「データ重視」でWeb流入3倍に アステラス製薬のMRが挑んだCX改革:アドビが聞く「実践! CX改革」(1/4 ページ)
優れたCXを実現すれば、顧客満足度を向上させるだけでなく、ブランドの差別化や優位性を確立させ、どんな状況でも「選ばれる」存在へとなることができる。アステラス製薬はコロナ禍でパーソナライズを中心にしたCX改革を進め、それまでバラバラだったデジタルチャネルと営業チャネルの連携を実現。メールからのWebサイト来訪率を約3倍まで伸ばしたほか、営業に渡すホットリードのインサイトの質、数を大きく向上させたという。
企業が持続的な成長を実現するには、顧客ロイヤリティ向上と長期的な関係作りが欠かせない。その肝となるのがカスタマーエクスペリエンス(CX)の実現だ。優れたCXを実現すれば、顧客満足度を向上させるだけでなく、ブランドの差別化や優位性を確立させ、どんな状況でも「選ばれる」存在へとなることができる。そんな企業の一つがアステラス製薬だ。
同社はコロナ禍でパーソナライズを中心にしたCX改革を進め、それまでバラバラだったデジタルチャネルと営業チャネルの連携を実現。メールからのWebサイト来訪率を約3倍まで伸ばしたほか、営業に渡すホットリードのインサイトの質、数を大きく向上させたという。
その成功のポイントはどこにあるのか、アステラス製薬の大石幸太氏(オムニチャネルストラテジー&オペレーションズ オムニチャネルエクスペリエンスパートナー)に聞いた。聞き手はアドビ DXインターナショナルマーケティング本部の松井真理子氏(フィールドマーケティングマネジャー)。
デジタルチャネルと営業が連携できていなかった
松井: 大石さんはもともとMR(医薬情報担当者)で、数年前に現在の部門に異動されたそうですね。その部門のミッションと大石さんが担当されている業務を教えてください。
大石: 2021年3月まではMRで、4月に現在の役割に変わりました。現在の部署は「デジタルやアナログ営業などのチャネルを連携し、各チャネルの接点を生かしてお客さまの体験を向上させる」という部門で、私はデジタルマーケティング領域を担当しています。デジタルチャネルでお客さまの体験を向上させ、次の営業チャネルでつないでいくところまでを担っています。
松井: どのようなきっかけで異動されたのでしょうか?
大石: コロナ禍で医療機関への訪問ができなくなり、デジタルシフトが進行しました。といっても最初は従来手法をデジタライズしただけで、面会が対面からSkypeでのオンラインになり、紙の資材がタブレットに代わっただけでした。
そんな感じで、コロナ禍が始まったころは従来型の営業活動が制限されました。そこで独学でHTMLとCSSの勉強を始めたんです。知人のお店のWebサイトをCMSで制作し、「仕事でもWebやデジタル分野に関わりたいな」と思っていたところ、社内でデジタルマーケティング職の公募があったので手を挙げて職種転換しました。
松井: コロナ禍をきっかけにデジタル化が進行したとのことですが、そこで直面した課題について教えてください。
大石: コロナ禍で既存の手法を変えざるを得なくなり、最初はデジタライゼーションからスタートし、その後「WebやCRM、SFAのデータを統合して有機的に活用していこう」とDX化に取り組むことになりました。というのも、それまではメール、Webなどのデジタルチャネルや営業チャネルがバラバラで、シームレスな連携が取れていなかったのです。
Webにも課題がありました。医療関係者向けの専用情報サイトである「Astellas Medical Net」を運用しているのですが、パーソナライズができておらず、例えば医師・看護師・薬剤師の方など誰が見ても画一的で同じ情報しか提供していませんでした。階層構造も統一されておらず、トップページからたどれないページもたくさんあったのです。
こうした課題を解消し、医師なら医師、薬剤師なら薬剤師の方が必要とする情報をしっかり届けていくためにパーソナライズに注目しました。パーソナライズでデジタル体験を向上させながら行動を把握・分析し、的確な顧客体験の創造へつなげたいと考えています。
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