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「鳥貴族」「串カツ田中」「新時代」格安串チェーンが繰り広げる“盛りすぎ戦争”の行方長浜淳之介のトレンドアンテナ(4/4 ページ)

格安串居酒屋チェーンが、価格以外の訴求として見た目にもインパクトのある“盛りすぎ”商品に注力し始めている。各社の戦略を追った。

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「新時代」はブラジルでもプレイした元サッカー選手が創業

 新時代は生ビール中を209円で提供しており、食品の価格が高騰している昨今でも、財布の中を気にせず日常使いできる、数少ない居酒屋チェーンの一つだ。伝串は、本稿で紹介している3社の“盛りすぎ串”のうち最も歴史が古く、同チェーンの躍進をけん引するエンジンとなった商品だ。つまり、“盛りすぎ串”の火付け役になったのは、新時代とも考えられる。


伝串(出所:プレスリリース)

 1人で5本以上を注文する人も多く、甘辛い味付けはお酒に合う。主食材の鶏皮は余分な脂を落としてコラーゲンのみを残し、独特の食感に仕上げた。また、タレには万病に効くとされる高麗人参を入れ、塩分ゼロを謳う。安価なだけでなく、健康面にも配慮したものづくりで、ビジネスパーソンを中心に広く支持されているわけだ。

 見た目も楽しい「伝串ピラミッド」は、伝串を6本(3段)、10本(4段)、21本(6段)、36本(8段)で注文すると、きれいなピラミッド状に盛り付けてくれるというもの。8段ともなると迫力があり、連日のようにSNSに投稿されるほど人気となっている。

 伝串は自社工場で生産しているが、2024年4月にはあまりにも売れすぎて在庫危機となり、1人3本に注文を制限する事態に陥った。その後、増産体制を整えて注文制限を解除している。ちなみに伝串は経営するファッズの商標登録となっており、新時代は「揚げ皮串発祥の店」をうたっている。


ニューオープンでは行列ができるほど人気になる(出所:プレスリリース)

 ファッズの創業者、佐野直史氏は『キャプテン翼』に憧れて小学生からサッカーを始めてブラジルに渡り、1部リーグでプレイした実績を持つ。ケガのため25歳で引退し、帰国後にセカンドキャリアとして飲食業界に入った、異色の経歴を持っている。そんな佐野氏自ら開発したという伝串は、完成までに8年を費やしたそうだ。


ファッズ創業者の佐野社長。元ブラジルのプロサッカー選手(出所:プレスリリース)

 近年は名古屋を中心とした中京地区から他のエリアへの進出が目覚ましい。2017年に“サラリーマンの聖地”新橋に出店すると、連日行列のできる店となり、ビジネスパーソンに認知を高め、東京、さらには全国の繁華街へと次々に出店する足掛かりとなった。居酒屋の撤退が相次いだコロナ禍の間も逆にチャンスと見て、通常では空かない都心部の好立地に出店を重ねた。

 その結果、コロナ前の7割ほどに縮小したと言われる居酒屋市場で、異例の店舗拡大を続けている。ここ1年のうちに20店舗も増やし、直近の年商は280億円。全国1000店を目指す。

 このように、居酒屋のトレンドの一つとして、安価な串を大量に盛る“盛りすぎ串”が人気となり、映えるセンベロ(約1000円でベロベロになるまで酔えること)の代表格となっている。

 “盛りすぎ串”自体は、福岡発祥である「博多とり皮」の店で、10本、20本と注文するスタイルが既にあった。

 ところが、今回紹介した3社の商品は、1本50円前後にまで価格破壊されており、令和の時代に本気でセンベロを仕掛けた点が新しい。衰退していると言われる居酒屋業界に対する逆風をものともせず、集客好調に推移している。


博多かわ屋の名代とり皮(出所:博多かわ屋公式Webサイト)

著者プロフィール

長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)

兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。著書に『なぜ駅弁がスーパーで売れるのか?』(交通新聞社新書)など。


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