AI活用に本腰 米ウォルマートの「スーパーエージェント」戦略とは?:Retail Dive
小売大手の米Walmart(ウォルマート)は、AI機能の断片化を防ぐため、全社的なAI戦略を打ち出した。すでに同社では90万人の従業員がAIを活用しており、その取り組みは加速している。
【注目】ITmedia デジタル戦略EXPO 2025夏 開催!
従業員の生成AI利用率90%超のリアル! いちばんやさしい生成AIのはじめかた
【開催期間】2025年7月9日(水)〜8月6日(水)
【視聴】無料
【視聴方法】こちらより事前登録
【概要】ディップでは、小さく生成AI導入を開始。今では全従業員のうち、月間90%超が利用する月もあるほどに浸透、新たに「AIエージェント」事業も立ち上げました。自社の実体験をもとに、“しくじりポイント”も交えながら「生成AIのいちばんやさしいはじめ方」を紹介します。
小売大手の米Walmart(ウォルマート)は、技術責任者兼開発責任者であるスレシュ・クマール氏が7月25日にRetail Diveに投稿したブログ記事の中で、同社のAI活用を全社で統合する新たな枠組みを発表した。
それによると、同社はAI導入を急速に進める中で、複数のエージェント(AIツール)を統括する「スーパーエージェント」という構成を採用。AI機能の断片化によるユーザーの混乱を防ぐ狙いがあるという。
4つのスーパーエージェントは以下の通りである。
- 6月に導入された顧客向けエージェント「Sparky」(スパーキー)
- 仕入先、広告主、マーケットプレイス出品者向けの「Marty」(マーティ)
- 店舗業務を支援する従業員向けエージェント
- 社内の開発者向けエージェント
今後1年間で、これらのスーパーエージェントに対して、特定業務に特化したサブエージェント(下位エージェント)を順次追加し、ウォルマートのAIエコシステムにおける存在感を高めていく方針である。
この発表と同時に、同社は食料品配達サービスInstacart(インスタカート)の幹部であるダニエル・ダンカー氏を、新設ポジションである「AI推進担当製品・デザイン部門 エグゼクティブバイスプレジデント」に起用したことも明らかにした。
「AIエージェントはもはや不可欠な存在」
Walmartでは、90万人に上る従業員から、すでに週あたり300万件もの質問が同社の対話型AIツールに寄せられており、こうしたニーズの高まりに応えるかたちでAI体制の強化が進められている。
クマール氏はブログで次のように述べている。
私たちは、チームがこれらのエージェントを非常に迅速に導入し、その有用性を認識したことで、エージェントは「便利な道具」にとどまらず、もはや「必要不可欠な存在」であると確信した。
一方で、複数のエージェントが乱立すると、たとえ個々が優れていても、使う側にとっては混乱のもとになる。そのため私たちは、個別ツールの導入を超え、全社統一のAI基盤を構築するという決断を下した。これにより、今後導入する全てのAIエージェントが、顧客、従業員、パートナーにとって、より使いやすく、業務をシンプルにするものとなる。
さらに同社は、クマール氏の直属となる新ポジション「AIプラットフォーム担当 エグゼクティブバイスプレジデント」も新設。同社のダグ・マクミロンCEOは、LinkedInの投稿で「生産性、スピード、イノベーションの向上に寄与する」と述べている。
AI導入で顧客体験・業務効率が大幅改善
同社は、出品者向けエージェント「Wally」(ウォーリー)のリリースからわずか数カ月後に、顧客向けエージェントSparkyをリリースしている。
現在Sparkyは、レビューに関する情報提供や購買アドバイスを提供しており、今後はイベントの企画支援、再注文機能、常時サポート、そしてよりシームレスな買い物体験の提供を目指すという。
また、従業員向けスーパーエージェントには、福利厚生に関する質問に対応する専用サブエージェントや、現場責任者が人員データを把握するための分析エージェントが組み込まれている。さらに、目的別に設計された小規模AIツール「nano agents」(ナノエージェント)を最短1週間で社内開発・共有できる新機能も加わった。
仕入先、広告主、マーケットプレイス出品者向けのMartyは、分断されたシステムを統合し、商品カタログの管理や広告キャンペーンの立ち上げ支援などを行うことで、サプライヤーや広告主の利便性を高めることを目的としている。
AIによる実績と今後の展望
同社は、AIの活用によって、米国内の95%の世帯への3時間以内の配送を年内に実現することを目指している。これまでの成果として、
- カスタマーサポートの対応時間を最大40%短縮
- 現場責任者によるシフト作成の所要時間を90分から30分に短縮
- アパレル製品の開発期間を最大18週間短縮
――といった実績があるという。
一方、競合の小売大手Target(ターゲット)もAI活用に積極的であり、2024年3月の決算説明会では、SNSでのトレンドをAIで解析し、商品企画に活用していると述べている。
Walmartはまた、デジタルツイン(仮想環境による設備監視)技術にも注力しており、HVAC(空調)、冷蔵機器、厨房機器の稼働状況を各店舗で追跡。これにより、緊急修理の件数を30%、修理コストを20%削減することに成功したという。
なお、今回のAI戦略発表の2日前、Walmartは同社のマーケットプレイスにおける不正対策にもAIを導入していることを公表した。商品リストにおける知的財産権侵害やその他ポリシー違反を、AIとリアルタイム監視によって検出しているという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。

