ITmedia デジタル戦略EXPO 2025冬
ビジネスパーソンが“今”知りたいデジタル戦略の最前線を探求します。デジタル経営戦略やAI活用、業務効率化など、多岐にわたるビジネス課題を解決。
転職サービス「doda」(デューダ)ブランドを展開するパーソルキャリア。転職情報メディアとして長らくWebサイトの運用を行っていたが、2019年にdodaアプリの本格展開を開始し、現在はWebとアプリの両方で転職希望者に有益な情報や企業への応募機能を提供している。
分析用データは、全社横断のデータインフラ組織が運用管理するデータ基盤の中に構築している。dodaのマーケティングやプロダクト改善に生かしつつ、これらを元にしたデータサイエンスによる独自アルゴリズムの構築・展開・改善といった取り組みにより、転職応募数を1.6倍に伸ばし、事業成長の道筋を作ってきた。
それらの活動を支えてきた一人が、同社でシニアエンジニアを務める小林裕也氏。データ分析の実務経験を有する小林氏は、2018年に同社へ入社。dodaではマーケティング・プロダクト分析データの改善と活用をどのように進めてきたのか。ポイントを聞いた。
聞き手はアドビ DXインターナショナルマーケティング本部の小松崎 扶美恵氏(フィールドマーケティングマネージャー)。
社内全てのデータを統合 応募者の行動を分析する体制作り
小松崎: 今回はdodaなどの転職サービスを手掛けるパーソルキャリアの小林裕也さんにCX改善の実践方法を伺いたいと思います。まず、小林さんの所属しているチームのミッションと業務内容を教えていただけますか。
小林: パーソルキャリアは、新卒採用や求人情報、転職・就職支援などを手掛ける人材サービス企業です。そのうちの1つであるdodaは転職支援のサービスで、企業からの求人広告を掲載するメディア事業、キャリアドバイザーを介した人材紹介サービス、それに各種イベントの開催も行っています。
私は、2024年の9月末までP&M(プロダクト&マーケティング)本部に所属していましたが、サービス成長と組織拡大に伴い、2024年10月からブランドマーケティングとカスタマープロダクトの2つにチームが分かれることになりました。現在はカスタマープロダクト本部の配下にあるデータビジネス統括部のビジネスプランニング部に所属しています。
ビジネスプランニング部は、dodaのユーザーである転職希望者のサービス利用状況について、オンライン・オフライン含めてデータ化・可視化を行い、課題点の発見や施策、KPIモニタリングや事業目標設計などdoda事業全体のKGI達成に向けた活動を担っています。また、そのベースとなるデータウェアハウス(DWH)や、CDP(Customer Data Platform)であるデータマート(DM)の設計・開発・運用、現場のデータ活用支援を行っています。
私はこうしたメイン業務に加え、事業・企画・プロダクトを横断した課題分析のデータアナリスト/プランナーとしての役割と、DWHやCDP設計に関わるデータエンジニアの両面を担当。現場のデータ活用に関するサポートケアやデータ計測に関する基本的な方針設計を行っています。
小松崎:小林さんは、パーソルキャリアのデータ活用強化に向けて同業種から転職されたそうですね。
小林: はい、2018年10月にリファラル採用で入社しました。
小松崎: 転職当時と比べると社内全体がデータを活用する組織に大きく変革したそうですが、現在は社内でどのようにデータを活用しているのでしょうか。
小林: dodaの事業では、集客を担当するマーケティングチームと、Web/アプリを担当するプロダクトチーム、オフラインを含めたエージェントサービスのチームがあり、それぞれが全社横断のデータ基盤内に構築されたDWHやDMを利用しています。以前はこれらのチームが個別の分析環境を運用していましたが、現在ではDWHやDMの共通化により、応募以降の選考過程に関わるプロセスも含めて少しずつ統合的なデータ活用が進んでいます。
小松崎: 「応募以降の選考過程に関わるプロセス」とはどういうことでしょうか。
小林: dodaのサービスを受けるには会員登録が必要です。この会員登録を担うのが集客を担当するマーケティングチームです。
転職希望者の方が会員登録すると、Webもしくはアプリで転職情報を確認したり、イベントに参加したり、さまざまな行動をします。そして転職希望先が見つかったら「応募」になるのですが、応募以降は面接などの選考過程となり、プロセスがオフラインに移行します。この応募に至るまでの「dodaへの来訪から求人情報への接触」までのファネルと、応募以降のプロセスを統合しました。
このデータ基盤を活用し、事業やプロダクト、サービスの各領域におけるダッシュボードを開発し、さまざまな用途で活用しています。
例えば集客の評価であっても、広告出稿先ごとの会員獲得成果だけでなく、実際の応募に至るまでの過程でユーザーがどのような行動をとったのかというデータを織り交ぜて評価しています。また、メール施策の評価にしても、メールチャネル経由のアクションデータと、オフラインプロセスのデータを連携し、そのメールがサービス全体に対してどれくらい寄与したのか、業績にどれほど貢献したのかを含めて評価しています。
登録会員の方へお送りする求人メルマガに載せている求人レコメンドや、dodaアプリへ届くアプリ通知を介した求人訴求の選定などのいわゆる「プッシュ施策系」、サイトやアプリ内の導線上に展開している「レコメンデーション枠」に表出している求人などの「導線内の経由アクション」といったものが、応募全体や、応募後の選考過程も含めたサービス全体・業績にどれほど貢献できたのかを評価しています。
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