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「何台売れたか」は経営指標に値しない 自動車メーカーをこれから襲う、激変の波Merkmal(1/2 ページ)

世界の新車販売が鈍化するなか、自動車産業は「売ったら終わり」の時代からの脱却を迫られている。鍵を握るのは、1台あたりの収益をいかに長く、多層的に確保するかという視点だ。台数よりも関係性――製品の寿命全体をビジネス化する構造転換が、今まさに試されている。

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 過去半世紀、自動車メーカーにとって最も重要な経営指標は明確だった。何台売れたか。どれだけシェアを取ったか。部品供給を含め、関連産業全てがこの指標をもとに事業を展開してきた。

 だが、2020年代の半ばに入り、世界の大手市場では明確な変化が表面化している。販売の伸びが止まり、在庫調整の動きが常態化し、各社が期末に向けて価格施策を乱発する。

 これは一過性の景気循環や政策効果の剥落によるものではない。製品の供給力をいくら高めても、購入そのものに対する熱量が下がっている。数量の拡大によって成長を達成するモデルが、機能不全に近付いている。


数量の拡大で成長を達成するモデルが機能不全に近付いている。写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

保有コストが増大

 これまでの販売増は、人口増加と所得上昇に支えられてきた。しかし都市部では若年世代の可処分所得(個人や世帯が手取りとして自由に使える所得)が減少傾向にあり、地方では人口そのものが減っている。加えて、多くの国で公共交通の整備が進み、クルマが移動の必要条件ではなくなった。

 また、保有コストも増加している。自動車ローン金利は上昇し、保険料は引き上げが続き、駐車場費用は都市部で高止まりしている。法規制も進み、電気自動車(EV)購入へのインセンティブは年々縮小されている。かつて購入を後押しした複数の要因が同時に反転していることが、販売台数の鈍化を説明している。

 こうした現象は日本に限らず、中国、欧州、北米といった中心市場でも観測されている。局所的な問題ではなく、グローバルな事業モデルの再設計が必要な時期に来ている。

製品の価値を上げるだけでは不十分なワケ

 これまでのやり方では、販売価格と原価の差、つまり製造と販売の一往復で得られる利幅が企業の収益を支えていた。だがこのモデルは、数量を維持できなくなれば機能しない。販売が落ちるたびに固定費を圧縮し、値下げ合戦を繰り返すようでは長期的に収益は安定しない。注目すべきは、1台の製品から長期間にわたって多層的に収益を得る仕組みへの移行である。例えば、

  • ソフトウェア更新による新機能の追加
  • 定期点検と関連サービスの継続提供
  • サブスクリプション型の安全機能
  • 保険、課金型のナビゲーションや運転支援

――などがある。こうした手段によって、初期販売後もキャッシュフローが発生する関係をつくれるかどうかが分水嶺になる。

 製品そのものの価値を上げるだけでは不十分だ。それを維持・拡張・交換する一連の行為に対して、いかに金銭的な対価を得るか。ここに移行できなければ、現代の製造業は長期的に持続し得ない。

使っている間ずっと収益化できる仕組みとは?

 製品を一度だけ売って終わるのではなく、複数の利用段階を通じて継続的に経済活動を発生させることが、今後の収益維持に直結する。例えば、

  • リース契約終了後の再整備と再販
  • 利用実績に応じたアップグレードの提供
  • 法人向けサポートサービス

――などが該当する。再販売される車両も、従来の安価で引き取られ、価格がつくうちにさばく対象ではなく、情報資産としての再構成が前提となる。

  • 走行履歴
  • メンテナンス記録
  • センサーデータ

――が蓄積された車両は、リスク分析や精密なリース価格設定にも活用できる。情報と物理的実体が結びつくことで、商材としての深みが増す。

 さらに、オンライン経由での遠隔操作や、運転行動に応じたリアルタイムの保険料調整なども導入され始めている。これにより、使っている間ずっと収益化できる仕組みが現実味を帯びてきた。

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