渋谷マックの跡地にオープン 韓国バーガー「MOM‘S TOUCH」社長に聞く出店戦略
韓国のチキンバーガーブランド「MOM‘S TOUCH」(マムズタッチ)は日本市場をどのように開拓し、ビジネスを展開しようとしているのか。キム・ドンジョン社長に話を聞いた。
韓国で1460店舗以上を展開する人気チキンバーガーブランド「MOM‘S TOUCH」(マムズタッチ)が、日本市場での出店攻勢を強めている。
同ブランドは2024年4月、東京・渋谷に第1号店をオープン。2号店も9月30日に原宿にオープンさせる計画だ。さらに2025年内に、下北沢、横浜市など1都3県を中心に数十の加盟店と契約を結ぶ成長シナリオを描いている。
日本市場をどのように開拓し、ビジネスを展開しようとしているのか。MOM‘S TOUCH & CO.(マムズタッチアンドカンパニー)のキム・ドンジョン社長に話を聞いた。
キム・ドンジョン氏 MOM‘S TOUCH & CO. 代表取締役。1977年ソウル生まれ。2001年延世(ヨンセ)大学人文学部卒業。2004年延世(ヨンセ)大学経済大学院卒業。2006年に市場調査専門機関シノベイトコリア、2009年に韓国マクドナルドビジネスインサイトチーム長。2015年SAMSUNG電子無線事業部次長。2015年〜現在KL&Partners副社長。2021年〜現在、MOM‘S TOUCH & CO.代表取締役
韓国を連想させるのは避け「味で勝負」 展望は?
現在、キム社長はマムズタッチのグローバル化を進めている。タイ、モンゴルなどにも店を構えていて、その中で日本市場に進出するのは自然の流れだ。渋谷の1号店は、開店から1年で来店者数70万人、売上高は5億円を超えた。
筆者も個人的に何度も同店を訪れた。平日の昼食後という、通常の飲食店なら利用者が少なめの時間帯だったにもかかわらず、空いている席を探さなければならないほど。想像以上の人気の高さを感じた。
「2023年10月にZeroBase渋谷でポップアップストアを展開し、日本の消費者が当社の商品をどう受け止めているのかを調査しました。3週間ほど営業した結果、マムズタッチのバーガーを再び食べたいという人が多く、リピート率96%でした」
これを受けて日本市場に本格進出を決めたという。1号店は渋谷にこだわらず、銀座、新宿など東京を象徴するような場所を探した。結果的に、渋谷で何十年も営業していたマクドナルドが閉店し、場所が空いたため、ポップアップストアと同じ渋谷に開店することになったのだ。キム社長は、1号店の運営に関して「キーワードやテーマを設定した上で、それをプッシュする方法は避けたいと考えていた」と明かす。
「例えば、韓国のアイドルが『マムズタッチのバーガーを食べていますよ!』的な宣伝方法は避けたいと思いながら運営してきました。なぜなら、味そのものを認めてもらえるかどうかを見極めたかったからです」
つまりアイドルのファンのような一見さんは、短期的に高収益を得やすい一方、長期的には不安定な顧客にもなり得る。しかし、もし味そのものの独自性が認められれば、常連客がつく。すると安定した売り上げが出せるのだ。
日本市場向けの独自メニューも販売し、どんな味付けが日本人客に刺さるのかも研究した。その間、店舗の拡大はしなかった。つまり1年間、実店舗を利用して、より詳細な市場調査をしたとも言える。
現実の1号店の売上高も好調だった。マムズタッチによると、オープンから1年間の売上高は、日本マクドナルドの店舗年間平均売上高の約2倍、モスバーガーの約7倍の水準を記録したという。キムCEOは短期的な売り上げよりも、味にこだわる理由を話す。
「韓国のQSR(Quick Service Restaurant=ファストフード店のこと)が日本に初進出し、話題性があったからでしょう。ただ、(最初のうち好調な)オープン景気は2週間から1カ月が普通で、長くも3カ月間です。オープン景気が終わった後も売り上げを維持できるかが重要。売上高を1年間維持してこそ、お客さまに認められたという意味になります」
一方で、グローバルスターであるLE SSERAFIMをブランドアンバサダーに起用しており、店頭にいくと彼女たちのパネルが飾られている。韓国モノを押し出したくないという先ほどのコメントとは矛盾しているようだ。
「いい質問です。本当は(K-POPの)『K』を連想させたくないんです。それでも『韓国No.1バーガーブランド』とうたうのは、今のタイミングでは、それを使わないと来店してもらえない現実があるからです。マクドナルドのように日本人に浸透した後は、(「韓国から来た韓流」という意味での)『K』を取っていきたいです」
理想と現実のはざまで苦悩する経営者の正直なコメントだろう。
社長自ら出店候補地に足を運ぶ
2025年で数十の加盟店と契約するのは、なかなか野心的だ。「まずはマスターフランチャイズというパートナーになってくれる企業を探す」という。
「そこから拡大する方法と、直営店とのハイブリッドでやろうとしています。現実的には2025年内に、10店舗くらいの契約をしたいですね」
渋谷店をオープンしてからは1年間、店舗の拡大を図らなかった。これからは拡大路線に移らないと、第3者の目には「売れていないのかな?」と見られる可能性もある。店舗網を広げる方向にシフトしていく上で、出店場所を見極めるポイントは何なのか。
「出店先では、売上高を確保することと、ブランドイメージを向上させる必要があります。売上高を重視するならば、流動人口が多く、居住人口も多い商店街のような場所がいいと思います。一方で全国的な認知度を高めたいのならば、利益や売上高は二の次です。東京・丸の内や銀座、新宿などで、ある程度、賃貸料も無視して大規模な店舗を運営することが効果的です。私は両方の戦略で、進めていくつもりです」
キム社長によると、2号店は原宿、3号店は下北沢を予定しているという。まずは若者に訴求したい戦略に見える。
「そうです。短期的なブランドイメージ向上と認知を広げるには、若者から入ると早く広まるからです」
原宿の物件を探している時は、神奈川県・茅ヶ崎も視察していたという。インタビューの数日前には相模原市の相模大野を訪れ、より生活圏への進出を模索していた。日本のベッドタウンは、韓国のベッドタウンより約2.5倍の人口があるという。かつファシリティもしっかりしていることから、マムズタッチとしては、多くの街が候補地になるようだ。
「ツートラックで攻めるためにも、何度も同じ物件を見に行っています。平日に行くときもあります。朝、昼、夕と見に行く場合もあります。もちろん、ライバル店の運営状況、例えばスターバックスがあるかどうかなども確認しています」
コンビニもライバル
住宅地になればなるほど、常連客の重要性が増す。キム社長は「フランチャイズビジネスが成功するには、リピーターがいないと成り立たない」と話す。
「人間は1日3食に加え、コーヒーやスイーツなども楽しみます。人が毎日反復する行為の枠内に、マムズタッチが入っていないと生き残りが難しいと考えています」
例えばマクドナルドは、食事をするため、コーヒーを買うため、友人と雑談するためなど、多様な使われ方がされている。人の日常的な動きの中に、マムズタッチはどのようにすれば入っていけるのかを、常に思案しているという。
人の動きという意味では、日本で発達しているコンビニはライバルになるのか? しかも、最近のコンビニは、ファミリーマートのファミチキやローソンのまちかど厨房のように、店内で調理した出来立て商品の販売に力を入れている。キムCEOは「はい、コンビニは大きなライバルです」と認めた。
外食産業を経営する上で重要なのは、1番目においしさ、2番目に空間の提供だと考えている。
「とりあえず空腹を満たしたいのならコンビニです。一方マムズタッチは店内で食べられるので、『今日はおいしいものを食べたい』と思ったら当店です。コンビニの価格に、プラス100円、200円を出して、当店を選んでもらえるようにする努力が必要です」
マムズタッチは(特定の地域で開発力を有する事業者に、その地域内でのフランチャイズ展開を一括で任せる)マスターフランチャイズを探している。フランチャイズビジネスをしたいと考えている企業にとって、数ある外食チェーンの中でマムズタッチを選ぶメリットはどこにあるのか。日本市場には、マクドナルド、ケンタッキーフライドチキン、ロッテリアなど競争相手が多く、どこもおなじみの企業ばかりになっている。市場が成熟している分、競争も激しい。
「今、マスターフランチャイズをやってくれる候補の企業と、コンタクトを取っているところです。当社は韓国に1460以上の店舗があり、オペレーションシステムや物流ネットワークを確立しています。海外に展開していることも強みだと考えます。フランチャイズをやろうとする企業にとっては、まさに新しい選択肢になると思います」
大胆さと慎重さ
キム社長は、大学院卒業後、市場調査会社で勤務した。その後のマクドナルドではQSRのビジネスについて学んだ。SAMSUNGでは一転して電子無線に携わることに。ファンドを立ち上げた経験もあり、ビジネスの酸いも甘いも知っている。
大事にしているのは「どれだけ頑張ったではなく、結果を出すこと」だという。「一生懸命に頑張ることは重要ですが、それだけでは意味がありません」と話す。厳しいビジネスの世界で生きてきた経営者ならではの回答だ。
相模大野を訪れるなど、結果を出すために自ら積極的に動く。日本進出にあたり、ポップアップだけでなく、進出後も、すぐには拡大路線に走らなかった。その意味では慎重な動きもできる。硬軟を自在に使い分けるバランスの良さを生かし、目標に達することができるか。答えは数カ月後に分かる。
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