全社データではなく「エース社員」の思考だけを学習 ノバセル流・生成AI活用が生んだ成果は?:AI活用先進企業に聞く(2/4 ページ)
トップ人材の思考プロセスをAIに学習させ、全社員でその知を活用できるようにするという発想で、生成AIの活用を急速に推し進めてきたのが、テレビCMの効果最大化サービスを展開するノバセル(東京都港区)。AI推進の旗を振るのは、入社わずか5年という異例のスピードでキャリアを重ねてきた若手リーダーです。
「エース社員」の「属人的なプロセス」しか学習させない
弘中: 具体的に成果が出た取り組みや、進んだ領域を教えてください。
楠: 進め方は大きく二本柱です。(1)AIを前提に業務フローを再構築すること、(2)既存業務をAI化すること。そのうち分かりやすいのが(2)で、特に3つの領域で効果が出ました。
営業ナレッジマネジメント(NotebookLM)
過去の提案書をNotebookLMに読み込み、「提案AI」を構築しました。単なる資料作成AIではなく、提案ストーリーや事例、引き出しを営業が即座に検索・想起できる状態をつくるものです。営業は事業成長のドライバーなので、大きく効きました。
資料作成の初速化(ChatGPT/Genspark)
以前は不足部分をgensparkで補っていましたが、今はアウトラインを最初からAIに作らせ、人が仕上げる流れに転換。スピードが大幅に向上しました。浅いプロンプトで“見慣れたAI資料”を量産するのは避け、人の思考で磨き込むことを重視しています。
戦略・調査(Gemini Deep Research)
戦略プランナーがトレンド分析や仮説構築で活用し、調査工数を約半分に削減できました。
全体として、体感ベースですが、資料作成は約90%削減、分析は約50%削減。ビジネスサイドの人数をほぼ増やさずに取引社数と単価を伸ばすことができ、平均で20〜30%の生産性向上を実現しました。
弘中: 提案プロセス自体も変わったのですか。
楠: はい。Notebook LMに過去の提案ストーリーを学習させ、議事録からマインドマップまで自動生成できるようにしました。戦略立案では、課題分解や論点設計までAIに任せ、若手でも“一流の壁打ち”が可能になっています。
商談記録をAIに渡せば、論点要約と事例データベースを組み合わせて初回から精度の高い提案が可能です。最終的な判断は人が行いますが、初速とバリエーションは格段に増えました。
弘中: スピードが上がることで、受注率との関係はどう変わりましたか。
楠: 大前提としてAIの導入においては「時間短縮だけ」ではなく、受注率やビジネスへの影響を成果として捉え、評価しています。
初回提案が2〜3週間かかっていたものが2〜3日に短縮されたうえで、質は維持もしくは向上した、という成果が必要となります。初回提案を早く出せる分、チューニングを高頻度で回せるので、結果として意思決定までの総時間も短縮されます。
注意すべきは、汎用的なAI化だけだとクオリティが下がりがちなこと。だからこそ、トップ人材だけの“属人的プロセス”をAIに学習させます。案件が集中するトップランナーに“自分のコピーAI”をつくってもらうイメージです。100の時間で90点を出す人が、その思考をAIに学ばせれば20〜30%の時間で同じ90点を再現できる。その余力を100点超えの磨き込みに投資できます。平均的な営業フローのAI化だけでは「弱いAI」にしかならない、という実感があります。
弘中: 全ての社員のデータを学習させているわけではないのですね。
楠: はい。両方試した結果、「量より質」と確信しました。コールセンターのチャットボット開発で、全期間の全会話を学習させるよりも、上位0.5〜1%の“匠”の会話だけを学習させた方が、品質が明確に向上したんです。量を増やせばよいわけではなく、むしろ優秀者の知見を核にする方が精度が高まります。
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