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「まぁいいか」が会社を壊す 日本郵便、ビッグモーター……不正はなぜ連鎖するのか働き方の見取り図(3/3 ページ)

後を絶たない会社の不正行為。明らかになれば大きな損害を被ることになるのになぜ、会社は次々と生じる不当行為を正すのではなく、共存する道を選んでしまうのか。

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サービス残業が「当たり前化」した企業のケース

 不当行為の当たり前化は、どんな職場でも起こり得ます。

 労働基準監督署から残業過多が指摘された会社で起きた実際の事例をもとに、不当行為が当たり前化していく典型的な流れを見てみましょう。


 その会社は、各部門を管轄する管理職に対して「社員に極力残業をさせないように」と指示を出しました。しかしながら、業務の進め方や人員配置などが改善されないままだと残業が減ることはありません。

 残業時間を減らさないと自身の査定に響く管理職は、残業が多い社員を叱責するようになりました。すると、業務が終わらず長時間残業しているのに申告しない社員が現れます。いわゆる、サービス残業の発生です。

 サービス残業で業務を完遂する社員は職場のお手本として扱われるようになり、他にもサービス残業する者が出てきます。やがて、「能力不足で業務を終えられないのに、残業代を請求するのか」などと白い目で見られる空気が支配的になりました。そして、残業時間を過少申告することが当たり前になるのです。


写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

 この会社の事例では結局、管理職が経営陣ともめて退職することになりました。

 自身もサービス残業していた管理職は、独自に記録していた勤怠記録にもとづいて退職時に未払い残業代を会社に請求。数百万円に上る金額が支払われることになりました。

 職場内部の事情は、外部から詳細までは把握できません。表に見えている情報をもとに行政機関などが不当行為を発見しようとしても限界があります。不当行為が当たり前化し共存状態に陥った職場の軌道修正を図るには、自浄作用を働かせるしかありません。

 その点、今国会で罰則強化の法改正が行われた公益通報制度は、会社の自浄能力向上を後押しするはずです。中でも自浄作用が働きにくい職場での内部通報は心もとないだけに、外部通報の推進強化が鍵を握ることになります。

 ただし、兵庫県知事のパワハラ疑惑などが告発された一件のように、公益通報なのか告発したい相手を貶(おとし)めるための怪文書なのか判断が分かれるケースも考えられます。

 もし、誹謗中傷性の高い情報であったとしても、外部通報された内容は第三者によって精査されるまで公益通報と見なされれば、悪意ある告発者も守られやすくなり会社は職場の統制がとりづらくなります。

 だからといって、当たり前化によって自浄作用が働かなくなった組織を野放しにしてよいはずがありません。いまは、公益通報をめぐる規制がより強化されていく方向にあると感じます。

 過度な規制強化を避けるためには、会社が自ら率先して社内にメスを入れ、自浄作用を働かせられると世間に対して証明する必要があります。先出の事例のごとくサービス残業を当たり前化させてしまうのか、それとも業務改善を進めるのか――。

 まず会社側に求められるのは、不当行為と共存する心地よさに別れを告げ、不正行為と対峙する決意なのではないでしょうか。

著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)

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ワークスタイル研究家。1973年三重県津市生まれ。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者、業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員の他、経営企画・人事・広報部門等の役員・管理職を歴任。所長として立ち上げた調査機関『しゅふJOB総研』では、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ5万人以上の声を調査。レポートは300本を超える。雇用労働分野に20年以上携わり、厚生労働省委託事業検討会委員等も務める。NHK「あさイチ」「クローズアップ現代」他メディア出演多数。

現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。


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