2015年7月27日以前の記事
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「何台売れたか」は経営指標に値しない 自動車メーカーをこれから襲う、激変の波Merkmal(2/2 ページ)

世界の新車販売が鈍化するなか、自動車産業は「売ったら終わり」の時代からの脱却を迫られている。鍵を握るのは、1台あたりの収益をいかに長く、多層的に確保するかという視点だ。台数よりも関係性――製品の寿命全体をビジネス化する構造転換が、今まさに試されている。

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製品それ自体の定義が変化している

 製品を取り巻く構造が変わったわけではない。変化しているのは、製品それ自体の定義である。製品はもはや、完成した時点で役割を終えるものではなくなった。

 設計の段階から、使われながら機能や役割が変化する構造が求められている。データや使用履歴は企業の資産とされ、管理対象に組み込まれる。価値のピークは製造完了時ではない。運用と更新を通じて価値が形成される時代に入っている。

 自動車の価値は、走ることによって得られる体験や、利用を通じて蓄積されるデータにある。ユーザーの行動が企業にフィードバックされる構造が前提になっている。だからこそ、製品は常に稼働可能な状態で維持されなければならない。定期的に機能や性能を再定義することも不可欠だ。

 稼働率と情報更新の継続は、収益と直結する決定的な要素となる。この変化は、製造業に対して構造的な変革を迫っている。製品を供給して終わりではなく、そこから段階的に収益を生む仕組みが求められる。

 調達、製造、販売、使用、点検、回収、再販――あらゆる工程が、単なる作業ではなく、収益を生み出す機能とみなされる。工程そのものが設計の対象となるべきだ。1回の取引で終わるモデルでは、コスト上昇や需要停滞に対応できない。


写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

数量に依存した事業はもはや通用しない

 製品寿命の延長や再商品化を通じて、初回販売価格以上の収益をいかに長期間にわたって確保するかが問われている。これは企業と製品の関係性そのものを捉え直す試みである。収益の源泉は、モノとしての製品ではなく、時間軸上に展開されるサービス網に移りつつある。

 もはや売ることは終点ではない。それは始まりにすぎない。売った後に続くメンテナンス、保証、機能拡張、走行履歴の活用といった一連の関係性が、企業の利益の大半を構成する。

 重要なのは、こうした時間軸のビジネスモデルが、使用後に発生するリスクとも不可分である点だ。例えば

  • 環境負荷
  • サイバーリスク
  • データの管理責任

――などが挙げられる。したがって、製品の寿命管理とデータの保全は同時に成立させなければならない。どちらかを怠れば、収益の持続可能性は簡単に崩れる。

 株式市場が販売台数よりも、時間軸で展開される収益構造を評価し始めているのは、この変化を如実に示している。維持と再設計を前提にした製品が、今後の市場で価値を持つ。製品そのものだけではなく、設計力、保守体制、運用ノウハウを含めた統合的な供給力が企業の評価対象になる。もはや製造台数の多さは、かつてほど意味を持たない。

 この転換を理解できない企業は、値下げやコスト削減による延命を繰り返し、最終的には自らのビジネスモデルを崩壊させることになる。製品数ではなく、1台の製品からいかに多層的な価値と収益を引き出せるか。その設計思想と運用力こそが、今後の競争軸となる。

 数量に依存した事業はもはや通用しない。台数の指標で見える世界は、事実のごく一部にすぎない。これからは、1台ごとの価値を長く、深く、幅広く引き出す設計力と運用能力が、企業の実力を測る物差しになる。

 売ることではなく、関係を維持すること。一度の取引ではなく、複数回の接点を作ること。誰に売るかより、いつまで接点を保つか。その違いを理解できるか否かが、自動車産業の未来を左右する。

© mediavague Inc.

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