「歴史上、類を見ないほど悪質」 証拠PCはハンマーで破壊、福島の金融機関が犯した「あり得ない愚行」(4/4 ページ)
いわき信用組合が手を染めた驚愕の不祥事に関して、第三者委員会の報告書が明らかになった。いったいなぜ、このような愚行を犯してしまったのか。
金融庁・地方財務局の「監督」も正しく機能していたのか
このように、およそ金融機関としての存続が許されないと思われるほど、いわき信組の経営と組織は腐りきっています。このモラルのかけらもない金融機関を放置していたことに、監督官庁は責任を免れ得ないでしょう。今回の不祥事で浮き彫りになった問題は、複合不祥事を生んだ組織風土以上に、信用組合を巡る金融行政の在り方ではないかと思うからです。
金融は免許業務であり、顧客の資金を預かって業務を遂行する以上、不正が横行するような組織運営を見過ごすことがあってはならないはずです。今回のような20年以上にもわたる組織ぐるみの巨額の不正が、なぜ見過ごされてきてしまったのか。金融庁は猛省するとともに、全中小金融機関に向けた再発防止策の構築を急ぐ必要があるでしょう。
その上で、まずは第三者委員会がつかみきれていない、不祥事の全貌を解明する必要があります。金融庁が中小金融機関の監督や検査業務を委任している地方財務局(いわき信組は財務省東北財務局)の管理に問題はなかったのか、その点もしっかりと検証しなくてはいけません。この3月には同じ東北財務局管轄内において、福島県商工信用組合で2008年以降に10件の事故隠ぺいがあったことも発覚しています。金融の専業官庁ではない地方財務局において、担当者が金融監督のプロとして機能しているのかも、気になるところです。
金融庁の「方針転換」がアダとなった?
金融庁は2019年に金融機関監督の基本方針を転換し、検査マニュアルを廃止して金融機関の自己査定による債権管理と、自主性を尊重する経営指導に移行しています。これは大手銀行および地銀主要行にとっては、新たな金融機関の道を検討し展開する上で有益な施策といえるでしょう。
しかし、経営管理面でぜい弱な中小金融機関に対しては単に監督の手綱を緩めることになり、不祥事発生の温床となっているのではないかとも同時に思うのです。現在全国で143を数える信用組合のすべてが、いわき信組のようなコンプライアンスやガバナンスの崩壊状態にあるとは思いませんが、前述の通りに時を同じくして福島県商工信用組合の不祥事が発覚したように、少なくとも近しいケースが皆無である、とは言い難いのではないでしょうか。
信用組合は昭和の時代において市中銀行の補完的な存在として、重要な役割を果たしてきたことに疑いの余地はありません。しかし令和の今、金融市場の移り変わりとともに金融機関の役割やあり方も大きく変わってきています。金融庁は今回の不祥事を受けて、再発防止策を検討するのは当然のこと、信用組合をはじめとした中小金融機関の将来にわたる在り方についても、明確な道筋を示す必要があるのではないでしょうか。
著者プロフィール・大関暁夫(おおぜきあけお)
株式会社スタジオ02 代表取締役
横浜銀行に入り現場および現場指導の他、新聞記者経験もある異色の銀行マンとして活躍。全銀協出向時はいわゆるMOF担として、現メガバンクトップなどと行動を共にして政官界との調整役を務めた。銀行では企画、営業企画部門を歴任し、06年支店長職をひと区切りとして円満退社した。その後は上場ベンチャー企業役員などとして活躍。現在は金融機関、上場企業、ベンチャー企業のアドバイザリーをする傍ら、出身の有名超進学校人脈や銀行時代の官民有力人脈を駆使した情報通企業アナリストとして、メディア執筆者やコメンテーターを務めている。
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