全社データではなく「エース社員」の思考だけを学習 ノバセル流・生成AI活用が生んだ成果は?:AI活用先進企業に聞く(1/4 ページ)
トップ人材の思考プロセスをAIに学習させ、全社員でその知を活用できるようにするという発想で、生成AIの活用を急速に推し進めてきたのが、テレビCMの効果最大化サービスを展開するノバセル(東京都港区)。AI推進の旗を振るのは、入社わずか5年という異例のスピードでキャリアを重ねてきた若手リーダーです。
AI活用先進企業に聞く
カスタマーサクセスプラットフォームを提供するGainsightのStrategic Account Executive・弘中丈巳氏が、企業のデジタル変革とイノベーション創出の最前線に迫るインタビュー連載。AIに先進的に取り組む企業のリーダーと対話し、真の顧客価値創造とビジネス成長のヒントを探ります。
生成AIの登場によって業務効率化だけでなく、新たな価値創造の可能性が広がっています。とはいえ、実際にどのように導入し、組織全体へ浸透させ、確かな成果につなげていくかは、多くの企業にとって依然として大きな課題です。
そうした中、トップ人材の思考プロセスをAIに学習させ、全社員でその知を活用できるようにするという発想で、生成AIの活用を急速に推し進めてきたのが、テレビCMの効果最大化サービスを展開するノバセル(東京都港区)です。
同社の生成AI活用の旗振りを担うのが、2020年に新卒一期生として入社した楠勇真氏(AI事業開発部 部長)。楠氏は2年目でグループ史上最年少マネジャーに昇格。3年目に営業部長、5年目には新規事業のマネジャーを任されるなど、入社わずか5年という異例のスピードでキャリアを重ねてきた若手リーダーです。
同社は2023年12月から、まずは少数精鋭の若手メンバーによるクローズドな検証から生成AI活用に着手。メンバーは20代の若手が中心で、田部正樹代表と連携して進めたとのこと。今では、営業ナレッジの共有、資料作成の初速向上、戦略立案・調査の効率化など、具体的な成果を生み出しました。効果は単なる工数削減にとどまらず、受注率や単価アップといったトップラインへのインパクトにもつながっているといいます。
今回は、そんな楠氏に、導入の背景から活用の実際、組織浸透の工夫、そして今後の展望までを伺いました。
ノバセルの生成AI活用 なぜ「20代の若手中心」で進めたのか
弘中: 生成AI活用が本格的に始まったのはいつ頃からですか。
楠: きっかけはChatGPTのリリースです。2023年末ごろには社内でも「AIはすごい」という空気がありましたが、実際の業務活用には至らず“おもちゃレベル”という感触でした。他社と比べても着手は遅かったと思います。
転機となったのは2024年12月5日(米国時間)に正式リリースされた「OpenAI o1」です。想定を超える精度で応答が向上し、それまで「3〜5年かけて熟成」と見ていた前提が崩れました。この時点で初めて「業務そのものを変革できる」と確信しました。
代表の田部が2024年末の時点で「2025年をAI活用の元年と位置付けた」と発信。そこから1月に本格始動しています。年頭所感でラクスルグループ全体として「AIで業務変革を進める」と宣言し、専用予算も確保しました。
ただし全社に一律のやり方を敷くのではなく、各部門が自律的にトライする方針です。ノバセルでは私がAI事業開発部の部長に就任。実証実験を経て、2025年4月に外部サービス化し、4月中に顧客利用開始──と、逆算してロードマップを描き、3月末までに初動をやり切る計画を立てました。
弘中: 立ち上げはクローズドで進めたと聞きました。
楠: はい。1月は3〜5人で開始し、徐々に広げていきました。広告・コピー・撮影などクリエイティブ職が多い会社なので、まずは領域とメンバーを絞って検証しました。当時は「ジブリ風画像」といった表層的な話題が先行し、“仕事が奪われるのでは”という不安もあったため、慎重に始めたのです。
初期メンバーは以下の構成でした。
- ストラテジックプランニング(コミュニケーション戦略)
- クリエイティブ(当時はプランナー職)
- 事業開発(楠氏)
- マーケティング
弘中: マネジャー中心ではなかったのですね。
楠: はい、中心となったのは20代の若手です。しがらみが少なく既存業務に縛られにくい人たちを選びました。そこにエンジニア責任者やCTO(Chief Technology Officer、最高技術責任者)クラス、現場の若手エンジニアも一部アサインしました。
チャットツールのSlackには「AIM(AI×Marketing)」チャンネルを立ち上げ、毎週の定例で「各自の業務をどうAI化したか」「AIを前提に業務そのものを見直すか」という二層の議論を継続。参加者が増えすぎていったん絞る局面もありましたが、最終的には約68人まで拡大しました。
序盤の5〜6人規模の頃は、代表の田部と新卒2〜3年目の若手、データ分析担当、戦略プランナーがSlackで密にやり取りし、個々の業務にAIをどう組み込むかを具体的に詰めていました。
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