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日本のインバウンド施策の“危うさ” 「欧米豪・富裕層」戦略、本当に正しいか(1/4 ページ)

日本の観光産業は、まさに問題山積の状況だ。立教大学経営学部客員教授や、多くの地域の有識者・アドバイザーなどを務める永谷亜矢子さんに話を聞いた。

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筆者プロフィール:森川 天喜(もりかわ あき)

旅行・鉄道作家、ジャーナリスト。

現在、神奈川県観光協会理事、鎌倉ペンクラブ会員。旅行、鉄道、ホテル、都市開発など幅広いジャンルの取材記事を雑誌、オンライン問わず寄稿。メディア出演、連載多数。近著に『湘南モノレール50年の軌跡』(2023年5月 神奈川新聞社刊)、『かながわ鉄道廃線紀行』(2024年10月 神奈川新聞社刊)など。


 日本を訪れたインバウンドの数は、2023年の約2507万人から2024年は約3687万人へと急増している。一向に解決しないオーバーツーリズムや、人手不足にあえぐホテル・飲食店など、日本の観光産業は、まさに問題山積の状況だ。

 日本の観光業が抱える問題点と処方箋を1冊にまとめた書籍『観光“未”立国〜ニッポンの現状〜』(扶桑社新書)が、このほど発売された。著者で立教大学経営学部客員教授や、観光庁・文化庁、富山県など多くの地域の有識者・アドバイザーなどを務める永谷亜矢子さんに、著書の内容に即して話を聞いた。


立教大学経営学部客員教授 永谷亜矢子さん

欧米豪を狙うのが正しいとは限らない?

――著書の中で、さまざまな問題提起をされていますが、特に興味深かったものの1つが、「インバウンドに向けたターゲット設定は正しいのか」という問いです。最近の日本の観光業界では、長期滞在してお金をたくさん使ってくれる欧米豪からの客を呼べと、お題目のように言われていますね。

 もちろん、これから伸び代のある欧米豪を狙うのは悪いことではないのですが、ちょっと違う見方をしてみるべきではないかというデータがあるのです。観光庁の統計による国籍・地域別の訪日回数を見ると、韓国、台湾などは日本に来るのが4〜9回目がボリュームゾーンになっていて、香港に至っては10回以上という人たちが全体の4割を占めるなど東アジアの国・地域はリピーターが多い。対して、欧米豪は初訪問の人たちが6〜7割を占めています。

 しかも、インバウンド市場は、韓国、中国、台湾など東アジアの人たちが全体の7割を占めているわけです。このような状況に鑑みると、特に地方のインバウンド観光で、東アジア市場を置いて欧米豪を重視しすぎるのは、マーケティングとして合っているのかという疑問が湧きます。


平日の日中でも混雑する横浜中華街。オーバーツーリズムや人手不足など日本の観光業界が抱える問題をどう解決すべきか(筆者撮影)

――なるほど。しかし、欧米豪は長期滞在してお金を落としてくれるから、その市場を広げようという考え方も合理的なように思われます。

 実は、その前提も疑ってみるべきなんです。「欧米豪の人たちは何泊もするから、観光消費額の総額が大きい」という考え方は間違っていないのですが、1泊当たりの消費額にならしてみると、次のようになっています。

国籍別・一泊当たり消費額

  • 韓国:2万7638円
  • 台湾:2万8518円
  • 香港:3万2027円
  • 中国:3万0601円
  • 米国:2万3559円

(出典:【インバウンド消費動向調査】2024年7-9月期の調査結果 1次速報 観光庁)


 「欧米豪はお金使うよ」といわれてきましたが、上の数字を見る限り、そうでもなかったということになりますね。

 しかも、欧米豪の人たちは、次も日本に来てくれるか分からないし、また、訪日1回目の人はどうしても都市部の観光中心となり、地方へはなかなか行ってくれない。つまり、オーバーツーリズムの解消にもつながりません。そうであれば、何回も来てくれている東アジアの人たちの中でも高単価の人たちにリピートしてもらうのを促す方が、マーケティングとして理にかなっているのです。

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