新卒入社後すぐ「転職サイトに登録」 “異変”はナゼ起きている?:働き方の見取り図(3/3 ページ)
退職代行サービスの利用、入社直後に転職サービスに登録――。これらは新卒社員だけに見られる動きかというと、そうとは限らない。日本の雇用を取り巻く環境を整理してみると、新卒社員の行動変化は働き手全体に起きている潮流の一部に過ぎないことが見えてくる。
「職場を去る」選択肢を手に入れた社員
マイナビが発表した転職動向調査によれば、在職中に転職をした人の割合は2024年に73.6%。転職とは一度退職した後に再び仕事に就く再就職とは異なり、在職中の人が間を開けずに次の職場に移ることを意味します。
テレビをつければ、毎日のように転職サービスのCMが流れているのを目にするのは、いま在職中の誰もが転職予備軍となり得る時代に突入していることを象徴する現象です。
転職サービスに登録することで、「いざという時には転職も辞さない」という選択肢が生まれます。その結果、かつてであれば耐え続けなければならなかったパワハラやセクハラといった問題に対しても「そこまでして残る必要はない」と判断し、早々に別の職場に移るという行動がとりやすくなります。
それは、働き手の精神衛生面を考えると大いにプラスでしょう。退職代行サービスの広がりについても、こうした流れを反映したものであると見ることができます。実際は利用しなかったとしても、いざとなれば使える退職代行サービスの存在自体が、強圧的な会社からの無理な引き留めを怖れずに退職できる選択肢となっています。
さらに近年では、アルムナイ制度を導入する企業も増えてきました。これは、退職した社員を裏切り者扱いするのではなく、良好な関係を保ち続け、副業や業務委託の形で仕事を依頼したり、将来的に再雇用の可能性を開いたりする取り組みです。アルムナイ制度があれば、社員としても辞めたら終わりではなく、辞めた後でも会社との関係性を継続するという選択肢を得ることができます。
このような変化は、「一択心中型」の時代とは異なり、会社と社員とがお互いのニーズに合わせて柔軟に関係性を最適な形へと変化させる「選択共存型」の時代へと移行してきている証明です。
社員と企業の双方に求められるのは?
会社から与えられた業務を何でもこなす無限定のメンバーシップ型から担当職務が明確な職務限定型へ、さらには欧米のようなジョブ型雇用へと、多様な雇用形態の中から社員が選択できる時代へ移ろうとしているのもその表れだと言えます。
他にも副業促進や、すきま時間を使っていろいろな職場で働けるスポットワークの広がり、部下が上司を選べる制度を導入する職場の登場など、社員と会社の関係性のあり方自体が再構築されようとしている兆候があちらこちらで見られます。
社員と会社の関係性は、今後さらに選択共存型の色合いを濃くしていく気配を感じます。そんな時代において社員側に求められるのは、会社に人生を委ねて依存してしまうのではなく、進む道を自らの意思で選択していくキャリア自律の姿勢です。
一方、会社側には在職しているか否かにかかわらず、社員からつながり続けていたいと思われる存在であることが求められます。「転職サービスに登録しやがって」「会社を辞めやがって」――などと一択心中型に固執し続ける会社からは社員の心が離れていき、人材流出という大きな代償を払うことになるのではないでしょうか。
著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)
ワークスタイル研究家。1973年三重県津市生まれ。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者、業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員の他、経営企画・人事・広報部門等の役員・管理職を歴任。所長として立ち上げた調査機関『しゅふJOB総研』では、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ5万人以上の声を調査。レポートは300本を超える。雇用労働分野に20年以上携わり、厚生労働省委託事業検討会委員等も務める。NHK「あさイチ」「クローズアップ現代」他メディア出演多数。
現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。
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