ユニクロの柳井氏は、なぜ「ウイグル綿花問題」を語ったのか 中国で炎上しても欧州を選んだ理由:スピン経済の歩き方(8/8 ページ)
英国BBCが報じたファーストリテイリング柳井正会長兼社長のインタビューが話題になっている。なぜこのタイミングで、これまで沈黙を貫いてきた「新疆ウイグル問題」に触れたのか。その狙いは?
「欧州と中国のどっちに良い顔をするか」問題
そこに加えて、2025年1月にドナルド・トランプ氏が大統領に返り咲くことも無関係ではないだろう。
ご存じのように、トランプ氏は北朝鮮の金正恩総書記を「ロケットマン」と呼ぶなど、公然と人をバカにするような予測不能の爆弾発言が持ち味だ。就任早々、中国へのけん制として、ウイグル綿花を用いたアパレルに対して「強制労働ファッションは米国に入れない」なんてことを言い出す可能性もゼロではない。
つまり、欧州ビジネスを是が非でも成功させたい柳井会長にとって、「新疆ウイグル自治区産の綿花は使ってません」宣言をするには、今がギリギリのタイミングだったというわけだ。
もちろん、これは全て筆者の憶測である。ただ、ユニクロが10兆円の売り上げとアパレル世界一を目指していくためには「中国と欧州のどっちに良い顔をするか」問題に、やはりどこかで向き合わなくてはいけない。
ユニクロとしても中国を捨てることはできない。柳井会長は「中国が重要な市場である」ことはたびたびアナウンスしているが、それ以上に欧州での地位も重要なのだ。
だから、中国の売り上げが大きく落ち込むことがあっても、ここで欧州の消費者から嫌われるわけにはいかないのだ。
このようにグローバル企業は、絶妙なバランス感覚の中で成長を目指さなくてはいけない。実は国も同じで、「あの国は反日だから付き合えない」「国交断絶だ!」と叫んでいるだけでは、国力は衰退していくだけだ。
1984年に1号店を出してから40年で3兆円企業に育てた天才・柳井会長が、欧州と中国という2つの巨大市場の間でどのような「ブランド外交」を進めていくのか。ビジネスパーソンはもちろん、政治家の皆さんもぜひ学んでいただきたい。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。窪田順生のYouTube『地下メンタリーチャンネル』
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
7割が「課長」になれない中で、5年後も食っていける人物
「いまの時代、7割は課長になれない」と言われているが、ビジネスパーソンはどのように対応すればいいのか。リクルートでフェローを務められ、その後、中学校の校長を務められた藤原和博さんに聞いた。
衰退するシャープは「日本そのもの」か “世界の亀山モデル”が失敗パターンにハマった理由
シャープが、テレビ向け大型液晶パネルの生産を2024年9月末で終了すると発表した。同社はまるで「世界の変化に対応できず」衰退していく「日本そのもの」のようだ。なぜかというと……。
日産9000人削減の衝撃 「技術自慢の会社」ほど戦略で大コケする理由
日産自動車は、なぜここまで経営危機に陥ってしまったのか。特に中国市場が厳しい理由や、問題の本質とは――。
船井電機「給料払えません。即時解雇です」 社員が気づけなかった「3つ」の危険信号
ある日突然、会社が倒産――。船井電機の社員に突然起きた「悲劇」から、多くのビジネスパーソンが学ぶべきこととは。

