東芝のDXブランド「TOSHIBA SPINEX for Energy」 キーマンに聞く圧倒的な強み:変革の旗手たち〜DXが描く未来像〜(1/2 ページ)
TOSHIBA SPINEX for Energyとはどのような基盤モデルなのか。東芝エネルギーシステムズでデジタリゼーション技師長を務める武田保さんに聞いた。
東芝エネルギーシステムズが2019年から提供している「TOSHIBA SPINEX(スパインエックス) for Energy」。エネルギー関連の課題を、顧客との共創によって解決するデジタルサービスで、東芝が100年以上にわたり蓄積してきたエネルギーインフラの知見と、DXを融合させたものだ。
変革の旗手たち〜DXが描く未来像〜
日立製作所、富士通、NECなどの国内大手が、DXなどのデジタル関連の事業やサービスをブランド化する動きが広がっている。各社はどんな強みを持ち、日本企業をどのように変えていこうとしているのか。各社のキーマンに丁寧に聞いた。
1回目:なぜ日立はDXブランドの“老舗”になれたのか? Lumada担当者が真相を明かす
2回目:なぜ富士通「Uvance」は生まれたのか サステナビリティに注力する強みに迫る
3回目:NEC「ブルーステラ」誕生の舞台裏 コンサル人材を自社で育成する強みとは?
4回目:本記事
TOSHIBA SPINEXは、東芝が2016年11月から提供しているIoTアーキテクチャで、製造業や物流、社会インフラなどさまざまな分野で展開している。こうした中で、エネルギー分野で重点的に提供しているサービスが、TOSHIBA SPINEX for Energyだ。
同様のブランド施策は、日立製作所のLumada(ルマーダ)やNECのBluStellar(ブルーステラ)などがある。TOSHIBA SPINEX for Energyの特徴は、エネルギー関連機器などハードウェア面のDXを対象にしている点だ。日立のLumadaも、工場や発電所などのOT(制御・運用技術)を対象にしていて、東芝の場合はそこにさらに特化している特徴がある。
TOSHIBA SPINEX for Energyとはどのような基盤モデルなのか。東芝エネルギーシステムズでデジタリゼーション技師長を務める武田保さんに聞いた。
武田保 1990年に東芝入社、府中工場に配属。燃料電池・加速器・核融合・原子力などの監視制御システム開発設計。原子力・再処理施設などの情報系システム開発設計等に従事。2017年10月、府中エネルギーシステム工場 電力プラットフォーム開発部部長。2020年10月、府中エネルギーシステム工場 技術品質管理部部長。2022年4月東芝エネルギーシステムズ デジタリゼーション技師長。運用保守・カーボンニュートラル・VPPなどの領域を中心にエネルギー産業におけるDX推進活動中
TOSHIBA SPINEX for Energyの機能分類とは?
TOSHIBA SPINEX for Energyの特徴は、単なるITソリューションではなく、東芝が培ってきたエンジニアリング力を生かしている点だ。これまで東芝はタービンや変圧器など、電力インフラに欠かせないハードウェア製品を提供してきた。その技術力を基盤に、デジタル技術を組み合わせることで、他社にはない独自性のあるサービスを実現している。
武田技師長は、「われわれはハードウェアとソフトウェアの両方に強みを持つため、物理的な製品と、デジタル技術を組み合わせた課題解決方法で差別化を図っている」と語る。
TOSHIBA SPINEX for Energyは「集中監視」「運用・保守(O&M)支援」「予測・最適化」という、大きく3つの機能に分類し、それぞれがエネルギー業界特有の課題に対応している。例えば集中監視では、発電所や工場など複数拠点のデータを集約し、一元管理することで効率的に運用できるようにした。
O&M支援では設備の故障予兆の検知や、点検業務のデジタル化によって運用効率を向上させる。さらに予測・最適化ではAIやモデル化技術を活用し、発電量やエネルギー需要の予測から最適な運用計画を提案するという。
顧客のターゲットは、数こそ限られるものの一件ごとの規模が大きい電力会社、増加している再生可能エネルギー事業者や自家発電設備を持つ工場などがある。それぞれの状況に合わせて、メンテナンスなど独自性のあるサービスを提供していくという。
TOSHIBA SPINEX for Energyは、多くの具体的なユースケースでその価値を発揮している。例えば火力発電所向けには故障予兆検知や性能評価システムを提供していて、これによって稼働率向上や燃料費削減を可能にした。また太陽光発電所向けには、複数拠点の稼働状況を集中監視するクラウドサービスがあり、効率的な管理業務を実現している。
さらにAIによる予測技術を活用しており、水力発電所ではダム流入量予測と連動した最適運用計画を立案しているという。このようなデータ駆動型の運用改善はカーボンニュートラルへの貢献にも直結している。
TOSHIBA SPINEX for Energyのもう一つの重要な側面は、顧客との共創によって課題解決を進めていく姿勢だ。この点は、他社のDXブランド施策とも共通している。武田技師長は、「われわれは単なるソリューション提供者ではなく、顧客とともに課題解決に取り組むパートナー」と話し、その姿勢がサービス全体に表れていると感じた。
このような共創型アプローチと東芝独自の技術力によって、TOSHIBA SPINEX for Energyはエネルギー分野で、DXとGX(グリーン・トランスフォーメーション)の旗振り役として展開している。エネルギー分野に特化した取り組みは、業界内でも、他社のDXブランドと比べても異色だ。
TOSHIBA SPINEX for Energyの5つの強み
武田技師長は、TOSHIBA SPINEX for Energyの強みを5つ挙げる。1つめが、エネルギー業界で頻繁に発生するユースケースに対応するため、多数の標準サービスとソフトウェア部品をそろえている点だ。例えば、巡視点検や作業管理、予測診断などの業務を支援するためのツール群をパッケージ化していて、これらを顧客ニーズに応じて組み合わせられるようにした。
2つめの特徴として、東芝IoTリファレンスアーキテクチャー(TIRA:Toshiba IoT Reference Architecture)にのっとり、他システムとの連携性が高い点を挙げる。既存のシステムとの統合を容易にするため、150種類以上の公開APIを提供していて、これによって顧客環境における効率的なデータ連携を実現した。武田技師長は「API連携によって既存システムとの統合がスムーズになり、導入時の障壁を取り除く」と語る。
3つめが、旧来のオンプレミス型に加え、SaaSによるクラウド型も2024年2月から提供しており、顧客の社内事情やセキュリティ要件に応じて環境を構築できる点だ。この柔軟性によって、顧客は社内状況に応じた最適な環境を選択できる。これにより、小規模な工場から大規模な発電所まで幅広い用途で利用できるようにした。
4つめが、エンジニアがプログラミング言語を高度に習得しなくても、アプリケーションやサービスを容易に作成できるローコード開発環境だ。ユーザー自身がMicrosoft Power BIやGrafanaなどの可視化ツールを活用しながら、自作UIやPythonによるアルゴリズム実装をできる仕組みを整備している。これにより、専門的なプログラミングスキルを持たない現場のエンジニアが、自分自身で必要なアプリケーションを開発できる仕組みを備えた。
最後の5つめが、情報モデルによってデータ連係を容易にしている点だ。この情報モデルはデータ構造化技術を活用し、例えばボイラーや配管などの機器情報を標準化したデータにすることによって、データの再利用性を向上させている。この仕組みにより、新しいデータ追加時にも簡便かつ迅速な連携を可能とし、高い操作性を実現した。
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