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「ゲーム×AI」の技術が現実世界へ! スクエニ・三宅氏と博報堂が語る「人間中心AI」の世界(3/3 ページ)

ゲーム業界におけるAI開発の第一人者であり、AIの本質を探究し、幅広くその技術を社会へ広める活動をしているスクウェア・エニックスの三宅陽一郎氏をゲストに迎え、博報堂DYグループの統合マーケティングプラットフォームの開発をリードする木下陽介氏とグループCAIOの森正弥氏が鼎談を行った。

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ユーザー体験を最適化する 人間中心のAI

――生活者の行動に合わせてAIサービスが進化していくというお話ですが、人間中心のAI(Human-Centered AI、以下HCAI)という概念について、森さんからご説明いただけますか?

森: HCAIとは、AIを人間の能力を拡張させるパートナーとして捉え、活用する考え方です。従来のテクノロジーは業務プロセスの自動化に主眼を置いており、AIもそのような見方での活用が試みられていました。自動化ありきだったわけです。一方、HCAIというコンセプトにおいては人間の創造性を引き出し、人間同士のコラボレーションを加速させることを目指しています。


博報堂DYホールディングス 執行役員/CAIO 森 正弥氏

 具体的には、AIを従来のテクノロジーの考え方を踏襲した単なる効率化や自動化のツールとして用いるのではなく、人間の思考や創造プロセスを支援し、拡張する存在として捉えます。例えば、アイデアの発想を助けたり、複雑な情報を視覚化して理解を促進したり、人間同士のコミュニケーションを円滑にしたりする役割を担います。

 三宅さんがお話しされたゲームAIの例は、まさにHCAIの良い実践例だと思います。ゲームは本質的にユーザー中心であり、AIはプレイヤーの体験を向上させるために存在しています。この考え方を社会全体に広げていくことが重要だと考えています。

三宅: そうですね。ゲーム産業では、ユーザーの心理状態を常に把握し、それに応じてゲーム体験を調整することが目指されています。例えば、プレイヤーの行動パターンや操作の特徴から心理状態を推測し、適切なタイミングで難易度を調整したり、新しい要素を導入したりします。

 例えば、プレイヤーの操作データや進行状況をリアルタイムに分析し、「エンゲージメント」と呼ばれる指標を算出します。この指標は、プレイヤーが時間あたりどれぐらい敵と遭遇しているかを反映する指標です。この指標が低下したら、新たな敵を出現させたり、ヒントを提示したりして、プレイヤーの興味を引き戻します。逆に、指標が高すぎる場合は、少し難易度を上げて適度な挑戦を提供します。

 さらに、生成AIの登場により、メタAIと生成AIを結び付けることで、ユーザーごとに少しずつ異なる体験を提供することも可能になってきました。例えば、同じダンジョンでも、メタAIによってプレイヤーの好みや習熟度を測定し、それに応じた敵の配置や宝箱の内容を生成AIによって変化させることができます。これにより、プレイヤー同士の体験に差異が生まれ、差異がユーザー間のコミュニケーションを促進し、ゲーム体験を豊かにしていきます。

木下: 非常に示唆に富む話だと思います。現在の広告は、ターゲティングまではできていますが、個々のユーザーの体験や感情までは十分に考慮できていません。ゲームAIのように、ユーザーの状態に応じて最適なタイミングと方法で情報を提供する、その上でユーザー参加型のコンテンツを展開するといった方向性は、今後の新たな広告・マーケティングのビジネスの可能性を感じます。

 街中の広告ディスプレイが、通行人の動きや表情を読み取り、最も効果的なタイミングで最適な情報を表示する。あるいは、ユーザーの興味に応じて、広告自体が進化し、対話的な体験を提供するといったことが可能になるかもしれません。

森: そうですね。単に情報を投げかけるのではなく、ユーザーが参加し、共に作り上げていくような広告の形は、これからの時代に求められると思います。ただし、その際にはコンテンツのバランスや適切な制御が重要になってくるでしょう。

 プライバシーの問題も考慮する必要があります。個人情報の取り扱いには十分な注意を払い、ユーザーの同意を得ながら、透明性の高い形で技術を活用していくことが求められます。

三宅: その点、ゲーム産業の知見が役立つかもしれません。ゲームでは、プレイヤーの自由度を確保しつつ、全体のバランスを保つためにメタAIが働いています。同様の考え方を広告やマーケティングに応用することで、ユーザー参加型でありながら、ブランドの意図も反映された最適な体験を提供できるのではないでしょうか。

 また、ゲーム産業では、ユーザーの行動データを活用する際の倫理的な配慮についても長年の議論があります。これらの知見は、広告業界でのAI活用においても参考になるでしょう。

AIとユーザーインターフェースの進化

――AIとユーザーインターフェースの関係についてはどのようにお考えですか?

三宅: AIの発展に伴い、ユーザーインターフェース(UI)の在り方も大きく変わっていくと考えています。特に重要なのは、AIと人間の自然なインタラクションを可能にするUIの設計です。

 ゲーム産業では、幅広い年齢層のユーザーが直感的に操作できるUIの開発が長年取り組まれてきました。この経験は、AIのUIにも応用できると考えられます。例えば、音声認識や自然言語処理を活用したより自然な対話型インターフェース、あるいはジェスチャー認識を用いた直感的な操作などが考えられます。

 また、ARやVR技術の発展により、空間そのものをインターフェースとして活用する可能性も広がっています。例えば、現実空間に仮想的な情報を重ねて表示し、直感的な操作を可能にするといったことが考えられます。

木下: マーケティングの観点からも、UIの進化は非常に重要です。

 例えば、店舗内での買い物体験を考えてみましょう。ARグラスを着用することで、自分が信頼している親しい友人やフォローしているインスタグラマーの商品に関する詳細情報や口コミ情報を実際の商品を見ながらリアルタイムポップアップして見れるようになると、店頭でのマーケティングの在り方が変わっていくかもしれません。

森: このようなインターフェースが人間の認知や判断を支援し、より豊かな体験を提供することにつながってくるわけですね。単に情報を表示するだけでなく、ユーザーの文脈や状況を理解し、本当に必要な情報を適切なタイミングで提供することが求められると思いました。

AIと人間の最適な関係性

――AIと人間の関係性について、文化的な観点からはどのようにお考えですか?

三宅: 日本と海外では、AIやロボットに対する見方が大きく異なります。日本では、AIを仲間や家族の一員として捉える傾向がありますが、海外では道具や従属的な存在として見られることが多いです。

 例えば、日本のSF作品では、ロボットが人間と共に成長し、感情を持つ存在として描かれることが多いですね。一方、海外の作品では、AIが人類に反旗を翻すといったシナリオも珍しくありません。

 この文化的な違いは、今後のAI開発やその社会実装に大きな影響を与えるでしょう。日本型のアプローチでは、AIとの共生や協調が重視される一方で、海外ではAIの制御や管理に重点が置かれる傾向があります。

木下: 確かに、文化によってAIの受け止め方は大きく異なりますね。AIを活用した広告やサービスを展開する際、日本では親しみやすさや協調性を包含し、「コミュニケーションとして気が利いているなぁ」と生活者が感じられるアプローチの方がよりAIの機能をもった広告・サービスとして受け入れられるかもしれません。

 一方、昨年の米国のカンファレンスではAIを活用した広告に関して、事前に学習したデータに人種的バイアスの偏りがないか、学習したデータに関する透明性を担保した上で、AIが生成した広告を最終的には人が判断して活用すべきという論調だそうで、AIの制御や管理の意識が高そうです。

森: 確かに、こうした文化的な違いも考慮すべきですね。日本型のアプローチを生かしつつ、グローバルな視点も取り入れながら、人間とAIの最適な関係性を模索していく必要があると思います。

AIの未来 創造性と多様性

――最後に、AIの未来についてのビジョンをお聞かせください。

三宅: 私は、AIの未来は創造性と多様性にあると考えています。現在のAIは、既存のデータから学習し、パターンを見出すことに長けていますが、真の意味での創造性はまだ限られています。

 しかし、ゲームAIの発展が示すように、AIは徐々に創造的な領域にも踏み込んでいます。例えば、プレイヤーの好みに合わせてユニークなゲーム体験を生成するAIなど、既に実用化されている例もあります。

 将来的には、AIが人間の創造性を刺激し、新たなアイデアや表現を生み出す触媒となる可能性があります。また、多様なAIが互いに協調し、複雑な問題解決にあたるといったシナリオも考えられます。

木下: AIによる創造性の拡張は大きな可能性を秘めています。例えば、生成AIを用いたコンセプトワークの支援やマーケティングのプラニングの支援をするプロダクトなどが考えられます。

 生成AIとプランナーが対話しながらターゲットのインサイトワークやクリエイティブワークを共創していくアプローチなど、暗黙知化していたプラニングプロセスを若手や新人が学びながら、生成AIの力を借りて、数百通りのターゲットのインサイトを提示してもらう。短時間では気付くことができなかった視点や問いを得られることで、より多様なクリエイティブアイデアを出すことができそうです。

 生成AIが出したアイデアを使うのではなく、生成AIが出したアイデアをきっかけに人間がそのアイデアをブラッシュアップし、社会や生活者にとって親和性のあるものを提供していく。今後のプラニングに関する研修やスキル伝承の視点でもこのアプローチは有効だと感じております。

森: そのようなAIと人間の創造性の共鳴と共進化ともよべるようなシナジーは、従来のテクノロジー観を覆し、新たな道を切り開くと思ってます。AIが創造的に新たなものを提示するのですが、人間はそれをただ受け入れるのではなく、さらにその先をいく世界を思いついて、より前へと進んでいく。AIと人間のインタラクションによって、社会全体の創造性が飛躍的に向上する可能性があります。

三宅: そうですね。最終的には、AIは人間の能力を拡張し、私たちの想像力の限界を押し広げるツールになると信じています。ただし、そのためには技術開発だけでなく、倫理的な議論や社会システムの整備も同時に進めていく必要がありますね。

森: ゲームAIの話からAIの創造性の拡張の話まで、非常に参考になるところが多く、大変刺激を受けました。

 ありがとうございました。

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