TemuとSHEINの競争で「クリック単価」が急上昇 検索広告から離れる企業も
マーケティングや業界の専門家によると、中国発の格安EC「Temu」と「SHEIN」による多額のオンラインマーケティング支出により、他の小売業者やブランドがブラックフライデーに買い物客にアプローチするためのコストが上昇。両プラットフォームは、競合他社が使用する検索キーワードに多額の入札を行っているという。
マーケティングやEC業界の専門家によると、中国発の格安EC「Temu」と「SHEIN」による多額のオンラインマーケティング支出により、他の小売業者やブランドがブラックフライデーに買い物客にアプローチするためのコストが上昇。両プラットフォームは、競合他社が使用する検索キーワードに多額の入札を行っているという。
クリック単価(CPC)が高騰 そのワケは……
ブラックフライデー期間中に、ギフトや自分用に購入するための商品をオンラインで探す消費者にとって、検索エンジンで単語を入力することは、重要な出発点となる。ブラックフライデーは米国の感謝祭の翌日に始まるホリデーショッピングシーズンの非公式な幕開けとされている。
小売業者は、検索結果で自社製品を上位に表示させるためにキーワードへの入札を行う。キーワードの需要が高まるほど、検索エンジンは広告のクリックごとに請求する金額が高くなる。この指標は「クリック単価」(CPC)と呼ばれる。
例えば、オンラインマーケティングプラットフォームのSemrushがロイター向けにまとめたGoogle検索広告のデータによると、米国において、Temuは「Walmart Black Friday deals」(ウォルマート ブラックフライデー セール)や「Kohls Black Friday」(コールズ ブラックフライデー)、「Bed Bath Beyond」(ベッド・バス・アンド・ビヨンド)――といったキーワードに入札している。
一方、SHEINは「Walmart clothes」(ウォルマート 衣類)、「Zara jeans」(ザラ ジーンズ)、「Mango dresses」(マンゴー ドレス)、「Nordstrom Rack shoes」(ノードストロームラック 靴)――といったキーワードに入札している。同データによれば、「Walmart clothes」のクリック単価は2022年8月から2024年8月にかけて16倍に増加したという。
同様に「cheap clothes online」(安い衣類 オンライン)や「shopping」(ショッピング)――といった一般的なキーワードも高騰している。
「状況は非常に厳しく、本当に大変だ」と、コンサルタント会社AlixPartnersのEC専門家エリック・ローティエ氏は語る。
「クリック単価が上がると、マーケティング投資の収益率が下がる。場合によっては採算が取れなくなることがあり、検索広告に依存している小売業者にとっては重大な影響を及ぼしかねない」(ローティエ氏)
検索広告は小売業者のオンライン売り上げの15%から30%以上を占め、マーケティング予算の半分に達する場合もあるとローティエ氏は述べた。
「クリック単価が上がると、マーケティング投資の収益率が下がる。場合によっては採算が取れなくなることがあり、検索広告に依存している小売業者にとっては重大な影響を及ぼしかねない」(ローティエ氏)(出典:ロイター)
「攻撃的な戦略」 検索広告から離れる企業も
競合ブランドのキーワードに入札すること自体は珍しいことではないが、SHEINとTemuは、平均的な企業よりも広範囲にわたる競合キーワードに入札している点が特徴的だと、Semrushのブランドマーケティング副社長オルガ・アンドリエンコ氏は語る。
「検索マーケティングのダイナミクスにおいて根本的な変化が見られ、ファストファッションブランドが従来の小売業者を上回る入札を行うようになった。彼らの戦略は非常に攻撃的だ」(アンドリエンコ氏)
ロイター通信の取材に対し、Temuの広報担当者は、同プラットフォームが公正な競争と責任ある広告慣行に取り組んでおり、ブランド名のターゲティングを防ぐための「ネガティブキーワードリスト」を維持していると回答した。
「まれに、Googleのような広告プラットフォームでの自動キーワード挿入プロセスにより、ブランド名が意図せずにキャンペーンに含まれる場合がある」と同広報担当者は述べ、そのような場合は迅速に対処していると付け加えた。
一方、SHEINは取材には応じなかった。
広告コストの上昇により、一部の企業は検索広告から離れ、FacebookやTikTok、インフルエンサー、伝統的な広告など他のチャネルに予算を振り分けていると、ロンドンのAlvarez & Marsalのリテール&コンシューマープラクティス責任者エリン・ブルックス氏は述べる。
「多くのブランドが、価格重視で高い利益率をもたらさない顧客ではなく、ターゲットとなる顧客をブランドに引き込むことに投資する方がよいと考え始めている」(ブルックス氏)
英国のオンラインファストファッション小売業者Asosは今月、新たなロイヤルティプログラムを発表した。このプログラムは、シネマ広告やインフルエンサーを活用し、「より魅力的で感情的な方法」で顧客にアプローチするマーケティング活動の一環だと、最高顧客責任者ダン・エルトン氏は述べた。また、パフォーマンスマーケティングは「パズルの一部に過ぎない」と付け加えた。

Copyright © Thomson Reuters
関連記事
異色のホームセンター「ハンズマン」が、あえてPOSシステムを導入しないワケ
今回はハンズマンの事例を通して、デジタル化の本来あるべき姿や、独自性がいかに市場における競争優位性を形作っていくかを考える。
「天気のせいで売れませんでした」は通用しなくなる 米小売り大手で「天候分析」加速
ウォルマートなど米小売り大手の間で、天候データを分析してさまざまな分野で生かす取り組みが広がっている。天候は販売動向への影響が大きいが予測は難しい。気候変動によって異常気象が増える中で小売り大手は、かつて専ら在庫管理に利用されていた天候分析を、広告を地域ごとに最適化したり、季節商品の値引き開始時期を判断したりする業務にも役立てるようになっている。AI技術の進化もこうした流れを後押ししている。
EC隆盛のいまも、実店舗が「死んでいない」理由
コロナ禍以降のECの隆盛で、一次は実店舗の「死」が議論の的となった。しかし、4年が経過した現在でも、店舗は「死んでいない」。むしろ若い世代は、店舗でのショッピング体験を好む傾向があるという。
