【マネーフォワード、フリーを徹底比較】デカコーンへの成長に欠かせない協業、両社の違いは?:グロービス経営大学院 TechMaRI 解説(3/3 ページ)
本連載では、日本におけるデカコーンの有力候補としてマネーフォワードとフリーに注目し、その歩みを見てきた。今回は、両社の「協業戦略」について考察する。
【フリー】少し出遅れ? 2020年以降士業事務所との協業強化
創業期は士業事務所よりもエンドユーザーを重視
フリーは創業時から、Web直販やSNSでの口コミで、先進的な小規模事業者が自ら導入する形で広がった。2012年7月会社設立後、2013年3月に「経理担当いらず」を旗印とした「クラウド会計ソフトfreee(現・freee会計)」をリリース。ここでターゲットとしたのは、経理担当者や士業事務所ではなく、先進的なスモールビジネス経営者だった。彼らの記帳時間短縮を提供価値として、インターネットで獲得することに集中した。そのため、詳しい会計知識を持たない経営者ユーザーでも、お金の出入りを起点に記帳できる革新的なインターフェースを備えていた。
高い革新性ゆえに、士業の協力獲得には苦労があった。従来型の経理システムに慣れたユーザーにとっては、フリーは「とっつきにくいプロダクト」ともいわれていた。創業時に多く見られたプロダクト導入の流れは、エンドユーザーからの要望で士業事務所が利用するというものだったが、士業事務所がフリーの導入に反対するケースもあった。
フリーのエコシステム構築の取り組み
こうした反対を受け、フリーも士業事務所との関係性を考慮した施策を積み上げていった。2014年1月に認定アドバイザー制度を開始。士業事務所を中心とした認定アドバイザー制度を構築した。
その後、士業事務所を支援するチームを拡大させると、士業事務所における活用も急拡大した。上場時には7300を超える士業事務所の登録を得ていた。
順調に認定アドバイザーの登録者数は増える一方で、ユーザー企業が抱く認定アドバイザーへの期待値との乖離が生じていった。認定アドバイザーのスキルの可視化やfreee会計の習得環境不備もあり、2020年7月に士業および財務コンサルティング向けのアドバイザー制度をリニューアル。この中で認定アドバイザーとフリーが相互にコミットする形を作った。フリー側からは個人資格拡充、学習環境整備、税理士検索サイトでの個人資格やスキル情報の掲載というメリットを認定アドバイザーに向けて提示した。同時に、認定アドバイザーのスキルを担保するために、(1)freee会計もしくはfreee人事労務の導入3社以上、(2)個人資格に1種類以上合格、(3)会費の支払い──の3要件を挙げた。さらに、会計士向けのカンファレンスを2021年に開始するなど、取り組みを強化した。
2022年8月発表の成長戦略では、会計事務所パートナーシップの強化を中期的な取り組みとして位置付けた。他社の会計システムに慣れた会計事務所に対してフリーの利便性を高めるために、従来型会計ソフトに近い仕訳入力画面の開発、証憑(しょうひょう)の画像データを自社ソフト向けの仕訳データに置き換えるサービスを他社会計ソフトにも広げるなどの対応がとられた。
2023年12月には、同社CEO 佐々木大輔氏は、フリーのアドバイザー向けに動画を発信した。この中で佐々木氏は、ユーザーの利用実態のリサーチを進めたうえで、ビジョンの「誰もが自由に経営できる統合型経営プラットフォーム」を提供するためには、会計事務所とのパートナーシップ強化が重要であることを認め、これまで会計事務所に向けた情報発信が不足していた点に反省を示した。そして、会計事務所が従来のやりかたや発想を大きく変えずにフリーの導入が可能になるよう、機能開発をする旨を伝えた。
2024年7月、 佐々木氏は業務フロー・コミュニケーション・データの3つの分断を起こさないソフトウェアの重要性を示し、業務に必要な情報をフリーのプラットフォームに集め、AI活用につなげていく未来像を語った。また、freee認定アドバイザーとの歩みを公開し、創業当時からのプロダクト改善の歴史を振り返りつつ、コミュニティー施策、freee認定アドバイザーの実績や改善を定量的に示した。さらに受電サポートを開始したことで、問い合わせのハードルを下げることができた旨を述べた(※3)。こうした動きが功を奏し、2024年に入り、小規模事業者のユーザー獲得につながりはじめた。
(※3)CEO's VOICE 2024年7月 | freee士業様向けサイト
まとめ
マネーフォワードとフリーの事例から、ユニコーンからデカコーンに向かうためのエコシステム構築戦略の仮説を、以下の通り提示する。
(1)【ビジネスモデルと協業】顧客の成功に不可欠なプロダクトやサービスを理解し、不足部分を補完するプレーヤーをステークホルダーとしてエコシステムに迎え入れる
ユーザーとERPベンダーのみでは、導入を成功に導けないケースが多い。コンサルタント、SIer、会計・税理士事務所などERPを推進できる協業者は、貴重かつ重要だ。マネーフォワード 辻氏は、創業期から自ら士業事務所を訪問して関係性を築き、協業体制構築に成功した。近年は、大企業向けコンサルティング能力を持つ会社をグループジョイン(M&A)で迎え入れ、大企業へのプロダクト導入の決め手の一つとなっている。
(2)【エコシステムと競争優位】関わる全てのステークホルダーを大切にし、互いに協力し合う関係を築く。相互に協力やコミットメントを引き出す制度を整備し、理解を得るためにコミュニケーションを取る
マネーフォワードは社会・業界・地域への貢献姿勢を明確にし、士業事務所とのWin-Winの関係構築を目指した。初期から訪問を行い、士業事務所向けの制度やプロダクト、支援体制を構築し機能させた。
社会の理解を得ていくために、大規模カンファレンス「MFクラウドEXPO」の開催や、地方創生プロジェクトの実行、ペーパーレス・はんこレスに向けたマネーフォワードの提言なども実施し、10年以上かけて会計事務所の中で最も使われるプロダクトのポジションを獲得した。
フリーは、2020年に認定アドバイザー制度を刷新し、フリーと士業事務所の相互のコミットメントを重視する制度に変更した。その後、士業事務所にさらに利用されやすいようにプロダクト整備や、イベント実施、代表自らの動画発信などエコシステム構築に力を入れた。これらの結果、2024年には、会計士とのパートナーシップの効果が出始めるに至った。
テクノベート経営研究所 副所長 /グロービス経営大学院 教員 高原康次(たかはら・やすじ)
テクノベート経営研究所(TechMaRI)副所長。日本発デカコーン創出のためのリサーチを行う。
グロービス経営大学院の創造エコシステム構築や創造系科目開発・リサーチをリードする。
代表室ベンチャー・サポート・チームリーダーとしてユニコーンを100社輩出することをビジョンとしたグロービスのアクセラレーションプログラム「G-STARTUP」を事務局長として立ち上げた。チームでは、グロービスの戦略的な投資プログラムを担い、約50社のベンチャーに投資を実施。民間公益活動向け助成金プログラムの審査員も務めた。
東京大学法学部卒業。
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