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組織の変化に「無視」「不満」を示す社員たち エンゲージメント推進者はどう対応すべきか?

エンゲージメント活動を推進する際に、エンゲージメントを実践し、広げていく多くのER(Engagement Runners)が体験するのが、マネジャーやメンバー、場合によっては経営層による「変化への抵抗反応」です。「抵抗」に対してERがどのように対応すればよいか解説します。

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この記事は『わたしたちのエンゲージメント実践書』(株式会社アトラエ Wevoxチーム著、田中信著、日本能率協会マネジメントセンター)に掲載された内容に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。


「変化への抵抗」にどう対応するか

 エンゲージメント活動を推進する際に、エンゲージメントを実践し、広げていく多くのER(Engagement Runners)が体験するのが、マネジャーやメンバー、場合によっては経営層による「変化への抵抗反応」です。「抵抗」に対してERがどのように対応すればよいか解説します。


写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

 エンゲージメントを実践し、広げていくER(Engagement Runners)はエンゲージメント活動を推進する過程において「変化」(Change)と「変容」(Transition)を扱う必要があります。

 次の図に、組織の変化と人・組織の変容について示します。


組織の変化と人・組織の変容

 エンゲージメント活動と関連する組織の変化には以下の例が挙げられます。

  • リーダーシップとマネジメントのスタイル変革
  • コミュニケーション改革や透明性の向上
  • 報酬と評価システムの見直し
  • キャリア開発やスキルアップのしくみ
  • チーム力開発やコラボレーションの促進
  • エンゲージメントの測定と改善

 これらの「組織の変化」には多くの場合「組織」と「人」が介在します。そして、その「組織」と「人」が組織変化の過程で直面するのが「変容」(Transition)です。言い方を変えれば「人は変化に直面すると抵抗にみえる反応を含むプロセスを通じて、変化へ適応していく」となります。

 では、人が変化に直面したときに体験する変容の過程とは、どのようなものでしょう。

 変容については、これまでさまざまな先人たちにより研究が進められています。私たちはそれら先人の知恵も参考にしつつ、以下のプロセスで捉えています。


組織の変化に伴う人の変容過程

 以下に図の左から順に各ステップの説明と対応について解説します。

■組織の変化(メッセージの発信)

 メンバーに対して、組織から「変化に関するメッセージ」が発信された状態です。説明会や講演会など、職場の人たちが初めてエンゲージメント活動の情報に触れるタイミングがこのステップに該当します。

■無反応・スルーにどう対処すればいい?

 人は初めて聞いたことは、どのように捉えたらよいかわからないため、良し悪しや、自分に関係するのか否かといった判断基準を持たず、反応できません。結果として「無反応」という現象になります。

 例えばあなたがチーム内で何か新しいアイデアなどを提案した際に、誰からも何も反応がなかった経験があるかもしれません。それがこのステージです。

 このステージにおけるメンバーの(無反応・スルーという)反応は、周りの人の反応を気にしやすい人や感受性が高い人には、自分が拒絶されたように感じるかもしれません。

無反応・スルー(拒絶)への対応策

 エンゲージメントを実践し、広げていくERの対応策としては、まず人は誰しも、新しいことには反応できない段階があることを知っておくことが大切です。周りの人の無反応な状態が、自分に向けられた特定の行為ではなく、変化の過程において、誰にでも起こる普通な反応であることを認識して対応することが大切です。

 この段階は、手を変え品を変え、さまざまな表現で何度も説明することで、次の段階へと移行していきます。

 説明会や講演会は無反応な状態に揺さぶりをかけて、次のプロセスである「感情の表出」に進んでもらうための、重要アクションとも言えます。

■感情の表出(怒り・不満)への対応は?

 前述の無反応やスルー、拒絶と思われる反応に負けず、変化の必要性を伝え続けたり、実際に自らが発信していることを仲間と共に率先して取り組む(例:モデルチーム活動)ことで、次に起きるのは感情的反応です。

 この反応がどのように表出するかの例として

  • なぜ、そんなことをする必要があるのか?
  • そんなことをしてうまくいくのか?
  • その改革は誰がやるのか?
  • 今、担当している仕事はどうしたらいいのか?
  • 失敗したらどうするつもりか?
  • うちの会社で、そんなことが本当にできるのか?

などがあります。

感情の表出(怒り・不満)への対応策

 無反応の対応策と同様、人は新しいことに直面すると、感情的な反応(特に否定的であったり、怒っているように見てとれる反応)をする段階があることを知りましょう。ERの気持ちとしては、職場の人たちのために、よりよい組織、チームづくりをしようと思って活動している時に、このような感情的な反応をされることで、ショックを受けてしまうことがあります。

 一方で、このような感情的な反応が出てくる現象は、前段階の「無反応」とは異なり、伝えているメッセージが相手に届いている結果と捉えることができます。もし「自分には関係ない」と思っているならば、このような感情的な反応は不要だからです。

 よってこのような否定的な反応が表出することはエンゲージメント活動を推進する上では、職場の人たちの認識が前進していると捉えることもできます。

 具体的な対応策としては、否定的な反応や感情(怒り)の反応を、まずは受け止めることが必要となります。受け止めるといっても、自分のせいではないか、などと悩む必要はありません。「そのように捉える人がいるのだな」というように捉え方の一つとして認識することが大切です。

 並行して、このような感情的な反応段階にいるメンバーとは別に、新しいことに前向きに取り組もうとするメンバーや、エンゲージメントに対して課題意識を持っていて、既に取り組みを始めているマネージャーも組織内に存在しているケースも多く見受けられます。ERはこのような活動に前向きに協力してくれるメンバーを発掘することが大切です。

 人によっては、新しいものに対して前向きに反応できるタイプの人たち(イノベーターやアーリーアダプター ※)もいます。

(※)エベレット・M・ロジャーズ『イノベーションの普及』(中野収訳、翔泳社、2007年)

 新たに始めるエンゲージメント活動に対し、前向きな人を発掘・連携し、小さくてよいので好事例づくりを進めていくことが大切です。この小さな好事例づくりが変化への抵抗に対する大きな対応策となっていきます。前向きな人の見つけ方については後述します。

■「とまどい」に対する適切な対応とは?

 ERがマネージャーやメンバーから「無反応」や「感情的な反応」を受けている中、それでもエンゲージメント活動の価値を伝え続けたり、実践し続けることで、メンバーも「困ったな……ERは言い続けているし、いろいろ試行錯誤している。どうしよう……」といった戸惑いが生まれます。

 誰しもやったことがないことには、どのように対応したらよいかが分からないため「とまどい」が発生することも変化への対応時の特徴です。

 この「とまどい」が変容する際にはとても重要な段階と言えます。なぜなら、変わるためにどうしたらよいか、を考えているからこそ「とまどう」ためです。

とまどいへの対応策

 ERはエンゲージメント活動を推進する中で、関係者たちに「とまどい」が発生することを理解し、寛容であることが求められます。

 「とまどい」の期間があることを無視して、活動を進めようとしてもなかなか行動が生まれません。焦らず「とまどい」の期間を扱うことが大切です。

 一方で、「感情の表出段階」でも紹介したエンゲージメント活動に前向きに協力してくれるメンバーとの小さな好事例づくりについてはコツコツと進めることが大切です。

 この好事例づくりが次の「試行錯誤」の段階で有効に働くことになります。

■試行錯誤

 「とまどい」の過程において、それでもERが、エンゲージメント活動を推進することの大切さや、組織内でのモデルチーム活動などを通じて小さな好事例づくりを進めている情報が広がっていくと、抵抗反応は「試行錯誤」の段階に入っていきます。

 この段階では、ERやモデルチームのマネージャー、メンバーに対して、「エンゲージメント活動をどのように進めているの?」「エンゲージメント活動を推進するとどんな効果があるの?」といった活動の進め方について尋ねてみたり、自分なりのエンゲージメント活動の進め方について調べたりといった試行錯誤が生まれます。

 このように試す段階に入ると、やってみてうまく行くことや、うまく行かないことが体験できます。試行錯誤に対してフィードバックがされることでエンゲージメント活動への対応方法を発見していくことになります。

試行錯誤への対応策

 ERに求められる対応策は、これまで実践してきたモデルチーム活動などの小さな実践結果を見える化し、試行錯誤を重ねている職場のマネージャーやメンバーへ広く伝えていくことです。職場への支援を通じて、エンゲージメント活動を組織に広げていくことができます。

■習慣化

 変容の最終段階では習慣化というエンゲージメント活動を当たり前に実践できる段階があります。この段階に至ると、人によっては最初に「できない・無理」と思っていたことができるようになった経験を通じて「やればできる感」(自己効力感)を感じることができます。

 このような経験を通じて、「もっとできるかもしれない」と、新たな変化に対して前向きに捉える状態を作ることにもよい影響を与えることができます。

習慣化への対応策

 習慣化の段階では、ERは各チームでのエンゲージメント活動の事例をインタビューなどを通じて収集し、広く組織に伝播していくことで、さらなる活動の促進を図りやすくなります。

 また、自分たちの事例をインタビューされたり、組織の内外で紹介されることで、「自分たちのやっていることは価値のあること」という認識を高め、自信をつけることができます。

 このようにERが変化への抵抗反応に対して取り組むことで、エンゲージメント活動を進めることができるようになります。

人や組織の変容へ対応するコツ

 ERは組織やマネージャー、メンバーから抵抗反応を受けた際に対処するスキルを身につけることが求められます。特に活動の初期段階ではER自身も、活動目的や進め方に確信があるわけではありません。

 ER自身の内にある「疑問」「不安」「恐れ」「とまどい」「落胆」などに関わる意見をメンバーからの質問やコメントで受け取ってしまうと、過剰に反応してしまったり、想定外の質問に戸惑ってしまったり、回答に窮する質問やコメントに動揺してしまったりすることはよくあることです。

■人や組織の変容への対応ポイント

  • ネガティブな発言や抵抗と思われる発言に対し、なんとか説得しようと深追いし過ぎない
  • このような質問やコメントに対しては、「今後、活動を進める際に重要となる学びの視点」として扱う(即答しようとせずに別途、回答することで一次対応する)
  • ネガティブな発言をする人には、時間をかけてやりとりしながら対応する(変容過程に関わる気持ちで相手に関わる)
  • 相手が変容できればラッキー、変わらなければまだタイミングではないといった程度で相手の変容に関わる

人の集まりである組織、チームにも変容のプロセスがある

 マネージャー、メンバーの一人一人に組織の変化に伴い抵抗反応が起こるように、組織、チームにも変化への抵抗反応が起こります。それは組織やチームの雰囲気、ムードといった感覚的なもので認識することができます。

 ERにとっては、活動初期に経営層へ企画を提案する場面や全社向けの説明会、個別チームに対する活動支援のスタート時などで直面することが考えられます。

 ERはこのような場面で、組織、チームにおいても抵抗反応のような状態が起きることを予め想定しておき、どのように対応するか、準備しておくことが大切です。

 組織の変容は、前述した人の変容過程を参考に捉えることができます。人の変容にはない、組織の変容の特徴の例として、説明会の場面などでは、他の人が発言しにくいことを察して代表者として活動に対する疑問や懸念を提示する人が現れるという現象があります。

 このような代表者的な発言をする人は「私だけでなく、他の人もそう思っているはず」といったスタンスを取ることがあります。ERがその場でいろいろ説明や説得を試みようとしても、「わたしが納得するということでなく、ここにいる他の人がどう思うか」という観点での発言のため、納得を得ることは難しいことがあります。

 その場合は「ご意見ありがとうございます。今後、活動を具体化する中で参考にさせてください」といった形で、一旦受け止めておき、必要であれば、事後に個別に意見交換する、といったアプローチも検討してみてください。

 また、組織の変容は人の変容以上に長期的な視点で捉え、対応していく必要があることも予め理解しておきましょう。

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