【マネーフォワード、フリーを徹底比較】デカコーンへの成長に欠かせない協業、両社の違いは?:グロービス経営大学院 TechMaRI 解説(2/3 ページ)
本連載では、日本におけるデカコーンの有力候補としてマネーフォワードとフリーに注目し、その歩みを見てきた。今回は、両社の「協業戦略」について考察する。
【マネフォ】士業事務所との協業に成功 小規模事業者を獲得
マネーフォワードは、会計事務所との協業に成功している。2023年に会計事務所の中で使用されている会計ソフトのランキングにおいて1位を獲得するなど、浸透が進んでいることが分かる(船井総合研究所調査、2023年12月9日)。
士業事務所をエコシステムに積極的に招き入れる動きは、最近になって始まったわけではなく、創業期からの積み重ねの成果である。
創業期から士業事務所へ積極的に働きかけ
マネーフォワードは士業事務所の理解獲得のために、創業から程なく営業に奔走し始めた。日本全国の規模の大きな士業事務所に、CEOの辻庸介氏自ら営業訪問で赴いた。
先導的な会計系コンサルティング会社を含む、事業パートナーからの出資も受け入れた。この際、日本国内の地域差も踏まえつつ、地方営業拠点で志を同じくする人々と関係を築き、独自のコミュニティーを構築した。
マネーフォワードビジネスカンパニーCOO 竹田正信氏は、グロービス経営大学院のシンクタンクであるテクノベート経営研究所(TechMaRI)によるインタビューの中で、以下のように話している。
「小規模事業者の場合、自身で決算をやり切ることができずに、税理士のサポートを受けているケースが多いです。従って、会計ソフトをリリースした当初は、小規模事業者のお客さまにMFクラウド会計を選択いただけても、決算のタイミングで税理士が使い慣れた製品に切り替わるケースがよくありました。そこで、専門家に使いやすいサービスとして、士業事務所に支持されるクラウド会計を目指しました。例えば、操作画面はタブやエンターキーでカーソル移動をすることが一般的な会計システムにあわせたUIにしました。このように当社は士業事務所をペルソナにして機能を実装し、クラウドサービスでは通常考えない動作設計を“あえてよし”とすることもありました」
マネーフォワードは、2014年に「マネーフォワードクラウド公認メンバー」を開始し、インセンティブを含む士業との協業制度を導入した。公認メンバーには顧客紹介や顧客管理画面を提供。士業事務所がライセンスを一括購入し、再販することで、士業事務所にとってもメリットが得られる制度だった。
また、マネーフォワードクラウド公認メンバーの成功を後押しするための新部署を設立。電話対応を含め、積極的にサポートすると共に、彼らの声をもとにプロダクトを改善した。他にも、公認メンバーの顧問先である小規模事業者への導入がスムーズに進むように、業務プロセスに対する改善提案もした。さらに2020年には、士業事務所専用コミュニティサイト「BizBaseポータル」を開始。竹田氏は「士業の方々が、課題解決についてのノウハウ共有や情報交換ができるコミュニティを創っていくことも意識しています」と述べた。
このような士業事業所への直接的な働きかけに加えて、マネーフォーワードは、社会的な理解を得るアプローチもした。2010年代では、会計ソフトはオンプレミス型の既存製品が主流であり、クラウド型ソフトの認知と理解を高めていく必要があった。そこで2015年に、当時珍しかったスタートアップ主催イベント「MFクラウドEXPO」を、中小企業向けに開催。初回から1500人を集客することに成功した。
3回目の開催時の参加者には士業も2割ほど含まれ、満足度は9割以上となった。また、2016年からは「MFクラウド地方創生プロジェクト」を開始。商工会議所や地方銀行なども積極的に巻き込みながら、社会の流れを作り、貢献するよう意識的に働きかけた。
政府や官公庁への働きかけも増加
船井総合研究所の調査では、会計事務所におけるマネーフォワードのシェアは着実に伸びて、2021年13%から2023年には45%に達し、1位となった。顧問先が100社以上ある大規模な会計事務所への浸透も着実に進んでいる。
クラウド技術に対応する社会環境整備の必要性が求められるにつれ、マネーフォワードによる政府や官公庁への働きかけも増えてきた。Fintech研究所を2015年に設立し、省庁との対応を重ねたり、海外の調査レポートの翻訳をしたりしていたが、2020年、コロナ禍での緊急事態宣言下で、一歩踏み込んで「ペーパーレス・はんこレスの社会を目指す」旨、辻氏自らが政策提言をした。この中で電子帳簿保存法の要件緩和や電子証明書登録義務化などを提言している。
創業10年を迎えた2022年の統合報告書では、「前向き成長サイクル」というキーワードを設定。「社会を、そして人生をもっと前へ。」と、マネーフォワードのミッション「お金を前へ。人生をもっと前へ。」を一回り大きくした社会へのメッセージを打ち出し、社会全体のモメンタム(勢い)づくりに取り組んだ。
大企業向け業務コンサルティングをキーとした、さらなるエコシステム拡大の可能性も見えてきた。1000人以上の大手企業の導入の際には、プロジェクト難易度が高くなり、より優秀なコンサルタントが必要になるケースが増える。2018年7月に同社にグループジョイン(M&A)したナレッジラボにより、業務改善コンサルティングや導入支援サービスが提供され、マネーフォワード導入の決め手になったと述べる顧客もいる。
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