「買い物だけでは生き残れない」 足湯もオフィスも抱え込む、地方百貨店の生存戦略:後編(2/2 ページ)
前・中・後編3回にわたって、人口20万人以下の地方小都市(東京・埼玉・大阪・兵庫など大都市圏除く)に立地し、現在も営業を続ける百貨店20店舗の特徴を調査し、それらの営業努力の様子を見ていく。後編では、地方中小都市の百貨店の「モノを売る」以外の機能に注目していこう。
空きフロアが企業オフィスに変身――地方百貨店が担う新しい役割
地方の百貨店は、小売り業ではない一般企業のオフィスや公共施設・公共機関が入居している例も多い。調査対象店舗のうち大型オフィス、もしくは公共施設・公共機関を入居させている百貨店は半分にあたる10店舗に及ぶ。
もちろん最初から公共施設との合築で建築された百貨店もあるのだが、近年は不振となった売り場や退去した店舗の跡地に大型オフィスや公共施設をテナントとして入居させている例が増えてきている。
地方中小都市では、既存のオフィスビルがあったとしても高度成長期に建設された古い建物が多く、特に大企業やコールセンターなどに対応しやすい大型フロアが確保できるものは少ない。一方で、昨今は建築費が高騰し、オフィスビルの新築・建て替えが難しい現状もある。それは公共施設でも同様だ。それゆえ、地方都市では百貨店内の空き店舗がオフィスや公共施設の受け皿にもなっているのだ。
飲食街の一部がオフィスに変身した「ツインモールさくら野百貨店北上店」。営業を続けるレストランの向かいには「東京エレクトロン」の看板が。当然、売り場とは完全に区切られており中の様子をうかがうことはできない(撮影:若杉優貴)
買い物難民を救え! まさかの実質「公営百貨店」も
大都市の人にとっては信じられないことであろうが、百貨店の建物を行政、もしくは行政機関が出資する第三セクター企業が所有している「建物公設/半公設」のデパートが20店舗中5店舗あった。そのうち3店舗は、公共施設を併設した複合再開発ビルへの出店。また2店舗は最初に出店していた百貨店が閉店、建物を再生するにあたって市が買収、もしくは無償譲渡を受けたものだ。
「市の建物に出店するデパート」として有名なのが、蔵の町として知られる栃木県栃木市にある「東武宇都宮百貨店栃木市役所店(東武栃木店)」。建物はどう見ても百貨店なのであるが、百貨店は下層階のみで上層階は市役所の本庁舎となっている。
東武栃木店の建物はもともと栃木県宇都宮市に本店を置く「福田屋百貨店栃木店」だったが2011年に閉店。建物の無償譲渡を受けた栃木市は、老朽化していた市役所を旧百貨店の建物に移転させるとともに下層階にテナントを公募。その結果、市役所の下層に東武百貨店(グループの「東武宇都宮百貨店」運営)が出店することとなったわけだ。この東武栃木店は狭いながらも衣食住のフルライン。飲食店も入居しており、蔵の町に近いことから観光拠点にもなっている。
さらに驚くべきことに、市が主要株主となっている第三セクター企業が運営する、実質的に「公営百貨店」となっている例も2店舗ある。
北海道北見市にある「北見パラボ」は、撤退した「きたみ東急百貨店」の建物を北見市が買収、第三セクター企業「まちづくり北見」が再生させたもの。日本百貨店協会は脱会したものの、東急百貨店の多くのショップ・テナントを引き継ぐかたちで運営されており、一部フロアは駅直結という立地を生かした公共施設となっている。
また、もう一つの「ツインモールさくら野百貨店北上店」は、もともと「さくら野百貨店」(青森市)の直営支店であったが、経営難から2023年に入居する再開発ビルを管理・運営する第三セクター企業「北上都心開発」がさくら野百貨店のFC(フランチャイズ)として運営する形態に変わった。
北上市は企業進出が盛んな地域であるため、百貨店業態を維持しつつも行政とタッグを組むかたちで館内に大型オフィスの誘致を進めるとしており、商業施設面積を圧縮するリニューアルを実施中だ。なお、北上市によると同店は2025年10月までに市が第三セクターから建物を取得、運営体制を刷新する予定となっている。
大都市在住者からすれば「商業施設に税金を投入するなんて!」と驚くかもしれないが、大型施設が少ない地方都市では、百貨店が「買い物難民を生まないための防波堤」や「文化活動の場・コミュニティースポット」、さらには「企業オフィス・公共施設の受け皿」「気軽に使える大型駐車場」などといったさまざまな役割を果たしている。そのため、税金を投入してでも「既存の商業施設(百貨店)を生き永らえさせたほうが合理的であり、公共の福祉の理にかなう」という例も少なくないのだ。
ここまで、前中後編の3回にわたって地方小都市で奮闘を続ける百貨店の特徴を見てきた。
現在も営業を続ける地方中小都市の百貨店の多くは、「百貨店」としての売り場をある程度維持しつつも、郊外店との競争に打ち勝つために、地域唯一となる集客力が高いテナントの導入はもちろん、大都市の百貨店ではあまり見られないような「コト消費/トキ消費」を導入。地域で数少ない「大型オフィス」としての機能を担うなど、さまざまな努力により時代・地域にあった形の店舗へと生まれ変わり、「存続すべくして存続している」店舗が多いといえる。
とはいえ、営業を続けている多くの百貨店は少子高齢化が深刻な地域にあるがゆえ、これからも厳しい経営環境にさらされ続けることは避けられない。今後はいかにして従来顧客となり得なかった層を取り込むかが大きな課題となってこよう。
もし地方都市で百貨店を見かけたならば、店内に入って地域ならではのお土産を探しつつ、その経営努力を実感してみてほしい。
参考文献:
東洋経済新報社「大型小売店総覧」(各年版)
ストアーズ社「ストアーズレポート」(各号)
ストアーズ社「百貨店年鑑」(各年版)
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