経理はAIをこう使え!活用法9選 ChatGPTで財務分析レポート、NotebookLMで契約書分析
AIは目覚ましいスピードで進化を続けている。経理担当者はその業務において、どの生成AIを、どのように活用すべきだろうか。財務分析レポートの作成、契約書の内容分析、難解なリース会計基準を理解するためのクイズアプリ作成など、実践的な9つの活用法を紹介する。
AIは目覚ましいスピードで進化を続けている。経理担当者はその業務において、どの生成AIを、どのように活用すべきだろうか。
こうした疑問に応えるべく、マネーフォワードは「生成AI×経理業務の実務活用事例を大公開」と銘打ったオンラインセミナーを開催した。登壇したのは、生成AI活用の専門家であるセブンセンス税理士法人の大野修平氏と、実際にマネーフォワードの経理部門でAI活用を推進する執行役員の松岡俊氏。
ユーザー数が多いChatGPTはもちろん、GeminiやNotebookLMといった最新ツールを実際に動かしながら、経理業務での具体的な活用シナリオ、導入の勘所、そしてAIと共に働く未来の経理担当者の姿について議論を交わした。
その中で解説された、財務分析レポートの作成、契約書の内容分析、難解なリース会計基準を理解するためのクイズアプリ作成など、実践的な9つの活用法を紹介する。
経理担当者が知っておきたい「AIのツボ」
セミナーの冒頭、大野氏は、生成AIを使いこなすための「最初のツボ」として、「プロンプトの基本形」と「オプトアウト申請」の2点を挙げた。
プロンプトとは、生成AIに対する指示のことである。大野氏は、初心者にも分かりやすい基本の型を4つの要素で示した。
- #前提:AIにどんな役割を期待するか
- 例:あなたは経験豊富な経理コンサルタントです
- #命令:やってほしい具体的なこと
- 例:この契約書のリスクを洗い出してください
- #制約条件:指示を実行する上での注意点
- 例:専門用語は使わないでください
- #出力形式:結果をどう示してほしいか
- 例:箇条書きでお願いします
「この4つを意識するだけでも、だいぶAIとの対話がスムーズになるはずですよ」(大野氏)
AIの基本的な使い方が理解できたら、次に気になるのは「AIを使うリスク」だろう。多くのセンシティブな情報を扱う経理担当者がAIを使う場合、どんなことに気をつけたらいいのだろうか。
「生成AIは、私たちが入力した情報を『学習』して、他の誰かへの回答に使ってしまうことがあるんです。機密情報だらけの経理業務では、この『学習機能』をオフにする『オプトアウト』の設定が欠かせません」(大野氏)
例えばChatGPTなら、設定画面の「Data controls」にある「Improve the model for everyone」というスイッチをオフにする。これで、入力した情報がAIモデルの学習に使われるのを防ぐことができるのだ。
さらに大野氏は、特定のテーマに特化したAIを手軽に作れる「GPTs」(ChatGPTの機能)という仕組みにも言及した。
「GPTsは、ChatGPTを特定の目的に合わせてカスタマイズできる機能です。しかも、作ったGPTsは他の人に共有することも可能です」(大野氏)
GPTsなら「なんでも屋」のChatGPTを、特定の業務知識に特化させることができる。経理のように専門的な業務でも、精度も信頼性の高いアシスタントとして、AIを活用できる可能性を示している。
経理業務への生成AI活用事例
セミナーでは、実際に生成AIを触りながら、次々と具体的な経理業務での活用事例を披露するデモセッションを実施した。ここからは、使用したAIと経理業務での活用事例を紹介していく。
1.ChatGPT×財務分析レポート作成
大野氏は、経済産業省が提供する財務分析ツール「ローカルベンチマーク」(ロカベン)のデータを使って、ChatGPTに経営陣向けの分析レポートとアドバイスを作成させるデモを実演。Excelデータをコピペし、「このデータで経営陣にアドバイスしたいんだけど」といった簡単な指示で、見る見るうちに分析結果と提案が形になっていく様子を披露した。
中でも注目したいのは、比較的新しい「キャンバスモード」の活用だ。
「今までは出力がイマイチだと、またゼロからやり直し……ということが多かったんですが、キャンバスモードなら、文章の編集や修正がすごく楽。『文章量を短くして』『もっと分かりやすく』といった調整も、AIと対話しながらサクサク進められます。管理会計レポートのような相手に合わせた微調整が必要な場面では、かなり重宝しますよ」(大野氏)
2.Google スプレッドシート×Gemini
松岡氏は、表計算ソフトの定番、Google スプレッドシートに組み込まれたAI「Gemini」を使ったデモを披露した。
「この表の果物の種類別に金額を集計して」と、まるで同僚に頼むような自然な言葉で指示するだけで、Geminiが瞬時に適切な関数を提案。さらに、ボタン一つでその関数がシートに適用され、結果が表示されていく。
「これまでは、適した関数を調べるために『あれでもない、これでもない』とネット検索していたと思います。でも、Geminiを使えばその手間がほぼなくなるんです」(松岡氏)
3.Gmail×Gemini
日々大量のメールに埋もれがちな経理担当者の救世主となりそうなのが、GmailとGeminiの連携である。未読メールの中から「私宛てで重要そうなものをピックアップして要約して」と頼んだり、「この内容で丁寧な返信文を作って」とお願いしたりするデモが行われた。
「うまく活用すれば重要なメールの見落とし防止はもちろん、メール作成の時間も大幅に短縮できますよ」(松岡氏)
4. Gemini×クイズアプリ作成
「実は、ちょっとした研修ツールもAIで作れるんです」
松岡氏が披露したのは、Geminiを使ったクイズアプリ作成デモだ。難解なリース会計基準のPDFファイルを読み込ませ、「この内容を理解するためのクイズアプリを作って」と指示するだけで、プログラミングの知識ゼロでも、数分後にはインタラクティブなクイズアプリが完成した。
5.Gemini×PDF読取
海外に拠点を持つ企業の経理担当者を悩ませるのが、外国語の書類との格闘である。松岡氏は、実際にマネーフォワード社内で試したという、ベトナム語で書かれた税務申告書PDFをGeminiに読み込ませるデモを実演。税引前利益や納税額など、タックスヘイブン対策税制の申告に必要な項目を正確に抽出し、日本語で、しかも日本の申告書に転記しやすい形で整理させることに成功した。
「最近のAIは、PDFの中身をきちんと読んで、欲しい情報をピンポイントで抜き出してくれるんです。これを活用すれば、業務はかなり効率化できますよ」(松岡氏)
6.NotebookLM×契約書分析
経理業務でAIを使う上で、誰もが心配するのが「ハルシネーション」だ。松岡氏は、このリスクをぐっと抑える方法として、GoogleのAIノートアプリ「NotebookLM」を紹介した。このツールの最大の特徴は、アップロードした資料だけを”教科書”にして、回答を生成する点にある。
「回答の根拠も明確に示されるので、安心して使えるんです。現時点では、会計基準の解釈や、社内規程に関する問い合わせ対応に、もってこいのAIだと思います」(松岡氏)
7.NotebookLM×英文財務報告書作成支援
NotebookLMは翻訳作業でも威力を発揮する。松岡氏は、英文のAnnual Report(年次報告書)を作成する場面を想定したデモを披露。
日本語の有価証券報告書の一部と、参照すべき正しい会社名表記のリスト、そして「去年の言い回し」を学習させるために過去のAnnual Reportをソースとして読み込ませた。その上で翻訳を指示したところ、単純な機械翻訳では間違いがちな固有名詞のスペルも完璧にクリアし、かつ過去の表現を踏襲した、非常に精度の高い英文が生成された。
用語の統一性や文書スタイルの一貫性が求められる場面で、NotebookLMがいかに有効かを示している。
8. Claude×図解・グラフ作成
「時には、言葉より図の方が伝わりますよね」と松岡氏が紹介したのは、「Claude」である。デモでは、リース会計基準の込み入った文章を分かりやすいフローチャートに変換させたり、有価証券報告書に並んだ数字の羅列を、瞬時に見栄えの良いグラフに変換させたりする様子が示された。
「複雑な情報を、パッと見て理解できるように図に起こしてくれる。プレゼン資料を作る時などに、本当に頼りになる相棒です」(松岡氏)
9.ChatGPT Operator×単純作業の自動化
最後に大野氏が紹介したのは、まさに未来の働き方を予感させるChatGPTの新機能「Operator」であった。これは、Webブラウザ上で行う一連の操作を、AIがユーザーに代わって実行してくれる「AIエージェント」と呼ばれる技術の一つである。
デモでは、NotebookLMに複数のWebサイトのURLをソースとして一つ一つ追加していく、という地味ながら手間のかかる作業をOperatorに指示。すると、Operatorが自動でブラウザを操作し、URLをコピー&ペーストし、ボタンをクリックしていく様子が映し出された。
「AIから『このボタン押していいですか?』とか『確認はもう不要ですか?』と聞いてくるんですよ。まるで人間がAIに指示されているような感覚になります。Operatorを使っていると、AIと人間の付き合い方は、新しいステージに入ってきたなと感じますね」(大野氏)
情報漏洩リスクをどう捉えるか
デモを通じてAIのパワフルさが示される一方で、やはり気になるのは情報漏洩のリスクである。この点について、両氏は「過度に恐れる必要はない」としつつも、「正しい知識と対策は必須」という見解で一致した。
「クラウド会計が出た時も、『会計情報をクラウドに上げるなんて!』という声はありました。でも今では当たり前ですよね。考えてみれば、メールで機密情報を送ることだって、リスクがないわけじゃない。生成AIも他のクラウドサービスと同じように、リスクと利便性を天秤にかけて判断すれば良いのではないでしょうか」(大野氏)
さらに、チームでAI活用を活用するヒントとして、AIを「一部のエース社員だけのものにしない」ための工夫も紹介された。
「我が社では、便利だったプロンプトは、社内SNSに共有するようにしているんです。そうすると、他の人たちも自然とコピペして使うようになります」(松岡氏)
AIエージェントは経理業務をどう変える?
セミナーの締めくくりとなるパネルディスカッションでは、「AIエージェント」(Operatorのような自律的に作業を進めるAI)の登場が、これからの経理業務をどう変えていくのか。そしてAI時代に経理担当者はどう価値を発揮していくべきか、という未来に向けたテーマが掘り下げられた。
「OperatorのようなAIエージェントは、まだ出始めたばかりで不便な点も多いですが、そのポテンシャルは計り知れません。今までのAIが『補助』だとしたら、エージェントは経理の『メイン業務』の一部を担える可能性があると感じています」(松岡氏)
「AIエージェントが台頭しはじめると、今まで優秀な経理担当者の条件だった『作業スピード』や『知識量』といった要素は、少しずつAIに譲っていくことになるでしょう。そこから先の経理担当者は、より付加価値の高い役割を求められるようになると想像しています」(大野氏)
両氏は、AIが進化する時代に経理担当者が価値を出し続けるためには、以下の点がカギになると予想した。
- まずはデジタル化:AIがどんなに賢くなっても、元となるデータが紙のままでは、AIを活用できない。紙で保管している請求書や契約書をPDFにするだけでも、将来に向けた大きな一歩となる
- 最新のAIに触れる:AIの世界はドッグイヤーである。常に新しい情報にアンテナを張り、まずは自分で試してみることが大切
- 人とつながる:AIは優秀だが、部門間の調整や、現場の悩みを聞き出して解決策を考えるなど、できないこともある。人間だからこそできることが、今後の経理担当者にはますます求められるようになる
「これからの経理は、単なる記録係ではなく、組織全体の課題解決をリードする、もっとフロントに近い存在になっていくのかもしれませんね」(大野氏)
「AIを使いこなせる経理と、そうでない経理。その差は、これからどんどん開いていくと思います。5年後、10年後にAIエージェントが当たり前になった時、その恩恵を最大限に受けるためにも、今からデジタル化を進め、AIに触れておく。それが未来への投資になるはずです」(松岡氏)
今回のセミナーは、生成AIが決して遠い未来の話ではなく、すでに経理業務の「すぐ隣」まで来ていることを、具体的なデモンストレーションを通じて鮮やかに示した。
「AIなんて、よく分からない」「AIは信用できなくて怖い」と感じている経理担当者も、まずは小さな一歩から、身近な業務でAIを試してみてほしい。それが、変化の激しい時代を乗りこなし、これからの経理担当者として価値を高めていくための、スタートラインとなるだろう。
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