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コンタクトセンターが多忙な「本当の理由」 チャネルが増えても、顧客の不満が減らないワケ(2/2 ページ)

まざまな分野でデジタル化が進み、顧客との接点が多様化する昨今において、顧客体験価値(CX)の向上は、企業にとって重要な経営課題の一つだ。特にコンタクトセンターは、企業と顧客との関係をつなぐ役割として重要性を増している。

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小さな改善を継続することがCX向上の最短ルート

 コンタクトリーズン分析後は、継続的な改善につながるように、一連の取り組みをPDCAにして仕組み化することも大事だ。

 例えば、ログインエラーで問い合わせしてくる人が多いのであれば、FAQページのIDやパスワードの再発行を閲覧する顧客の行動を毎月モニタリングし、その数をダッシュボードで確認できるようにする。アクションを改善したのち、FAQのページの再発行のページを閲覧する顧客や問い合わせが減ったのかを測定し、その評価をみて次のアクションを再び改善する──。小さな改善を継続することで、着実なCXの向上につなげていく

 近年ではコンタクトセンター業界でも、Webマーケティングで使用されているようなWeb解析技術を活用した接客ツールを積極的に取り入れる動きがみられる。

 例えば、顧客がWebページで上下に3回スクロールしていたら、これは解決策が見つからずに迷っていると定義。Webサイトをリアルタイムでモニタリングし、迷っている兆候が見られたら、解決につながる項目のページを表示したり、最適なチャネルに誘導したりする。

 顧客対応を支援するツールを積極的に取り入れて、自己解決できるものはどんどん誘導する。有人対応でしか対応できないものは、スムーズに有人対応に案内する。解決への道のりは最短ルートが望ましい。

「全てチャットボットが対応」が、必ずしも正解ではない理由

 顧客の自己解決を促し、CXの向上をつなげるために重要なチャネルはWebサイトだ。

 Webサイトには多くの顧客や見込み客がアクセスしてくるが、ざっくりいうと次の3つに大別されると私は考えている。「自分で問題を解決したい人」「できれば自分で問題を解決したい人」「問題解決までにガイドが必要な人」だ。

 顧客視点でWebサイトを改善することが大前提だが、顧客からの問い合わせを減らそうとターゲットを絞るなら、「できれば自分で問題を解決したい人」の自己解決率を上げられるようにしたい。また、「問題解決までにガイドが必要な人」は、一刻も早く電話やチャットなどの有人対応につなげることで、お互いが解決までに支払わなければならないコストを最小化することが望ましい。


写真はイメージ、iStockより

 近年は就労人口の減少により顧客対応窓口自体、大きな省力化を求められることも少なくない。そのような背景からカスタマーサポートのフロント対応を全てチャットボットにさせようという企業も少なからず存在している。

 もちろんコンタクトリーズン分析をしっかり行い、理論上はほとんどの顧客が自己解決可能という判断で、そのようなユーザーインターフェースを作っているのだろう。しかしここで見落としがちなのは、顧客が企業に連絡をしてくるのは、「問い合わせ」以外の理由もあるという点だ。

 あるメーカーで、故障したデバイスの判定プロセスを自動化したが、電話が少ししか減らなかったということがあった。深掘りしていくと、顧客は自分のせいで故障したわけではないと主張し、代替品を提供してもらう交渉をしたいがために人間と話したかったことが分かった。

 彼らが壊れるほどデバイスを使ってくれている点から考えると、ヘビーユーザーである可能性が高い。このような顧客の満足度を向上させるため、現時点においては速やかにオペレーターに接続し解決を提供するのが良策と考えられる。しかし、そう遠くない未来に、このような交渉相手になるAIが出てくる可能性も否定できないだろう。

待ち時間にも要注意 「何もしない」時間を減らす工夫

 顧客の自己解決につながる情報を充実させる一方で、注意しなければならないのは「待ち時間」だ。

 ここで、米国のヒューストン空港が顧客体験の改善に成功した話をしたい。ヒューストン空港では、手荷物受取所で手荷物が受け取れるまでの待ち時間が長いと、顧客からのクレームが続いていた。そこで、手荷物受取所までの距離を伸ばし、顧客が歩いて手荷物受取所に到着して数分で手荷物を受け取れるようにしたら、クレームが劇的に減ったという。

 手荷物を受け取るまでの時間はほぼ同じで、顧客は手荷物受取所まで歩く工程が増えただけだが、何もしない時間を減らすことで、顧客体験が大きく改善した。

 人はただ何もしない時間に苦痛を感じる。

 同じ考え方でコンタクトセンターでのオペレーションに応用してみよう。例えば、顧客に待ち時間のうちに入力フォームを送付し、予約時間までに属性情報や問い合わせ内容を入力してもらう。これで、顧客は待ちぼうけのストレスがなくなり、オペレーターは顧客から十分な情報をもらった状態で入電できるので、問題解決もスムーズになる。

 今後、Webサイトをはじめ、チャットボットやFAQなどで、顧客が自己解決できる割合が増えていけば、顧客の問い合わせは、複雑で解決が難しい内容が多くなる。そうなるとオペレーターは、顧客の心情に寄り添えるコミュニケーション力や、込み入った状況を整理して解決に導くコンサルティング力などが求められるだろう。

 コンタクトセンターは、ますます顧客の自己解決を支援するためにWebサイトやFAQの更新頻度も高めていかなければならない。オペレーターもコンタクトセンターもいかに高度化ができるかが焦点となりそうだ。

野瀬 裕

ベルシステム24 デジタルCX本部 DCXセールス部 部長

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2002年にベルシステム24に入社。国内外の流通・製造・金融大手企業などの幅広い業界で営業責任者、2017年よりオペレーション組織責任者としてBPO事業運営を担う傍ら、新規事業開発としてスタートアップへの出資や資本業務提携に従事。現在はコンタクトセンターのDXを推進するDCXセールス部門の責任者。CX専門メディア『コンタクトセンターの森』にて、プロフェッショナルブログを執筆中。


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