カスハラから見える「企業の準備不足」 従業員を守ることで企業が得るもの
人事部門は、従業員同士の関係性に関する問題を解決する役割を担うことが多いが、外部からのハラスメントについてはどうだろうか。企業のリーダーたちは、クライアント、取引先、顧客など、社外の第三者によるハラスメントや差別に対しても、法的責任を負う可能性があることを認識すべきだ。
人事部門は、従業員同士の関係性に関する問題を解決する役割を担うことが多いが、外部からのハラスメントについてはどうだろうか。企業のリーダーたちは、クライアント、取引先、顧客など、社外の第三者によるハラスメントや差別に対しても、法的責任を負う可能性があることを認識すべきである。
米国平等雇用機会委員会(U.S. Equal Employment Opportunity Commission, EEOC)は、米ワシントン州に拠点を置く人材派遣会社SmartTalentに対し、「男性従業員のみを要求するクライアントの要望に応じた」として、対象者に合計87万5000ドルの支払いを命じた。レストランチェーンのBuffalo Wild Wingsは、「黒人客を店の奥に移動させろ」という人種差別的な顧客の要求に従った2人の従業員を解雇し、公式に謝罪した。コストコでは、顧客によるストーキング、盗撮、体への不適切な接触が1年以上続いた末、従業員が提起した「敵対的職場環境」訴訟において、裁判所が従業員側を支持する判決を下している。
カスハラの問題点は「企業側の準備不足」
Axonifyの2022年のレポートによれば、顧客からの敵対行為は過去最高レベルに達しており、特に「企業側の準備不足」が問題視されている。ハラスメント対策研修会社Traliantのコンプライアンス担当副社長エリッサ・ロッシ氏は、「この問題は確実に深刻化している」と指摘している。
Traliantが発表した「2025年版職場ハラスメント実態レポート」によると、ハラスメント被害の主な加害者は上司や同僚だが、14%の従業員がクライアント、顧客、その他の外部者からハラスメントを受けた経験があると回答している。ロッシ氏によれば、こうした問題への対応は一筋縄ではいかないという。
「人種や性別などに基づく明確なハラスメントもあれば、小売業や接客業などでよく見られる『不適切な境界侵害』もある」(ロッシ氏)。後者は、米国法上、必ずしも違法とならない場合も多いが、従業員のメンタルヘルスや企業運営に悪影響を及ぼす重大な問題である。
ハラスメントレベル別の対応策
レベル1:迷惑行為の場合
ロッシ氏によれば、どの程度の迷惑行為を問題視するかは企業によって異なる。最近では、多くの企業が人事部や外部のパートナーと協力して、「これは従業員だけでなく、他の顧客やスタッフにも悪影響を及ぼす」と判断される行為の基準作りに取り組んでいる。
レベル2:業務妨害レベルの場合
ロッシ氏は「ここ10〜20年の間に、顧客対応に対する文化的な意識が大きく変わった」と指摘する。以前は「通常運営か警察を呼ぶか」の2択だったが、近年では警察を呼ぶことに慎重になっている。これは、ジョージ・フロイド氏の事件(2020年)をはじめとする人種差別に起因する警察の過剰対応が社会問題化した影響による。
2018年には、米フィラデルフィアのスターバックスで黒人客が不当に警察を呼ばれる事件や、米アラバマ州ワッフルハウスでの過剰対応などが発生し、世間の注目を集めた。こうした背景を踏まえ、ダイバーシティー推進の専門家ジャニス・ガッサム・アサレ氏は、警察を呼ぶ前に「法律違反があったか」「社内規則違反があったか」などを確認する自問プロセスを企業に提案している。
ロッシ氏は、従業員に「ディエスカレーション」(事態の沈静化)のスキルを身につけさせることを推奨している。「たとえ顧客が明確に悪意をもって行動していたとしても、冷静に対応する能力を持っていることが重要だ」(ロッシ氏)
レベル3:差別的ハラスメントの場合
HR Diveの取材では、「教育」の重要性が繰り返し強調された。ロッシ氏によれば、企業は近年、ポリシー整備、研修実施、従業員のハラスメント保護意識の向上に力を入れている。
匿名での通報手段を整備することも非常に重要だ。Traliantのデータでは、名前を出さずに通報できる場合には報告率が高まるが、匿名通報ができない場合、49%の従業員が報告をためらうという。主な理由は「報復への恐れ」「評判リスク」「社内プロセスへの無知」である。
さらに「#MeToo」運動以降、職場における世代間ギャップも浮き彫りになっている。ファストフード業界などでは、年上の従業員が「昔は我慢していた」と考えがちだが、それが現在の若い労働者に適した対応とは限らないとロッシ氏は指摘する。
ロッシ氏は「従業員が声を上げることは、企業にとって有益だと多くのリーダーたちが認識するようになってきた」と述べる。数百ある店舗や拠点それぞれで何が起きているかを把握する手段として、従業員からのフィードバックは重要な役割を果たしているのである。
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