日産の低迷は「人災」 なぜ米国にHVを投入しなかったのか(2/2 ページ)
10月初旬、内田誠社長との定例オンライン会議に参加した日産自動車の管理職らは会社の状況について説明を受けた。業績が予想より悪化しており、人員と生産能力を削減しなければならないという厳しい内容だった。
日本でも一定程度の人員削減を模索
マーCFOは11月に開いたアナリストや投資家向け説明会で、改善計画を実行する専任プロジェクトチームを立ち上げたことを明らかにした。関係者2人によれば、チームは現在、削減対象を模索している。米国では早期退職に、現地従業員(3月末時点で1万6849人)の約6%が応募した。タイで約1000人の人員削減または配置転換を検討していることもロイターの取材で判明している。
すでに削減する方針を明らかにしている中国の生産能力も、関係者3人は、さらなる削減の必要性を指摘する。うち1人は「あと2つの工場を閉鎖する必要があるかもしれない」と話す。一方、英サンダーランド工場は刷新したばかりのため、生産能力や人員は削減しないとみられている。
日産広報はロイターの取材に、中国を含む世界で生産能力の20%を削減すると回答した。工場閉鎖とライン削減によりコストを圧縮するという。サンダーランドは戦略的に重要な工場だとコメントした。
北米の工場については古い生産ラインを休止し、新しいラインに集約する選択肢もあると関係者の1人は説明する。一部ラインはシフト数の削減を検討しているという。
自動車産業を調査・分析するオートフォーキャスト・ソリューションズ社のアナリスト、サム・フィオラニ氏は、メキシコにあるメルセデス・ベンツとの合弁工場は閉鎖の可能性があるとみる。同氏によると、同工場が手掛ける小型車は販売が長年低迷しており、年間能力23万台に対して約5万台しか生産していない。閉鎖は「ほぼ確実」とフィオラニ氏は言う。
メルセデスはロイターの取材に、需要の変化に応じて継続的に商品と資産を見直しているとコメントした。日産は、合弁工場の競争力維持のため常に「見直しと調整をしている」とした。
関係者3人によると、円安下で輸出に有利な日本は人員削減の優先順位が現時点では低い。だが関係者2人は、日本でも一定程度の人員を削減を模索しており、一部の生産拠点で各従業員の作業量や作業内容を調査しているという。
投資ファンドの動き活発化
「物言う株主」と呼ばれる投資ファンドは、日産に対する動きを活発化させている。シンガポールが拠点のエフィッシモ・キャピタル・マネージメントが日本の金融当局に届けた書類によると、同ファンドは9月末までに2.5%の日産株を取得。関係者の1人によると、香港のオアシス・マネジメントは1.5%を取得した。いずれも日産に資産売却や人員削減の強化を迫る可能性がある。エフィッシモはロイターの取材に対し、株式を取得したことを認める以上のコメントはしなかった。オアシスの回答は得られていない。
日産は8月、EVを中心としたホンダとの業務提携を発表した。英紙フィナンシャル・タイムズは11月下旬、日産が長期投資家を探しており、ホンダも選択肢として除外していないと報じた。
日産は報道についてコメントを控えた。ホンダは日産との提携合意に変更ないとした。
内田社長は11月の決算会見で、「商品力を高め、再び日産を成長軌道に戻す。その道筋をつけることが社長としての最大の役割と認識しており、果たすべき役目をやり遂げる覚悟だ」と述べ、続投の意向を示している。
日産の戦略の方向性について内田社長が問われたのは、10月初旬に開いた管理職とのオンライン会議が初めてではない。アナリストは1年以上前から問い続けてきたと、東海東京インテリジェンス・ラボの杉浦氏は言う。
杉浦氏は「『米国や中国で大丈夫なのか』『HVがなくてどうするのか』と質問すると、経営陣は『大丈夫だ』と答えていた」と語る。「全て事業環境の認識が甘く、きちんとした手を打っていなかった」

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