相次ぐ閉店――ロフトとハンズ、巨大店舗が直面した”壁”とその“打ち手”とは?:後編(2/2 ページ)
雑貨大手「ロフト」「ハンズ」の巨大雑貨ビルが相次ぎ姿を消している。記事前編では、ロフトとハンズ、両社の創業の経緯を見てきた。後編では、両社の大型店舗が抱えてきた課題に焦点を当て、これをどう乗り越えようとしているのか、新たな試みを見ていく。
百貨店のなかで生き続ける巨大雑貨ビル
両社は時流を意識した業態改革を進めることで課題を乗り越えたが、移転後の旗艦店はどうなったのだろうか?
ここからは5月21日に移転新装開業を迎えたばかりの関西旗艦店「梅田ロフト」を見ていきたい。
梅田ロフトでは、取扱品目を約6万アイテムから約4万アイテムと「3分の2」に、営業面積を約5273平方メートルから約2222平方メートルと「2分の1」に縮小した。
一方で、ロフトが「微差商品」と位置付ける機能重複商品の削減をしつつ、ライブ配信やe-Sportsを意識した新編集提案売り場「StreamingNOW!」や、中国・台湾を始めとする中華系フィギュア売り場「LOFTOYSHOW」、サンプル自販機「ロフボ」本格導入――といった初の試みを打ち出すなど、従来以上にバリエーションに幅をもたせた領域横断型の売り場を実現した。
このほか、旧店舗同様の大規模イベントを開催可能なスペースを館内複数箇所に設け、漫画小説原作のアニメ作品「呪術廻戦」「物語シリーズ」といったIPコンテンツ、阪神梅田本店主導の催事「めんそーれ沖縄」を始め地元大阪の有力ブランドとの連携企画を展開することで、百貨店直営フロアを含めた館内全体の回遊性や情報発信向上、縮小面積の補完をめざした。
ロフトによる新たな試みや阪神梅田本店への移転は、ロフトと百貨店双方に相乗効果がある。
ロフトの旧店舗は大阪梅田の外れ「大阪市北区茶屋町」にあったが、新店舗は阪神梅田駅の真上「大阪市北区梅田1丁目」という圧倒的な好立地にあり、公共交通アクセス改善と百貨店が強みとするインバウンド需要の取り込みが可能となった。
2025年3月より渋谷・銀座で実験導入中だった「ロフボ」は、実店舗や自社アプリの利用促進、サンプル提供メーカーの販売促進やマーケティング分析向上にとどまらない、実店舗のリテールメディアとしての機能強化に結びつく。
ロフト独自の仕入調達網を生かした台湾・台南屈指の観光型百貨店「林百貨」グッズやIPコラボの専売商品、体験型POP-UPといった取り組みも脱価格競争と支持拡大の材料となり得るものだ。
従来レジにて対応していた自社アプリ会員向けサンプル配布を担う新たなコミュニケーションツールだ。
阪神梅田本店としても、長年主要顧客であった60〜70代女性と2018年6月の第1期建替を機に新規獲得を図った30〜40代女性(西梅田OL)に加え、より若い顧客の新規獲得と出遅れていたIP催事の巻返しを図ることができる。
阪神梅田本店の至近距離に位置する競合百貨店「大丸梅田店」は有力ゲーム関連企業「任天堂」「カプコン」や有力IP「ポケモン」「ワンピース」直営店を擁し関連催事に先行するが、2025年秋よりフロアを低層階に集約する方針が決まっており、高層階に入居する上記直営店の去就に注目が集まっている。
柏木淳梅田ロフト館長も「前の店の強みはIP催事、キャラクター催事は引き続き行っていく」と評した通り、阪神にとって集客向上が見込める大型専門店という役割にとどまらない、梅田や心斎橋でIPを独占する大丸松坂屋系に楔を打ち込む存在ともいえるのだ。
ロフト全店舗中9店舗しかない「普通のお店とは違う情報発信の機能を含めた館」という役割と大型店統括役職「館長」の肩書、梅田ロフトを店でなく館と称することにこだわりをみせたことからも、茶屋町時代から続く情報発信館としての役割の継承がうかがい知れる。
ハンズも2020年2月以降、地方再発見と地域共創を掲げた新業態「プラグスマーケット」(売り場面積1000平方メートル前後)を地場流通大手や地方百貨店とFC契約するかたちで展開しており、自前主義からの脱却、地域との共存や百貨店の課題解決を図るかたちでの再活性化は雑貨大手にとってトレンドとなりつつある。
文化の香り漂う巨大雑貨ビルという館は姿を変え、百貨店やモールのなかで生き続けることとなりそうだ。
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