三軒茶屋が「住みたい街」であり続ける理由 再開発が街の魅力を“奪わなかった”ワケ:Merkmal(3/3 ページ)
東京都世田谷区・三軒茶屋は、急増した人口と再開発の波の中で、住民反発を経て独自の共存モデルを築いた。27階建てのキャロットタワーと昭和の商店街が調和し、SUUMO住みたい街ランキングで常に上位50位以内を維持。住民主導の対話を重視したまちづくりが、画一化に抗う都市再開発の新たな指標となっている。
再開発しても“ありふれない”街、三軒茶屋の強さ
この再開発は効果を発揮したといえるだろう。現在も三軒茶屋は人気の土地である。
リクルートの「SUUMO住みたい街ランキング2025 首都圏版」では49位にランクインしている。2018年から2025年にかけて、最高28位(2020年)、最低49位(2025年)と変動はあるものの、常に50位以内を維持し、首都圏の数百駅の中で安定した人気を保っている。
しかし、数値以上に重要なのは、多くの再開発地区が「きれいだが個性のない街」になるなかで、三軒茶屋が独特の魅力を残している点だ。
キャロットタワーでの買い物、シアタートラムでの演劇鑑賞、エコー仲見世での食べ歩きなど、高層ビルと昭和レトロな商店街の両方を楽しめる多層的な街へと進化した。これは「住民参加のプロセスを経た再開発」だからこそ実現した成果である。もちろん、三軒茶屋の再開発はまだ途上だ。駅前の歩道は狭く、防災面での都市基盤整備も今後の課題である。
2019年に策定された「三軒茶屋駅周辺まちづくり基本方針」では、バリアフリー化や地下通路の拡充、回遊性の向上が目標に掲げられている。今後も単なるハード整備にとどまらず、市民・行政・事業者が協働し、デベロッパー主導に偏らない再開発の模索が続くことが期待される。
現在の都市再開発に対する多くの人々の不満は、どこも似たような街になってしまう点にある。高層マンションとチェーン店ばかりが全国で量産され、地域固有の個性が失われつつあるのだ。
この問題の根本原因は、「計画段階で住民を完全に無視する」ことにある。
デベロッパーは収益を最優先に計画を立て、行政は形式的に承認するのみ。住民は決定事項を一方的に説明されるだけである。こうした体制では反発が生じるのも当然であり、愛着のない無個性な街しか生まれない。
三軒茶屋が示したのは、「住民の反対を真摯(しんし)に受け止めれば、結果的に魅力的な街ができる」という事実だ。世田谷区は住民説明会での激しい反発を受け、計画を強行せず対話を続けた。その結果、キャロットタワーのような近代的施設と、エコー仲見世の昭和レトロな商店街が共存する、他に類を見ない魅力的な街が誕生した。
つまり、良い街づくりを望むなら、あえて「面倒くさい」住民参加や対話を重視するしかないのである。
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