申請・受給」は17.5%にとどまった。回答した企業からは「助成金をもっと使いやすいものにしてほしい」(不動産管理、大阪府)といった意見も見られた。
リスキリングに取り組む上での課題については「対応する時間が確保できない」が最も多く42.1%。次いで、「対応できる人材がいない」(38.9%)と続いた。
リスキリングに取り組んでいない企業と取り組んでいる企業それぞれの課題を分析した結果、リスキリングに取り組んでいない企業では、「時間」「人材」「ノウハウ」「費用」などのリソース不足が大きな課題として挙げられた。
一方で、リスキリングに取り組んでいる企業においては「従業員のモチベーション維持」に課題がある企業が多く見られた。回答した企業からは「明確な目的と達成目標がないまま行ってもモチベーションは下がるだけで、成果は望めない」(無床診療所、千葉県)といった声が多く寄せられた。
また、従業員の属性によってモチベーションが左右されてしまうといった意見も。回答した企業からは、「将来の生産性向上につながるが、高齢化する技術者へのモチベーションの維持が難しい」(土木建築サービス、愛知県)、「派遣人材はスキルやルールを教えても契約終了という現状があり、教える側のモチベーションにも支障がある」(旅館、群馬県)のような意見が集まった。
調査期間は10月18〜31日。調査対象は全国2万7008社、有効回答企業数は1万1133社。
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