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「AIで憧れの選手と2ショット」 米スタートアップが日本展開、その勝算は?

AIの普及によりIPや「人間らしさ」の価値は高まっているものの、その利用条件や権利処理の複雑さは依然として大きな壁となっている。この難題に挑むのが、2023年にシリコンバレーで設立されたスタートアップZooly.aiだ。共同創業者兼CEOに、今後の展開について話を聞いた。

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 生成AIの進化は加速し、誰もが瞬時にあらゆるコンテンツを生み出せる時代となった。一方で、著名人の声や肖像、アート、音楽といった知的財産(IP)をいかに保護し、公正に収益化するかは、世界中のクリエイターや企業、プラットフォーム事業者に共通する課題だ。AIの普及によりIPや「人間らしさ」の価値は高まっているものの、その利用条件や権利処理の複雑さは依然として大きな壁となっている。

 この難題に挑むのが、2023年にシリコンバレーで設立されたスタートアップZooly.ai(以下、「ズーリー」)だ。ズーリーは、権利者とAI企業・クリエイターを直接つなぎ、有名人や企業のIPを迅速かつ公正に活用できるプラットフォームを提供している。

 同社はすでに、世界有数の音楽ライセンス企業の米APM Musicや、AI音声生成のユニコーンである米ElevenLabsをはじめ、世界100社以上のAI企業と提携。NBAのシカゴ・ブルズやNHL(ナショナル・ホッケー・リーグ)のタンパベイ・ライトニング、NLL(ナショナル・ラクロス・リーグ)のオタワ・ブラック・ベアーズとも協業し、実績を積み上げている。AIとIPを融合させた独自のファンエンゲージメントサービスを米国で展開しており、今後、日本市場でも本格展開していく。

 ズーリー共同創業者兼CEOのジョナサン・グリフィット(Jonathan Griffit)氏に、そのビジョンと今後の展開について話を聞いた。


ズーリー共同創業者兼CEOのジョナサン・グリフィット (Jonathan Griffit)氏

NBAシカゴ・ブルズと連携 日本市場での可能性は?

 共同創業者兼CEOのジョナサン氏は、イスラエル出身の連続起業家だ。14歳でコンピューター教育事業を立ち上げ、19歳の兵役中に起業。2004年には法務契約書の機械学習サービスを立ち上げるなど、10年以上にわたりAIの最前線を走り続けてきた。

 「美術家の父のもとで育ち、幼い頃からクリエイターの権利を守る重要性を肌で感じてきました。AIは創造性を大きく広げる一方で、無断利用や収益機会の逸失といったリスクも生みます。だからこそ、その両立を可能にする仕組みが必要だと考えます」

 彼が描く未来は、国境や言語、煩雑な契約手続きに縛られず、世界中のクリエイターとブランドが迅速かつ公正にAIとIPを活用できる世界だ。社名「Zooly」は米国英語のスラングで「素晴らしい」「クール」を意味し、“クールなAI”を象徴している。

世界を束ねるネットワーク

 ズーリーの強みの一つは、AI業界とエンタメ業界の双方に広がる強固かつ実績豊富なネットワークにある。ジョナサン氏はシリコンバレーで10年以上にわたりAI分野の最前線を走り、GAFAMや有力AIスタートアップとの直接的なコネクションを築いてきた。

 さらに、共同創業者にはワーナー・ミュージックなど世界的なレーベルとの太いパイプを持つ人物や、スヌープ・ドッグやウィル・アイ・アムといった世界的アーティストのSNS運用経験者が名を連ねる。アドバイザーには 、ジャスティン・ビーバーのプロデューサー をはじめとするエンターテインメント界の第一線で活躍する人物が加わっているのだ。

 こうした強固なネットワークが、世界中のAI企業とIPホルダーを一つのプラットフォームに集約し、壮大なスケールでの事業展開を可能にしている。


AI動画生成サービスPhotoBomb(フォトボム)

全てのクリエイターのためのAI×IPプラットフォーム

 ズーリーは、あらゆるAIとIPを組み合わせたコンテンツを、誰もが迅速かつ公正に制作できるプラットフォームを提供している。IPホルダーは利用条件と料金を設定するだけで、AIエージェント「Zee」が承認から利用、収益分配までを自動化する。複数のIPホルダーが関与する場合でも、あらかじめ定められたルールに基づき収益が即時に分配され、全ての利用はIPホルダーの承認を経て実行される。また、AIが常時監視することで不正利用を防止する。

 一方、クリエイターに対してはAdobeなどの制作・編集ツールやSNSプラットフォームに統合されたZoolyのオープンチャットを通じて、コンテンツ生成から支払い、ライセンス契約までをその場で完結できるようにした。この仕組みにより、IPホルダーは著作権を守りながら、収益の最大化を図ることができ、クリエイターは国境・言語・契約手続きの壁を越えてコンテンツ制作・配信を行うことが可能となる。

 さらにズーリーは、世界中の100社以上のAI企業と提携し、最新の生成AI技術を活用できる環境を提供している。これにより、AIとIPの両方を最大限活用したコンテンツ生成を、従来にないスピードとスケールで実現する。


ズーリーのAIエージェント「Zee」

AI×IPを活用したファンエンゲージメントサービス

 Zoolyは現在、AIとIPを掛け合わせたファンエンゲージメントサービスも展開している。主なサービスは以下の3つだ。

  1. PhotoBomb(フォトボム):ファンがイベント会場、試合会場、テレビ配信画面、Webサイトなどに設置されたQRコードをスキャン、またはリンクをタップし、自撮りを一枚撮影・アップロードするだけで、有名人やアスリートと一緒に映るAI画像や動画を即時に受け取ることができるサービス。
  2. BackStage(バックステージ):ファンがイベント会場、試合会場、店舗、Webサイト、テレビ配信画面などに設置されたQRコードをスキャン、またはリンクをタップし、AIの有名人やキャラクターと会話できるサービス。
  3. DailyVibes(デイリーバイブス):有名人やキャラクターから毎日名前入りのメッセージや音声を受け取れるアプリ。

NHL(ナショナルホッケーリーグ)タンパベイ・ライトニングと実施した、マスコット「サンダーバグ」を起用した限定フォトボムの利用方法の紹介

NBAシカゴ・ブルズでの成功事例

 2025年3月、ズーリーはNBAのシカゴ・ブルズと連携し、マスコット「ベニー・ザ・ブル」を起用した限定フォトボムキャンペーンを5000人のファン向けに実施した。本施策は、米国の大手レンタカー会社Sixt(シクスト)の協賛により実現した。会場のスクリーンに表示されたQRコードをスキャンし、自撮り写真をアップロードすると、ファンは即座にマスコットと共演するAI生成動画を受け取ることができた。

 結果として、SNSでのシェア率が60%を超え、推定20万回以上の視聴を記録。さらに、スポンサーのWebサイト訪問数を10倍以上に押し上げ、圧倒的なマーケティング効果をもたらした。


NBAのシカゴ・ブルズと連携し、マスコット「ベニー・ザ・ブル」を起用した限定フォトボムキャンペーンを5000人のファン向けに実施した

日本市場での展開と可能性

 ズーリーは、まずはファンエンゲージメントサービスを中心に日本での事業展開を本格化させる予定で、現在活動を開始した。今後は、国内のAI企業やIPホルダーと連携し、スポーツや音楽コンテンツに加え、アニメ、漫画、ゲームなど日本特有のIPを活用したサービスを推進していく方針だ。

 「日本は世界最高レベルのIP資産を持つ国。AI時代の新しいプラットフォームがその価値を最大限に引き出し、世界のコンテンツ流通を変えていく」とジョナサン氏は語る。

 日本発コンテンツの海外売上高は年間5.8兆円規模に達し、アニメや漫画、ゲームなどは世界的に高い需要を誇る。AIコンテンツ時代の新たな社会インフラとして、世界のみならず日本のIP産業にも革新と成長をもたらす可能性を秘めているズーリーから、今後も目が離せない。

著者紹介:平野貴之

ベアーレ・コンサルティング株式会社 代表取締役社長(CEO)。

イタリア・オリベッティ社に入社し、英国ケンブリッジ大学との共同最先端技術の部隊「マルチメディアタスクホース」に選ばれ、NTT、日本IBMなど最先端技術販売に成功し、社長賞、トップセールスなど多数受賞。その後、日本初上陸最先端テクノロジーに魅かれ、米国DirecTV技術を利用した通信衛星インターネットサービス会社の立ち上げに設立から従事し、ソニーミュージック、ソフトバンク(当時、日本テレコム)、日立電線などから3億5000万円の出資を受け新会社ダイレクトインターネット社設立に成功。

日本をはじめ、香港、マレーシア、インドネシア、シンガポール、オーストラリアなどグローバルビジネスデベロップメントも経験。

最先端テクノロジーを誰でも、いつでも、どこでも利用できるような、豊かな未来創りに少しでも役立っていきたい、もっとスピード感のある日本社会、そして幸せな生活プラットフォーム作りを支援し、提供していくために、1996年ベアーレ・コンサルティング株式会社を設立。

イスラエルビジネスのパイオニアとして、2001年からイスラエルハイテクスタートアップ企業への支援事業をスタート、現在も支援事業を拡大中。

ベアーレ・コンサルティング株式会社の公式サイト

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