日本のプロバスケが“世界初”の大改革へ Bリーグが変える「スポーツ経営の常識」とは?:10周年の節目(2/2 ページ)
男子バスケットボールのプロリーグ「B.LEAGUE」は、2026-27シーズンから、クラブの健全経営のため、リーグの競争力維持を目的とする「B.革新」に基づいてリーグ構造の変更を伴う、大きな変革に挑む。ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグの島田慎二チェアマンに、改革の真意やBリーグ隆盛の理由を聞いた。
結果を出すことでバスケットボール界の信頼を得る
島田チェアマンは、大学卒業後、旅行代理店に勤務した。その後、法人向けの旅行会社と出張専門の旅行会社を起業するなど、いわゆる“バスケットボール界のプロパー”ではない。
「2012年に千葉ジェッツふなばしの経営に参画したときは『外から来た人間』でした。チェアマンになったときは、ジェッツの経営をして8年ほど経過していました。ですので外様ではなく、バスケットボール界から上がってきてチェアマンになったと思っています」
ジェッツの経営に参画したとき、同クラブは倒産寸前の状況だった。当時の球団会長は、島田チェアマンが旅行会社に勤めていたときからのクライアントだったこともあり、その会長から球団再建の依頼を受け、受諾した形だ。
経営参画後に改革を進めようとしたものの、各方面からは、さまざまな抵抗を受けたという。「よそ者だからこそできた反面、よそ者ゆえの抵抗がありました。『お金の話をする人』『スポーツ界を汚す人』と見られてしまう空気はありました」
それでも、ジェッツの経営5年目に、平均観客動員数がリーグトップとなり、天皇杯を制するなど結果を出した。「島田塾」と題したクラブ運営のため勉強会も、全クラブの幹部を集めて開催。こうしてリーグ全体の発展を考えて経営してきたことが、信頼の基となり、チェアマン就任につながったようだ。チェアマン就任後も知識やノウハウ、経験を共有するクラブ横断の経営者勉強会「B.League Management Base」(BMB)を実施。各クラブの成長を促進してきた。
今でも各クラブから反対を受けることはあるものの、「それは当然のこと」として受け止める。「地方創生リーグやアリーナ作りなど、譲れないものもありますが、妥協できるものは妥協して、相手に理解も示し、バランスを取りながらやっています」
良いときこそ危機感を持つ
今後の展望については「アリーナは大丈夫という未来は見えているので、向こう5年ほどは、私がいなくても成長できる状況は作れたと思います。ただし、インフラがあれば何とかなるわけではないので油断しないことです。いい時はずっと続くわけではありません」と話す。
事実、島田チェアマン本人は今後について危機感を持っているという。「これは鉄則ですね。時々、朝礼で突然、文脈もなく発破をかけることがあります。役員会でも言います。『なぜ急にそんなことを言うの?』と思う職員はいるでしょう。スタッフのおかげでBリーグが良くなってきたのは事実ですし、感謝しています。しかし、皆の幸せを守る責任が、私にはあります。好かれるのが仕事ではありません」
この感覚は、起業家だった経験が生きているのだろう。「私たちが緩んだ時は、スポンサーもそれを感じるのです。スポンサーは何億、何十億のお金を出資しているのに、お金を生かせない経営者なのか、有効活用する経営者なのかはシビアに見ています。私1人では成し遂げられないので、スタッフ全員が危機感を持ち、何とかしなきゃいけないという文化を定着させること。これが、私の残りのミッションです。それで卒業ですね」
4大スポーツの4番目にリーチ
Bリーグの前はJBL(日本バスケットボールリーグ)とbjリーグという2つに分かれていたバスケットボール。FIBA(国際バスケットボール連盟)は2つのトップリーグが存在する状態を問題視し、日本バスケットボール協会(JBA)に対して無期限の資格停止という厳しい処分を課したこともあった。
米国には、バスケのNBA、野球のMLB、アメリカンフットボールのNFL、アイスホッケーのNHLという4大プロスポーツがある。日本では少々議論はあるものの、野球、サッカー、相撲あたりが3大スポーツだろう。4番目の座をBリーグ、ラグビーのリーグワン、バレーボールのSVリーグが争っていたように筆者は感じていた。だが、ここに来てBリーグが一歩抜け出したように見える。資格停止時代を考えると隔世の感がある。
島田チェアマンも「リーグの盛り上がり方、代表の強さなど、何で評価するのかというのはありますが、4つ目には入れるようになってきたのではないでしょうか」と手応えを感じているようだ。
B.革新によって4番目の座を確実なものにできるのか。島田チェアマンの改革実行力に注目だ。
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