KDDIの「持続的なCX改善」、どう実現? FAQ刷新で年数万件の電話削減も:アドビが聞く「実践! CX改革」(1/3 ページ)
KDDIは2017年、点在していたWebサイトを統合し、より良い顧客体験を提供するためにauブランドの総合ポータルサイト「au.com」をスタートした。迅速な改善を継続して続けることで、さまざまなうれしい効果があったという。
KDDIは2017年、点在していたWebサイトを統合し、より良い顧客体験を提供するためにauブランドの総合ポータルサイト「au.com」をスタートした。そんなau.comの運用管理を担っているのが、KDDIのブランドマネジメント部だ。クラウド型の大規模CMS基盤を採用し、IT部門ではなくブランドマネジメント部がシステムの再構築やアプリケーション開発に当たることで、日々変化するビジネス環境や顧客ニーズに即したCX改善を実現しているという。
そんな同社の取り組みで特徴的なのは、アジャイル開発手法(小規模で実装とテストを繰り返し、開発を進めていく手法)を取り入れて短期間のうちに膨大な改善案件に対応していること。この手法により、実装からリリースまでのスピードアップをするだけでなく、課題の早期発見や品質向上を実現し、CX改善に貢献しているという。今回はそういったCX改善の進め方や組織体制の工夫について、KDDIブランドマネジメント部 神戸崇人氏に聞いた。聞き手はアドビ DXインターナショナルマーケティング本部の小松崎扶美恵氏(フィールドマーケティングマネージャー)。
顧客接点とデータを個別管理 クラウド型CMS採用で解決へ
小松崎: Webサイトが単なる情報提供チャネルではなく、顧客接点として重要性を増すなか、コンテンツやサービスをどのように運用していけばいいのか、顧客体験(CX)を向上する運用体制をどうすれば実現できるのか、悩んでいるマーケターの方は多いと思います。今回はそんなCX向上のためのWeb運用・開発の進め方について、神戸さんに伺いたいと思います。改めて神戸さんの現在の所属部門と業務内容について教えてください。
神戸: 所属はブランドマネジメント部です。以前はデジタルマーケティング部でして、文字通りデジタルマーケティング業務を専門とする部隊でしたが、今はブランドという傘の下にさまざまなスキルセットの人材が集まって業務を遂行しています。
ブランドマネジメント部は、auのブランドメッセージである「おもしろいほうの未来へ。au」という指針に沿ったお客さま体験を提供するために変革を進めるチームです。私のミッションは、社内外の関係者と連携しながらお客さまコミュニケーションのあるべき姿を見直し、その実現に向けて、中期的なシステム・アーキテクチャを再構築したり、実行体制を整備し直したりすることです。
小松崎: ブランドマネジメントという言葉ですと、広報的な役回りを想像される方も多いかもしれませんが、神戸さんの業務内容はどちらかというとテクノロジー寄りという印象があります。神戸さんご自身は、ずっとテクノロジーに近い領域でマーケティングに関わってこられたのですか?
神戸: 現在は開発管理や開発PM(プロジェクトマネージャー)の業務を担うことが多いですが、もともとはWebデザイナー業務からキャリアをスタートしています。企画を考え、ライティング/コーディングを実施し、効果検証をするといった感じですね。雑誌広告や交通広告、Web広告収益の設計なども行っていました。いずれにせよ、KDDIに入社するまでは上流工程におけるマーケティング施策の業務全般が中心でした。
小松崎: 2017年にオープンした「au.com」はどのような経緯で誕生したWebサイトなのでしょうか。
神戸: 私がKDDIに入社した2015年当時は、auを冠とする「au ××」といったサービスや商品が多数生まれていたころで、ブランドの見せ方もサービス設定もバラバラでした。それぞれで最適なコミュニケーションを図っていたものの、結果として、お客さま接点とそれに紐づくデータが個別管理され、連携が難しい状況が生じていました。
そこでお客さま接点とデータをきれいに整備し、より良い体験を提供したいと考え、プロジェクトが発足。その一つとして、au.comが誕生しました。
au.comは通信だけでなく、スマートフォン・携帯電話やネット回線、電気や保険、エンタメやショッピング、決済などあらゆるサービスの情報を提供するポータルサイトのような位置付けです。私たちのチームはそれらの事業を扱う部門から「こういうサービスが出たので情報をアップロードしてください」というリクエストを受けて、ブランド文脈に注意しながらそれを最適に加工し、リリースしています。サイト規模としては、更新件数が月400件ほど、PVは月間8000万PV前後になります。
小松崎: au.comはスタート時からCMS基盤としてAdobe Experience Manager Managed Services(クラウド)を選択されていますね。当時、日本国内ではOn-Premise(以下「オンプレ」)での導入が多い中、クラウドをマーケティング基盤に活用することへの抵抗などはなかったのでしょうか。
神戸: 確かに当時は社内でもオンプレがまだ主流でしたね。クラウドを選んだ要因の一つに「システム管理工数を最小化し、CXに向き合う環境を作ること」を重視したことがあります。CXを向上させるには継続的な改善活動が必要であり、機能開発をアジャイルに実施するにはクラウドベースへのシステム移行が必要だね、と考えたわけです。
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