日本コカ・コーラが“おにぎり”とコラボ!? 「綾鷹」生みの親に聞く差別化の要点:“最後発”の戦い方
緑茶業界では飲料大手がしのぎを削り、マーケティング合戦を展開している。2007年の綾鷹ブランド創設に関わり、現在もブランドのマーケティングに携わる日本コカ・コーラ マーケティング本部緑茶事業部部長の助川公太さんに聞いた。
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緑茶業界では飲料大手がしのぎを削り、マーケティング合戦を展開している。そんな中、おにぎりとのコラボを進めているのが、日本コカ・コーラが展開するペットボトル緑茶「綾鷹」だ。2024年にはテレビCMに若年層に人気の若手俳優を起用し、綾鷹でおにぎりをおいしそうに食べる様子を放送している。
東京・原宿にある商業施設「ハラカド」の屋上テラスでは「おにぎりと綾鷹屋」を期間限定で出店。2024年9月と12月の2期間にかけて展開した。
これは来場者に、おにぎり専門店が提供するおにぎりと綾鷹を、無料で提供する施策だ。12月には、豊島区北大塚にある「おにぎりぼんご」や、台東区浅草にある「おにぎり浅草宿六」など、行列ができる都内屈指の人気店が参加した。
綾鷹は9月から一般社団法人おにぎり協会(Onigiri Society、鎌倉市)に入会。ペットボトル緑茶ブランドとして初めて、同協会の認定緑茶になっている。
なぜ、綾鷹はここまでおにぎりとのコラボを進めるのか。2007年の綾鷹ブランド創設に関わり、現在もブランドのマーケティングに携わる日本コカ・コーラ マーケティング本部緑茶事業部部長の助川公太さんに聞いた。
助川公太(すけがわこうた)日本コカ・コーラ株式会社マーケティング本部緑茶事業部部長。1997年に大学卒業後、日本コカ・コーラ株式会社入社。3年間のボトリングパートナーとの協働部門に配属後、2000年からマーケティング本部に。メディア・イベント部門にてコカ・コーラやジョージアの宣伝・広報に従事した後、2003年より一貫してブランドマーケティングを担当。コカ・コーラ、ジョージア、綾鷹の3ブランドを歴任し、綾鷹では2007年のブランド立ち上げをブランドマネージャーとしてリード。2019年より現職として2回目の緑茶担当となり、2021年の綾鷹カフェ導入や2024年の綾鷹フルリニューアルなどブランド全体を統括する役割を担う
ブランド創設者に聞く綾鷹の差別化
――国内の飲料メーカー各社がペットボトル緑茶を展開しています。その中で綾鷹はどう差別化していますか。
当社は2007年の発売当初から(京都宇治にある創業450年とされる老舗茶舗)上林春松本店と協働してきました。「急須で淹(い)れたような、お茶の味わい」を実現することを大きなコンセプトに掲げて、綾鷹を展開しています。当時のペットボトル緑茶を考えると、他社製品は全て色が透き通っており、味わいもすっきりしたものが多かったのです。一方、綾鷹は色が濁っており、濃くてうま味のある味わいによって差別化しました。
――当初は「質の高い」ペットボトル緑茶で差別化していたわけですね。
2007年当初は、容量は425ミリリットルのものが最大で、他社製品よりも少なめでした。かつ、希望小売価格を10円ほど高い設定にしており、「プレミアム緑茶」という売り出し方をしていました。
綾鷹は、大手飲料各社が展開するペットボトル緑茶でも最後発のブランドにあたります。当時はコカ・コーラのお茶というと、炭酸飲料や清涼飲料水を作っている工場の隣で作っているようなお茶という印象が強く、ブランドイメージ払拭のためにプレミアム路線での差別化が必要だと考えました。そこで上林春松本店に監修をお願いし、この点を前面に打ち出しました。
私は2007年の綾鷹立ち上げから2010年まで、そして2019年から現在までの2回にわたって綾鷹のマーケティング担当をしています。最初に担当した期間では、リーマン・ショックなどによって購買動向が変わり、プレミアム緑茶路線の方針を転換しました。2009年のリニューアルでは、500ミリリットルへのサイズ変更と、1リットルの製品を展開し、翌2010年には2リットルの製品も追加しました。
リニューアルはその後も続けており、2024年4月に7年ぶりのリニューアルをしました。今回のリニューアルでは、一部製品でそれまで525ミリリットルだったサイズを650ミリリットルに変えました。これには、昨今の猛暑によって水分補給のニーズが高まっていることも背景にあります。
綾鷹が抱える課題
――一般的に、飲料製品のリニューアル間隔は2〜3年といわれています 。なぜ、7年も期間が空いたのでしょうか。
綾鷹はプレミアム路線からマス路線になりましたが、当初はプレミアム緑茶路線で展開していたなごりもあり、今でも味にこだわる消費者が多い傾向にあります。ペットボトル緑茶の中で高いブランド力を維持していると考えていますが、これは反面、リニューアルして味を変えることのリスクが高いことも意味しています。
そのため、2024年4月のリニューアルの際にも、事前に何度も消費者調査をしています。リニューアルによって、時代に合わせて味を少し変化させたいとマーケティング側としては考えるのですが、調査をすると、どうしても現状の味が勝ってしまうのです。
やはり味にこだわりのあるブランドですので、味が良くないものは出せません。消費者に新しい味で(従来の製品に)勝てるものを出せるまで研究開発を続けてきた結果、この工程だけで3年かかってしまいました。そのため、リニューアルまで7年もかかってしまった背景があります。
――綾鷹が抱えている課題は何なのでしょうか。
綾鷹は後発のペットボトル緑茶ブランドということもあり、2007年の立ち上げ当初から20代から30代くらいの若い世代をターゲットに展開してきました。これ自体はうまくいったと思うのですが、それから20年近くが経過し、当時20〜30代だった人たちも、今や40〜50代になっています。そのため、綾鷹の今のメインターゲットも、40〜50代にシフトしてしまっています。
――世代交代がうまく進んでいないわけですね。
他社製品と比較してみると、相対的には20〜30代の消費者が多いブランドではあるのですが、その中でも若い世代が綾鷹を飲む頻度や量が少しずつ減少してきています。やはり10年後、20年後を考えると、若い世代が飲み続けないとブランドはどんどん先細っていってしまいます。ここが課題だと思い、今回のリニューアルに至った動機でもあります。おにぎりとのコラボ展開を進めている理由も、実はここにあります。
世代交代におにぎりを活用するワケ
――2024年4月に綾鷹がリニューアルして、まず何を打ち出したのでしょうか。
2024年8月から新しいCMを放送しているのですが、おにぎりに綾鷹が合うことを伝えるアンバサダーとして、若い世代に人気の若手俳優である鈴鹿央士さんを起用しました。そしてCMソングには、今の40〜50代にはもちろん、20〜30代にも人気がある宇多田ヒカルさんの曲を起用しました。
若者が集まる街、原宿の商業施設「ハラカド」の屋上テラスでもイベントを何度も展開しています。2024年5月には、「綾鷹 雲海イマーシブ茶会」と題した綾鷹の無料配布イベントを実施しました。9月と12月には「おにぎりと綾鷹屋」を期間限定で出店しました。
これは来場者に綾鷹だけでなく、都内の人気おにぎり専門店が提供するおにぎりを、セットで無償提供するキャンペーンでした。おにぎり専門店は、9月の取り組みでは「おにぎり浅草宿六」だけでしたが、12月のイベントでは日別で「TARO TOKYO ONIGIRI」「羽根つき焼きおにぎり専門店『築地のにぎり』」「おにぎり浅草宿六」「おにぎりぼんご」の4店舗で展開しました。
――この4店舗は行列ができるほどの都内有数のおにぎり専門店としても有名です。なぜこの4店舗とのコラボが実現したのでしょうか。
実は綾鷹は、一般社団法人おにぎり協会に入会しています。協会ではおにぎりに合う緑茶を認定しているのですが、綾鷹がペットボトル緑茶ブランドでは初めて認定を受けました。当協会との関係づくりとあわせ、この4店のおにぎり専門店はおにぎり協会が選定したもので、われわれがおにぎり協会を通じてお声がけした形になります。
――なぜおにぎりとのコラボをここまで強めているのでしょうか。
おにぎりは老若男女愛される日本を代表する食文化ですし、消費者が綾鷹と一緒に買う商品の中でも、おにぎりは常に上位3位に入ってくる食べ物になります。
最近は若い世代の間で、専門店のおにぎりがブームになっています。「タイパ志向」という言葉に代表されるように、Z世代を中心とした若い世代は、タイムパフォーマンスを意識する人が増えています。こうした考え方の中で、仕事しながらでもおいしく食べられる、質の高いおにぎりがいま注目を集めています。
そしておにぎりは、若い世代だけが食べる食べ物ではありません。そこから幅広い年代に対しても訴求していくことが可能です。2025年もおにぎりと、綾鷹の豊かなうまみとかろやかな後味がベストマッチであることを多くの人に届けていきたいと思います。
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