2015年7月27日以前の記事
検索
コラム

AIエージェントの次の未来は? OpenAIの研究者が言及

今年はAIエージェント元年だった。しかし、米OpenAIの研究者が「次の未来」について言及している。近年のAIには2つの潮流があるというが……

PC用表示 関連情報
Share
Tweet
LINE
Hatena
ExaWizards

 今年はエージェント元年。しかし、米OpenAIはすでに次の時代の研究開発を進めている。同社によると、次の時代は「イノベーターの時代」だという。イノベーターAIとは具体的にどのようなものなのだろうか。

 これまでその概要さえ明らかにされてこなかったが、2月21日にニューヨークで開催された開発者向けカンファレンスで、OpenAIの研究者がイノベーターAIの開発状況を初めて明かした。それによると、「イノベーター」とは、人間とAIが協力する仕組みであるという。

AI Engineer Summit 2025:Agent Engineeringの動画(7:06:33より該当の「OpenAI: Creating Agents that Co-Create」を視聴できる)

 登壇したカリナ・グエン氏は、OpenAIに加え、AI大手の米Anthropicでも勤務した経験を持つ研究者だ。両社での経験を踏まえ、AI研究の大きな2つの潮流、それが可能にした研究手法、その結果判明したこと、そして未来のAIに期待することを語った。

 同氏によると、近年のAIには2つの大きな潮流があるという。1つは、AIに単語を与えた際、次にどの単語が来る可能性が高いかを予測する技術で、いわゆる「next token prediction」と呼ばれる。

 AIは、受験生が教科書のキーワードを隠して解答する「穴埋め問題」と同様の方法で学習し、ネット上の文字情報を全て習得していった。この学習方法によりAIは「ボールを投げる」と「ボールが空中を飛ぶ」という因果関係を理解したり、「投げる」の後に「飛ぶ」が続くが、その逆はないといった時系列を把握するようになったりした。物理法則を含め、世界の仕組みを学んだのである。同氏によると、2020年から2021年にかけて、この方法でAIは大きく進化したという。

 そしてOpenAIは2024年9月に「o1」というAIモデルをリリースした。このモデルは、物事を段階的に考えることができるモデルであり、専門用語で言うと「思考の連鎖」に基づいた強化学習が可能なモデルだ。「考えるAI」や「リーズニング(論理的思考)モデル」とも呼ばれる。グエン氏によると、これがAI研究の2番目の潮流である。

 同氏は、この2つの潮流によって「非常に高速な試行錯誤のサイクルが可能になった」と語っている。具体的には、実験に必要な小型AIモデルを素早く構築でき、AIの学習に必要な合成データを生成できるようになったためだという。

 こうした試行錯誤の中で目指されているのが「共同イノベーター(co-innovators)」である。

 OpenAIが明かしたAI開発のロードマップによると、レベル1がチャットボット、レベル2が論理的思考、レベル3がエージェントである。2024年9月に論理的思考モデル「o1」がリリースされたため、現在はレベル2。そして、今年はエージェントの年とされており、すなわちレベル3の段階にある。


OpenAIが明かしたAI開発のロードマップ

 このロードマップによれば、レベル4がイノベーション、レベル5がオーガニゼーションとなる。しかし、このロードマップはOpenAIもその存在を認めているものの、正式発表はまだない。そのため、イノベーションやオーガニゼーションがどのようなAIモデルを指すのかは、OpenAI外部の人々には推測するしかなかった。

 しかし今回、OpenAIの関係者が初めて「イノベーター」という言葉を口にした。

 グエン氏によると、エージェントとは「論理的思考+ツール+ロング・コンテキスト」である。つまり、段階的に物事を考えられるAIが、外部の長文データにアクセスし、検索などのツールを使ってアクションを起こせる存在だ。

 エージェントの次のレベルが「共同イノベーター(co-innovators)」である。グエン氏によると、エージェントに創造性(クリエイティビティ)が加わったものが、イノベーターだ。そして「この創造性は、人間とAIの協力(Human-AI Collaboration)によってのみ可能になります」と強調した。

 つまり、OpenAIが開発中の次世代モデルは「人間と協力するAI」なのだ。

 グエン氏は、現在どのような研究が行われ、どこまで完成に近づいているかについての詳細は明かさなかった。しかし、AIと人間の共同作業を可能にする複雑な実験環境の構築など、多くの可能性に言及した。

 また、ChatGPTには「Canvas」と呼ばれるツールがある。文章作成やプログラミングコードの記述を支援するもので、グエン氏もCanvasのプロジェクトに参加している。「Canvasの素晴らしさは、インターフェースが柔軟であることだ」と語り、文章の作成・修正だけでなく、共同執筆者や共同編集者の役割も果たせると説明した。

 さらにCanvasは、今後進化する可能性がある。例えば、複数のAIエージェントやユーザーとの共同作業が可能になるかもしれない。家庭教師やデータサイエンティスト、プログラマーとしての役割を果たすことも期待される。同氏は「人間とAIのコラボが進むことで、さらに強力かつ創造的な能力を身につけるだろう」と指摘している。

 最終的に、共同イノベーターはどのようなAIへと進化するのか。グエン氏の最後の言葉を引用したい。

 AIとの付き合い方が根本的に変わるでしょう。インターネットへのアクセス方法も大きく変わると思います。AGIのインターフェースは、空白のキャンバスのようなものになるでしょう。そして、それはユーザーの意図に応じて自動的に形を変えていきます。コードを書きたければIDE(統合開発環境)へと変化し、小説を書きたければ、AIはアイデア出しから文章の編集、キャラクター作成、ストーリー構造の可視化まで可能にするでしょう。

 高度な論理的思考力を持つエージェントシステムと共同作業を行うことで、小説や映画、ゲーム、さらには新しい科学や知識まで創造できるでしょう。

 そして最終的には、「共創(Co-Innovation)」が実現すると思います。これは、モデル自体が「創造の共同演出者(Creative Co-Director)」となり、人間と協力しながら新しい作品を生み出すプロセスです。

本記事は、エクサウィザーズが法人向けChatGPT「exaBase 生成AI」の利用者向けに提供しているAI新聞「エージェントの時代の次は、人間とAIのコラボの時代=OpenAI」(2025年2月26日掲載)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。

著者プロフィール

湯川鶴章

AIスタートアップのエクサウィザーズ AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。17年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(15年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(07年)、『ネットは新聞を殺すのか』(03年)などがある。


© エクサウィザーズ AI新聞

ページトップに戻る