AIクローン同士で物件選びをする日も……? 不動産業界はこれからどう変わるのか:不動産DXのいまを知る
連載「不動産DXのいまを知る」の最終回では、これまでの内容を振り返りながら、不動産業界のAI活用の現在地と今後の展望について考察する。
ITmedia デジタル戦略EXPO 2025冬
労働人口の減少が深刻化する日本企業にとってDXの推進は重要な経営課題だが、「うまくいく企業」と「いかない企業」で二極化しているのが現実だ。両者の違いはどこにあるのか――。
連載:不動産DXのいまを知る
不動産業界のDX推進において活用するAI技術や先端技術との親和性、活用方法やその効果、将来性などについて、アットホームラボ代表取締役社長の大武義隆氏が解説する。
全10回にわたってお届けしてきた「不動産DXのいまを知る」も、いよいよ最終回を迎えます。本連載では不動産業界のDXにおけるAI技術の活用とその効果、そして将来性について解説してきました。本記事では、これまでの内容を振り返りながら、不動産業界のAI活用の現在地と今後の展望について考察します。
著者プロフィール:大武 義隆(おおたけ・よしたか)
アットホームラボ株式会社 代表取締役社長
アットホームに入社後、営業職・企画職などに従事。
2019年5月にアットホームのAI開発・データ分析部門より独立発足したアットホームラボにて、テクノロジー部門を統括し、不動産分野の課題解決に適したさまざまなAIモデルの企画を担当。23年4月より代表取締役社長に就任。
AI活用は「部署間連携」が何よりも大事
連載を通じて、不動産業界におけるAI活用の重要性を繰り返しお伝えしてきました。
例えば、画像認識AIで物件の画像チェックを自動化したり、間取り解析AIで見落としがちな物件の特徴を可視化したりすることで、不動産会社の業務効率化を進めながら、消費者は自分に合った住まいを見つけやすくなります。このようにAIは単なる業務効率化のためのツールではなく、業務の質を向上させる重要なパートナーとなる可能性を秘めています。
そんなAIの効果を最大限に引き出すためには、部署間の連携強化が欠かせません。例えば、営業部門、企画部門、開発部門の連携を深めることで、顧客のニーズを正確に捉え、有益な情報提供が可能になります。
このように、各部門が連携してAI技術を活用する取り組みは、企業全体の競争力を高める鍵となります。アットホームでは2019年にグループ会社のアットホームラボを設立し、AIなどの先端技術や不動産ビッグデータの解析・活用に注力しています。アットホームラボで開発したシステムや分析データはアットホームを通じて、不動産会社へ提供、そして消費者の快適な住まい探しへとつながっています。
また、DXを推進するための第一歩として「社内の業務効率化に取り組む」といった明確な目標を設定することも効果的です。これにより、全社的にDX推進への共通意識を醸成し、AI活用の基盤を強化することができます。
「不動産×AI」これからの重要テーマは?
現在、不動産業界全体でのAI活用とDXの成熟度は決して均一ではありません。一部の企業は既にAIを活用して効率化とサービスの質向上を実現していますが、多くの企業では導入初期の段階にとどまっています。特に、中小規模の不動産会社にとっては、AI導入にかかる初期コストや運用スキルの確保が障壁となるケースが多く見受けられます。
DXの進捗度を見極める際に重要なのは、単なるツールの導入ではなく、業務プロセス全体をどのように変革し、組織全体での活用を進めるかという視点です。こうした組織的な成熟度を高めていくことが、業界全体でAI活用を推し進めていくカギとなります。
また、本連載で取り上げた事例からも分かるように、AIと相性がよい業務(例えば、物件画像や契約書の管理)は、導入による効果が非常に高い一方で、正確な情報を伝えることにおいては依然として課題が残り、業務に合わせたAI活用を進めていくことも求められています。
今後は、AIを用いたさらなるパーソナライズ化が重要なテーマとなるでしょう。顧客一人一人のニーズに合わせた物件提案や、消費者が気付いていない潜在ニーズを引き出すことが可能になると、不動産業務の幅はさらに広がります。さらに、AIエージェントや消費者のAIクローンが登場することで、より高度な提案が期待されています。
例えば、消費者のAIクローンが個々のライフスタイルや価値観を模倣し、不動産会社のスタッフクローンとやりとりを行うことで、より的確で効率的な物件提案が可能になります。このようなクローン同士のやりとりを通じて、最適な物件がスムーズに提案され、消費者体験の質が飛躍的に向上するでしょう。
不動産業界は、こうした革新を積極的に取り入れ、AIによるDXを推進することで、新たな価値を提供できる未来を目指していく必要があります。
おわりに
本連載では、不動産業界におけるAI活用の現状と未来の可能性について詳しく探ってきました。AIは単なるツールにとどまらず、業界の枠を越えて消費者体験を向上させる大きな力を秘めています。
しかし、生成AIを活用している企業全体の割合は約2割弱にとどまり、不動産業界ではその割合がわずか1割程度と、活用が十分に進んでいないのが現状です。今後の不動産業界では、AIの活用を軸に据えたDXの推進が、さらなる進化と競争力向上の鍵となるでしょう。
引き続き、不動産業界ではDXの可能性を追求し、新たな価値を創造していくことが求められます。本連載が、不動産業界でのDX推進の一助となり、読者の皆さまにとってAI技術を取り入れる際のヒントとなれば幸いです。全10回にわたりご覧いただきありがとうございました。
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