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週休3日やテレワークの見直し……「働き方改革」への懐疑論が広がるワケ働き方の見取り図(1/2 ページ)

欧米に限らず、日本でもテレワークをやめて出社回帰する職場が少なくない。柔軟な働き方を推進してきた働き方改革の揺り戻し現象は、広がっていくのだろうか。

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 日本経済新聞は、「揺らぐ欧州の働き方改革 産業弱めた『過度の時短労働』 」と題した記事で、週休3日制への懐疑論がドイツで広がっている様子を伝えました。

 ヨーロッパ各国では、週休3日制の実証実験が進められてきました。働き手からは幸福度が上がったなどと評価する声も聞かれたようですが、記事では「競争力が失われる」と週休3日制による影響を危惧する経営者の声が紹介されています。

 同様に、コロナ禍を機に一気に広がったテレワークについても生産性が下がるといった懐疑的な声がよく聞かれるようになりました。米国ではコロナ禍が収束に向かったころ早々に、テスラCEOのイーロン・マスク氏が実質的なテレワーク禁止を社員に通知しています。

 また、トランプ大統領も再選後すぐ、連邦政府職員のテレワークを原則禁止とする大統領令に署名しました。日本でも、テレワークをやめて出社回帰する職場が少なくありません。これら、柔軟な働き方を推進してきた働き方改革の揺り戻し現象は、広がっていくのでしょうか。


働き方改革の揺り戻し現象は広がっていくのか。写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)

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ワークスタイル研究家/しゅふJOB総研 研究顧問/4児の父・兼業主夫

愛知大学文学部卒業。雇用労働分野に20年以上携わり、人材サービス企業、業界専門誌『月刊人材ビジネス』他で事業責任者・経営企画・人事・広報部門等の役員・管理職を歴任。

所長として立ち上げた調査機関『しゅふJOB総研』では、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ5万人以上の声をレポート。

NHK「あさイチ」他メディア出演多数。


定着したテレワーク 広がる週休3日制

 日本生産性本部の「第16回 働く人の意識調査」によると、2025年1月のテレワーク実施率は14.6%。前回調査時より1.7ポイント減少し、コロナ禍で緊急事態宣言が出された2020年5月の31.5%と比較すると、半分以下になっています。

 しかしながら、いまの水準近くまで減少したのは2年半ほども前のことです。2022年7月には、既にテレワーク率は16.2%になっていました。その後17.2%、16.8%、15.5%、14.8%、16.3%、14.6%と多少増減しつつも、減少幅は小さい範囲にとどまってきています。かつては働き手にとって夢の働き方でしかなかったテレワークですが、一定の比率で定着しつつあるのかもしれません。


テレワーク実施率の推移(筆者作成)

 また、週休3日制を導入する動きも目にする機会が増えました。特に活発なのが自治体です。東京都が導入を発表したほか、愛知県や北九州市など検討を進めたり試行したりする自治体が次々に現れています。

 週休3日制を導入する職場の主な目的は、人材確保です。人材確保には大きく定着と採用の2つの側面があります。定着とは、退職せず長く職場にいて活躍してもらうことを指します。

 例えば育児と仕事を両立させたい場合、働き方に柔軟性がなく融通を利かせられないと仕事を続けづらくなり、退職につながりやすくなります。急な発熱や学校行事、さらには子どもが複数いてそれらの事情が重なったりすると、仕事を休まなければならない機会は増えていきます。

 そのたびに自分が休んだことで発生した業務のしわ寄せが同僚たちに及ぶのを目の当たりにすると、休むことに後ろめたさを感じてしまい、やがて周囲の目に耐え切れなくなって退職するといった事態になりがちです。その点、週休3日制になって毎週の休みが1日増えると、働き方の柔軟性が増す分、退職につながる可能性を減らすことができます。

 また、定着率が高まると、それだけ働きやすい職場である証明になります。働きやすい職場は求職者からの人気が高く、求職者から選ばれやすくなることが期待できます。

 いま、有効求人倍率は10年以上も前から1倍を超えた状態がずっと続いています。中には、求職者1人に対して3倍、4倍の求人があるといった厳しい採用難に陥っている職種もあります。さらには、少子化の影響で生産年齢人口は今後数十年にわたって減少し続けることが確実です。

 それは、人材1人当たりの稀少価値が今後も高まり続けていくことを意味します。つまり、1人の人材が退職した場合の損失や新たに採用するためにかかる費用や労力は、年々上がり続けていくということです。

 人材確保が思うようにいかなければ、事業存続に大きな影響を及ぼすことになります。週休3日制やテレワーク、フレックス勤務、有休の取得率向上など、柔軟な働き方を職場に導入できるかどうかは事業運営における最重要課題の一つといっても過言ではありません。人材確保の観点に立つと、働き方改革の推進がいかに重要であるかが見えてきます。

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