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駅名=最強の広告 「なりもす駅」「北斗の拳立大学駅」、期間限定の改名がもたらす経済効果とは?Merkmal

駅名を大胆に変える“改名キャンペーン”が各地で広がっている。SNS拡散や報道露出で広告効果は絶大。高崎駅では「ぐんまちゃん駅」、京急では「北斗の拳駅」などの事例が話題を呼んだ。副駅名導入やネーミングライツによる収益化も進むなか、駅名は単なる案内を超え、地域と企業を結ぶ新たな経済資源となりつつある。

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 通勤や通学、買い物などで日常的に使う駅構内は、見慣れた風景の一つだ。その中心にあるのが、駅名を大きく記した駅名看板(駅名標)である。そんな駅名が突然変われば、驚かない人はいない。

 近年、駅名を期間限定で変更する取り組みが各地で広がっている。普段は意識されにくい駅名だが、そこには潜在的な価値がある。

 群馬県のJR高崎駅では、2025年7月19日から9月30日までの間、「ぐんまちゃん駅」という名前が掲げられる。「ぐんまちゃん」は群馬県の公式マスコットキャラクターだ。


群馬県のJR高崎駅では、2025年7月19日から9月30日までの間「ぐんまちゃん駅」という名前が掲げられる(画像:群馬県公式Webサイトより)

 この施策は2024年にも実施されていた。高崎駅の開業140周年と、ぐんまちゃん誕生30周年を記念したコラボ企画だった。2024年は7月の1カ月間のみだったが、予想以上の反響があったことから、今年は期間を延ばしての実施となった。

 実際には駅名看板そのものは変更されていない。ぐんまちゃん駅という名称は、副駅名として掲示された形である。

 キャンペーン期間中は、構内の随所にぐんまちゃんのイラストがあしらわれる。各種プロモーションも行われている。JRと群馬県が連携し、ぐんまちゃんの認知度向上を狙っているとみられる。

 今回のテーマは「リトリート(癒やしや再生)」。県内の温泉地や観光地との連携企画も進められている。

モス1号店開業の地が「なりもす駅」に 一瞬で話題になる駅名改名

 駅名を期間限定で改名する動きは、他の鉄道会社でも見られる。2022年3月8日から4月3日まで、東武東上線の成増駅は「なりもす駅」に改名された。

 成増は、モスバーガー1号店が開業した地である。モスフードサービスの創業50周年を記念した取り組みだった。このときは、ホームと南口の駅名看板を実際に「なりもす駅」に変更している。

 記念企画として、硬券3枚セットのモスバーガー50周年記念乗車券が販売された。記念列車も運行された。テレビニュースにも取り上げられ、改名を通じて初めて成増がモスバーガー発祥の地と知った人も多かったはずだ。


モスバーガー1号店が開業した成増の成増駅は「なりもす駅」に改名された(画像:東武鉄道)

 駅名改名キャンペーンに早くから取り組んできたのが京急電鉄である。2016(平成28)年8月10日から9月30日には、人気キャラクター「リラックマ」とのコラボを実施。京急久里浜駅の駅名看板を「京急リラッ久里浜駅」に変更した。

 2017年10月には、企画乗車券「みさきまぐろきっぷ」と連動し、三崎口駅を「三崎マグロ駅」に改名した。三崎口の「口」に、マグロの「ロ」をかけた言葉遊びで、「口」の上に「マグ」の文字を差し込んだ駅名看板が掲出された。

 京急はこうした周年記念や他企業とのコラボに積極的だ。期間限定でユニークな駅名を導入してきた。なかでも話題を呼んだのが、漫画『北斗の拳』とのコラボである。2018年7月30日から9月17日にかけて、北斗の拳35周年と京急120周年の記念キャンペーンを実施。京急蒲田駅は「京急かぁまたたたたーっ駅」に、上大岡駅は「上ラオウ岡駅」に、県立大学駅は「北斗の拳立大学駅」に変更された。

 もはや地元との関連性はなく、完全にダジャレによる改名だった。

公共空間でどこまでOK? 物議を醸す“駅名広告”

 メーカーとの商品コラボも行われている。2022年3月14日から4月17日には、東洋水産のカップラーメン「QTTA」とコラボ。三崎口駅は「三崎QTTA駅」に改名された。この期間中、北品川駅、天空橋駅、京急川崎駅、京急久里浜駅も巻き込まれ、駅構内はQTTA一色となった。

 さらに2024年5月18日からは、サントリーの缶チューハイ「タコハイ」とのコラボが始まった。京急蒲田駅が「京急蒲田タコハイ駅」に変更され、駅を“居酒屋風”に演出するイベントも企画された。

 だがこの取り組みは、思わぬ反発を招く。アルコール依存症予防に取り組むNPO団体から配慮を求める申し入れがあり、キャンペーンは急遽中止された。酒好きにとっては魅力的な企画だっただけに、残念な結果となった。とはいえ、公共交通の場である駅では、あらゆる利用者に配慮する必要がある。

 駅名看板は、意識せずとも目に入る存在である。その影響力は小さくない。慎重な判断が求められる領域だ。

駅全体を使った販促戦略とは?

 なぜ、駅の改名が行われるのか。その理由は、広告宣伝効果や駅利用者の増加など、大きな経済効果が見込めるためである。

 もともと駅は、多くの人が行き交う場所だ。広告の接触率が高く、企業や観光施設は駅ポスターや中吊り広告といった交通広告に力を入れてきた。しかし、オンライン社会が浸透した現在、情報の接触構造は大きく変化している。駅構内やホームでさえ、スマートフォンを見続けている人が多く、従来型の広告効果は薄れている。駅の中吊りやポスターを1社でジャックするプロモーションもよく見られる。一定の注目は集めるが、テレビニュースになるほどの話題性はない。

 その点、駅名の改名は視認性が高く、インパクトも強い。看板の写真がSNSに投稿され、拡散されやすい。ホームの看板なら、電車の車内からでも視界に入る。気になった人が実際に訪れることで、さらなる情報の拡散が起こる。話題性が高く、メディアにも取り上げられやすい手法といえる。

 駅名改名に合わせて、駅全体でキャンペーンを展開するケースも多い。駅名看板だけでなく、柱の駅名票、改札、エントランスなどに新しい駅名や関連イラストを一斉に掲出する。駅全体をテーマカラーで染め上げる。

 加えて、記念カードの配布や硬券切符の販売、オリジナルのヘッドマークを付けた記念列車の運行など、多彩な施策が用意される。単なるネーミング変更にとどまらず、観光・販促効果を高める複合的なプロモーションとなっている。

副駅名は新たな収入源に

 近年、副駅名を導入する駅が増えている。副駅名とは、正式な駅名の下に付けられるサブの名称である。目的地の下車駅を分かりやすく示すほか、周辺の立地や特色をイメージさせる役割も担う。

 例えば、JR神田駅には「アース製薬本社前」という副駅名が付いている。沿線にある企業や大学、観光地の名称が副駅名として採用されるケースが多い。広告的な機能も持っており、企業の認知拡大に寄与している。一部の駅ではネーミングライツとして運用され、新たな収入源にもなっている。

 また、駅名自体が観光資源となる例もある。大井川鐵道大井川本線の五和駅は、2020年に「合格駅」へと改名された。もとは地域おこしの一環として、期間限定で行われていた施策だった。語呂合わせによる名称変更だが、受験シーズンになると多くの受験生や家族が訪れる。「合格駅行き」の記念乗車券も販売され、話題を集めた。

 駅は地域の玄関口であり、駅名はその象徴である。普段は意識されにくいが、駅名には強いシンボル性がある。駅名を変えることで地域が注目を集めることもある。それによって、地域の歴史や産業、企業への関心が高まり、地域活性化や住民意識の変化にもつながる。今後は、こうした駅名の活用を通じた地域運営にも期待がかかる。

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