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米コストコ、DEI撤回を「拒否」――多様性めぐる議論、日本企業に迫られる対応は?石角友愛とめぐる、米国リテール最前線(3/3 ページ)

DEIをめぐる米国企業の動向は、日本企業にとっても無関係ではない。今回は、米リテール業界における反DEIの動きや各社の対応、そして日本への影響について考える。

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日本企業はどう対応すべきか

 日本におけるDEIの取り組みは、米国と比べるとまだ発展途上にありますが、グローバルな投資家や消費者からの圧力を受けて、多くの企業が積極的に推進しています。例えば、トヨタやソニー、楽天といった企業は、海外市場を意識したDEI施策を導入しており、多様性を強みとする経営戦略を展開しています。

 しかし、米国における反DEIの流れが日本にも波及する可能性は否定できません。特に、日本企業が米国市場で事業を展開する場合、DEI施策の継続が現地の保守派からの批判を招くリスクもあります。そのため、日本企業は自社のDEI施策について「どの部分を強調するか」「どのような形で実施するか」などの側面を慎重に検討する必要があります。

 企業の公式声明などは、言葉の選び方一つで受け取られ方が大きく変わります。そのため、例えば「公平性」(Equity)よりも「機会の均等」(Equal Opportunity)を前面に出すなど、メッセージングの工夫が必要です。また、企業文化としてDEIを根付かせつつ、米国の政治的状況に応じて施策の見直しを柔軟に行うことも重要でしょう。

メリットベースとDEIのバランス

 反DEI派の主張の一つに「メリットベース(実力主義)こそが公平な採用基準である」という考えがあります。つまり、人種や性別に関係なく、純粋に能力やスキルだけで採用・昇進を決定すべきだというものです。確かに、一見するとこの考え方は合理的に思えますが、実際には「機会の不均等」が根強く存在するため、必ずしも公平ではないという指摘もあります。

 例えば、高所得層の家庭の子どもがより良い教育を受ける機会が多いことや、業界内の人脈がビジネスの発展に重要な要素となるケースなど、実は「実力主義」の背景には、社会的・歴史的な要因も多いのです。このことで、単なるメリットベースの評価では多様性を実現しにくい側面が生まれています。そのため、一部の企業では、DEIのフレームワークを外しつつも、長期的に多様性を確保できる新しい評価・採用制度を模索し始めています。

リテール業界の今後

 米リテール業界における反DEIの流れは、政治的要因に大きく左右されながらも、企業ごとに異なる対応を見せています。

 政策としてDEI縮小の流れがあるものの、イノベーションや企業の発展において「多様性」が必要不可欠であることは、米国の歴史が証明しています。重要なのは、DEIの「枠組み」を完全になくすことではなく、「いかにして多様性を持続可能な形で実現するか」という本質的なテーマです。メリットベースの評価制度とのバランスを取りつつ、機会の均等をどう確保するかが、今後の焦点となるでしょう。

 また、日本企業にとっても、この動きは無関係ではありません。米国市場におけるDEIの変化が、日本企業のブランディングや人材採用にどのような影響を与えるのか、今後も注意深く観察する必要があります。

著者プロフィール:石角友愛(いしずみ・ともえ) 

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パロアルトインサイトCEO/AIビジネスデザイナー

2010年にハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得した後、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。東急ホテルズ&リゾーツのDXアドバイザーとして中長期DX戦略への助言を行うなど、多くの日本企業に対して最新のDX戦略提案からAI開発まで一貫したAI・DX支援を提供する。2024年より一般社団法人人工知能学会理事に就任。

AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。

毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。

著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。

パロアルトインサイトHP

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