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ココイチはなぜ、つけ麺・ジンギスカン・もつ鍋に挑むのか?マーケティング戦略の観点から分析(7/7 ページ)

カレーで有名な「ココイチ」を展開する壱番屋。シナジー効果が見込みづらい新業態に進出する意図は何なのか?

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カレー一本足打法からの脱却と未来への布石

 壱番屋が多業態進出を図る理由として、もっとも妥当な解釈は「カレーという金のなる木が安定しているうちに、複数の新たな問題児業態を同時に育て、そのなかから将来の花形を誕生させようとしている」ということである。既存事業への大きな追加投資で飛躍的な成長が見込めなくとも、新業態で市場トレンドや顧客ニーズを捉えられれば、一気にシェアを拡大できる可能性がある 。

 もちろん、業態ごとに激しい競争があり、簡単に成功が約束されるわけではない。つけ麺市場は有名ラーメンチェーンとの競争、ジンギスカンやもつ鍋業態は地域性や季節需要の波をどう乗り越えるかといった課題がある。しかし、壱番屋ほどの資本力とオペレーション力をもってすれば、試行錯誤を重ねる余地は十分にあるだろう。

 日本の外食産業はコロナ禍による大打撃から回復しつつあるとはいえ、原材料や人件費高騰という構造的課題を引きずっており、先行きは依然として不透明である。こうした環境下だからこそ、企業が単一業態にこだわるリスクは大きい。壱番屋が打ち出す多業態戦略は、ある意味で企業体質を強化するための必然的な選択なのではないだろうか。

 今後、壱番屋がどの業態で“アタリ”を引くのかは市場の反応次第だ。しかし、同社が持つ「金のなる木」と豊富な“ソフト資産”を武器に、外食市場の変化に合わせてポートフォリオを最適化していける可能性は高い。

 これからの壱番屋は、カレー専門店のイメージを大切にしながらも、複数の「問題児」をいかに「花形」に育てていくのか。その戦略的な舵取りに注目したい。

金森努(かなもり・つとむ)

有限会社金森マーケティング事務所 マーケティングコンサルタント・講師

金沢工業大学KIT虎ノ門大学院、グロービス経営大学院大学の客員准教授を歴任。

2005年より青山学院大学経済学部非常勤講師。大学でマーケティングを学び、コールセンターに入社。数万件の「本当の顧客の生の声」に触れ、「この人はナゼこんなコトを聞いてくるんだろう」と消費者行動に興味を覚え、深くマーケティングに踏み込む。(日本消費者行動研究学会学術会員)。

コンサルティング会社・広告会社(電通ワンダーマン)を経て、2005年に独立。30年以上、マーケティングの"現場"で活動している「マーケティング職人」。マーケティングコンサルタントとして、B to B・Cを問わず、IT・通信、自動車・電機・食品・家庭用品メーカー、金融会社、生損保、自動車販売、EC等、幅広い業種に対応し、新規事業・新商品開発・販売計画・販売のテコ入れ案・コミュニケーションプランの策定等、幅広くマーケティング業務の支援を行っている。講師としても業種を問わず、年間100コマ以上の企業研修に登壇。コンサルティング経験を元に企業課題に合わせた研修のオリジナルのコンテンツやカリキュラムを提供。研修によってマーケティングを「知っている」だけではなく、「業務に生かせるようになること」にこだわっている。執筆は、「初めてでもマーケティングが楽しく体系的に学べる本」をテーマに10数冊刊行。「3訂版 図解よくわかるこれからのマーケティング」(同文舘出版)など。


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