地方百貨店にイオン、無印、100円ショップ――“異色テナント”で生き残る現場の工夫:中編(3/3 ページ)
前・中・後編3回にわたって、人口20万人以下の地方小都市(東京・埼玉・大阪・兵庫など大都市圏除く)に立地し現在も営業を続ける百貨店20店舗の特徴を調査し、それらの営業努力の様子を見ていく。中編では、百貨店の主業である「小売業」に焦点を当て、地方小都市に立地する地方百貨店のテナントや経営の特徴を見ていきたい。
“救世主”になれなかった百貨店DX──それでも挑戦は続く
今回取り上げたような地方百貨店の共通の悩みとして挙げられるのが「人気ブランド・テナントを確保できない」ことだ。特にアパレル不況やコロナ禍、さらに競合店との競争激化などにより、近年は地方百貨店から人気ブランド・テナントの撤退が相次いでおり、人気商品は地方に入荷されづらい場合がある。
そうした悩みを解決すべく、かつて地方百貨店各店が大手企業とタッグを組んでDX化・オムニチャネル化に取り組んだことがあった。その取り組みの中核を担ったのが、2019年にアパレル大手のストライプとソフトバンググループの合弁会社である「ストライプデパートメント」が立ち上げた「DaaS」事業だ。
DaaSとは簡単にいえば「地方百貨店向けの百貨店商材ECサイトプラットフォーム代行サービス」。DaaSは加盟する百貨店各社の屋号を冠したECサイト(百貨店側のイニシャル・ランニングコストは0円)に送客することで手数料収入を得るビジネスモデルを特徴とし、多くの地方百貨店が加盟するに至った。また、一部の加盟百貨店には実店舗のポップアップショップを出店し、ECサイトへの誘導もおこなわれた。
しかし、DaaSはわずか3年後の2022年に全事業を終了、取り組みは失敗に終わってしまった。
そもそも、地方百貨店であっても天満屋、トキハ、山形屋などは本店がある程度大きな規模であり、中小支店であっても館内にあるサービスカウンターやギフトサロン、外商などを通せば本店の豊富な商品を取り寄せ、百貨店ならではのアフターサービスを受けられる。
各百貨店に設けられたECサイトのポップアップショップには、地方百貨店ではあまり売られていないような高級ブランドなどを店頭に並べていたものの、あくまでも店頭は「ショールーミングのためのもの」。実際に陳列されている商品を買うには、実店舗に居ながらもDaaSを活用したストライプデパートメントのECサイトに登録して注文する必要があった。そのため、百貨店内の実店舗でありながらも「百貨店でのお買い物感」を得られるとは言い難かった。
地方百貨店のDX化・オムニチャネル化をめざした「DaaS」が失敗に終わった一方で、三越伊勢丹のように、中小店舗では館内にある端末で旗艦店の商品を見ながら取り寄せることができるリモートショッピングシステムを導入している例もある。
現在、多くの地方百貨店は大手百貨店(三越伊勢丹や高島屋)と提携関係にある。今後、地方百貨店にもこういったシステムが導入され、さらに大手百貨店とも接続されることで、全国各地のあらゆる百貨店で、百貨店らしい接客を受けながら顧客がさまざまな百貨店商材を直接取り寄せることができるという未来もくるかもしれない。
一方で、調査対象とした地方百貨店は、ほとんどの店舗・企業が自社ECサイトの開設や大手通販サイトへの出店をおこなっており、なかには地元の銘菓・銘酒、生鮮をはじめとした人気の特産品をPR・販売することで、これまで商圏ではなかった顧客へのアプローチを図っている店舗もある。
一例を挙げると、今回調査対象となった店舗を運営している企業では、中国地方に展開する「天満屋」は備前焼やシャインマスカット、大分県に展開する「トキハ」はカボス、鹿児島県と宮崎県に展開する「山形屋」はマンゴーをそれぞれ自社通販でオススメする――といった具合だ。
こうした「地方百貨店各社のECサイトが乱立する」という状況を受け、今回の調査対象店舗でもある「JU米子高島屋」(鳥取県米子市)は、2024年に立ち上げた山陰の地元産品を中心に品ぞろえする自社系ECサイト「百貨店ドットコム」を、他社百貨店も参加する形にして拡大することも視野に入れているという。
もちろん、こうした「地元産品・贈答品の販売」のみならず、地方ゆえネットスーパーや買い物代行サービスを行うことで店舗にアクセスしづらい層への利便性を図っている百貨店もあり、現在残っている地方百貨店では「完全に時代に取り残されたような店舗」はごく少数だ。
中編では、地方小都市の百貨店における「小売業の現状」を見ていった。
営業を続けている多くの百貨店がデパコス(百貨店向け化粧品)など「百貨店らしい売り場」を維持しつつも、不採算売り場の縮小に合わせてショッピングセンターのような場所貸し、もしくは自社によるFC運営により、大手雑貨店など「地域に足りない店舗」「地域に唯一の店舗」の誘致をおこなうことで「時代に合った売り場」への再構築を進めていることが分かった。
また、集客の要といえる食品館(いわゆるデパ地下)では「スーパーマーケット業態」と「銘菓・銘店」のどちらの売り場も設けるなど、客層や来店頻度を狙う施策によって「商圏人口の少なさ」をカバーしており、こうした「どこにでもある店」+「ここにしかない店」の双方をうまくミックスすることで、ライバルとなり得る郊外型ショッピングセンターなどとの競争に打ち勝とうとする姿勢もみられた。
もちろん、百貨店の客層拡大のカギとなるのは小売のみではない。百貨店といえばモノを売る以外にグルメを楽しむ場や、地域のコミュニティー活動の場となるなど、さまざまな機能を備えていることが多い。なかには、地方小都市の百貨店では大都市圏の百貨店では見られないような「不思議なテナント」を導入している店舗も少なくない。
後編では、地方小都市の百貨店の「モノを売る」以外の機能や、経営の特徴などを中心に見ていきたい。
参考文献:
東洋経済新報社「大型小売店総覧」(各年版)
ストアーズ社「ストアーズレポート」(各号)
ストアーズ社「百貨店年鑑」(各年版)
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