KDDIの「持続的なCX改善」、どう実現? FAQ刷新で年数万件の電話削減も:アドビが聞く「実践! CX改革」(2/3 ページ)
KDDIは2017年、点在していたWebサイトを統合し、より良い顧客体験を提供するためにauブランドの総合ポータルサイト「au.com」をスタートした。迅速な改善を継続して続けることで、さまざまなうれしい効果があったという。
年300件の改善案件に対応 スクラム開発手法を採用
小松崎: au.comスタート後、少しずつCMS開発チームが立ち上がってきたそうですが、その経緯を教えてください。
神戸: 先ほどからお話しているようにauにはさまざまなサービスがありますが、それらのサービスロジックは非常に複雑です。業界の動向に応じた急なアップデートもありますし、外部委託前提では到底ビジネス要求に応えられません。
また、高性能のCMS基盤を使いこなすには、「どのようにうまく活用していけるか」という点も重要です。そこで当社では、このCMSを正しく活用するために、ロール&レスポンシビリティの整備をし、アジャイル改善を推進するアプリケーション開発体制を立ち上げ、ビジネス要求とCX改善の両立を目指しました。
小松崎: アジャイル開発手法をCX改善に取り入れるといっても、最初はなかなか難しかったと思います。情報収集をどのように進め、どのようにアジャイルをチームに根付かせていったのですか。
神戸: 実は、アジャイルへの素地は社内に以前から存在していました。社内にアジャイル開発部隊もありましたし、アジャイル開発の普及・研修を行う関連会社もあるので、社内の知見者から知識を得ながら進めました。
小松崎: 具体的な開発の進め方を教えてください。
神戸: アジャイル開発には、小規模のスクラムチームで開発に取り組む「スクラム開発」という手法があります。スクラム開発は、「スプリント」と呼ばれる一定期間単位で開発計画と実装を繰り返しながらプロダクトの品質を高めていく開発手法のこと。スクラムチームにはチーム全体の方向性と製品価値最大化の責任を持つ「プロダクトオーナー」、スクラムチームを進行する「スクラムマスター」、そして「開発者」という3つのロールがあります。KDDIでは2週間ごとのスプリントモデルを組んでいます。
小松崎: 2週間という短期間のなかで、どのような流れで開発を進めるのでしょうか。
神戸: 基本的にアジャイル開発のフレームワークに則っており、2週間でスプリント開発し、月に1回機能リリースを実施しています。当初は外部のチームと組んでいたのですが、その外部チームも初めはスクラム開発については詳しくなかったので、いまの体制になるまでは本当に手探りで進めていきました。2週間というと大変そうに聞こえますが、メリットもあります。サイクルが早いので問題点も早期に検出できて改善が早いこと、やればやるほど改善できている実感が得られることです。
小松崎: 何件くらいの開発が同時に進んでいるのでしょうか。
神戸: 20〜30件前後だと思います。
小松崎: というと、au.com上では常に何か改善が行われているのですか。
神戸: 機能的な不具合の改修もあれば、ビジネス側の要求もあります。また「このコードは古いから変えていかないと」という目に見えない部分もあるので、課題がなくなることはないですね。あとはどれを優先してコントロールするかが重要になります。
小松崎: チーム体制はどのように配置されているのですか?
神戸: 一般的なスクラム開発と大きく違いはありません。プロダクトオーナー(PO)はKDDI社員が担っていますが、経験を積む中で自信をもってしっかり全体をコントロールできるようになっています。また、スクラムマスターおよびエンジニアはグループ企業のKDDIアジャイル開発センターに委託をしていますが、業務理解に積極的です。それにより、スキルセットの異なるメンバーが、チームとして円滑なコミュニケーションを行えるようになり、強固な組織感効力が醸成されています。
要求を出すリクエスターの方からは「なんかこんな感じでやってほしい」「他社がこうなので、同じ感じで」という不明瞭な依頼がくることがほとんどです。そうした依頼を含めて案件化して優先順位を付けていくのがPOの役目で、スクラムマスターはその優先順位に対してどのように開発を全体最適できるかを考えます。現状でも高いレベルの開発ができていますが、メンバーたちの学習意欲は高く、日々アップデートしているのを見て感心しています。
小松崎: 神戸さんはPOで動くことが多いのですか?
神戸: いまはプロダクトマネージャー(PdM)として、全体の方向性を決めたりサポートに入ったりしています。
FAQ改善で年間数万件の入電削減効果
小松崎: かなり堅固なアジャイル開発体制でCX改善に取り組んでいらっしゃいますが、特にCXの成果が高かった取り組み事例があればお聞かせください。
神戸氏はAdobe Experience Cloudの製品エキスパートである「Japan Adobe Advocates」に選出された。写真は「2024 Japan Adobe Advocates」受賞トロフィー
神戸: 直近の取り組みで特に印象的だったのは「FAQのリニューアル」です。FAQについては以前から問い合わせ部門を中心に改善要望をいただいていました。どんなやり方ができるか検討をしていたのですが、そのなかで「FAQデータの構造化を活用して、au.comだけではなく、どうせならばUQサイト側でもFAQを活用できるようにしよう」というアイディアが出てきました。
もちろん、こうしたアイデアが突然出てきたわけではありません。数年前から「FAQデータをau.com以外のWebサイトからも呼び出せるような作りにしたい」と考えて手は加えていましたが、今回のリニューアルでは、「実際にFAQデータを作る工程に寄り添って、使いやすくしよう」ということになったのです。データ管理を共通化しUQサイトでも活用できるように調整したことで、オペレーションを一元化し、業務負荷の改善が図れました。
これにより、年間数万件以上の入電削減効果にもつながっています。CX観点だけでなくEXの改善も同時に達成できたと考えています。
小松崎: 一気に解決できた点は大きいですね。
神戸: 日々の改善活動のなかではどうしても積み残しの課題が発生してしまいますが、案件を検討するなかで再度課題を振り返り、いいアイディアがあれば「これも一緒にやってしまおう」という感じで柔軟に進めています。
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